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窪美澄『夜空に浮かぶ欠けた月たち』を読んで|どれだけ傷ついても、心は回復する


概要

東京の片隅にあるごく普通の二階建ての一軒家。夫婦が営むメンタルクリニックだった。
それぞれの世代がそのときに持つ悩みを打ち明ける。
見ている世界が違うから悩みもそれぞれ違う。
精神科医の夫・旬(じゅん)とカウンセラーの妻・さおりが患者の心に寄り添う。
傷ついた心がゆっくりと回復していく癒しの物語。

作品を書くに至った背景

「心のケアについてアプローチをする物語。〝心の病院〟という設定を物語のなかにつくり、いろんな症状を持つ人々が現れてくる小説を書きたいと思いました」

BookBang


読んだ感想

各章の主人公の悩みと重なる部分が多く、わかる、わかるよと大きくうなずきながら読んだ。

誰だって無理を重ねたら、心が疲れてしまう。みんな自分の人生に完璧を求めてしまうかもしれないけれど、そうするとどうやっても心に無理がかかるの。ほどほどでいいんだよ。人生長いんだから。

夜空に浮かぶ欠けた月たち P70

前職のとき、そうだった。
いつも完璧を求めて、上司の顔色をうかがって。
新しい職場には馴染めず、自分の心を開ける人もいない。
気さくに話してみようと心がけてみたけれど、相手との間にはアクリル板があるみたいだった。見えるけど、壁がある感じ。
仕事上の関係だから必要以上に関わることはないが、なんだか寂しいものだった。

周りの人からはしっかりしてそうとか一人でも大丈夫そうと言われることが多かった。
本当はそんなことない。
人にどう思われるかに気になるし、仕事がどう評価されるか常に考えていた。
正解がわからなくて、正解を求めて、空回りしていた。
つらかった。本当にしんどくて、しんどくて、一人になりたくて、でも本当の一人になるのはこわかった

ああ、あのときこの本に出会っていたら、もう少し心は楽になっていたのかなと思う。


とにかく眠りたかった。深く深く。もう体も心も限界だった。

『夜空に浮かぶ欠けた月たち』P96

共感度マックスの一文だ。
こういうとき、自分では気づかない。
体が動けなくなって、初めて異変に気づく
脳は騙せるけれど、体は正直だ。

その証拠に、あの夏の日。たしかに私の体は動かなくなったのだから。
通勤電車に乗り込もうとしても足が一歩も動かない。
体は悲鳴を上げていた。
そのときにもう、心は死んでいた。

その日の夜、「もう…こころがつかれた…」と一晩中泣いた。
絶対に忘れない。

印象的な一節

人生ってね、何度でも、どこからでも、もう一回始められるんだよ。

『夜空に浮かぶ欠けた月たち』 P145

さおり先生の言葉に、新しい人生を始める勇気をもらった。
そうだ、心が回復すればどこからでも何度でも始められる。
ゆっくりでいい、今できることをやろうと、思えたから。

まとめ

心のつまりが取れると、回復していくことを実感している。
完璧主義な人、頑張りすぎな人、大丈夫じゃないのに大丈夫と言ってしまう人…
つい完全な丸を目指してしまう人は、少し足を止めてみてほしい。
たまにはゆっくり休んで、自分を甘やかしてもいいんじゃないかな。

自分では欠けていると思っていたとしても、他の人が光を届けてくれる。
そういうふうに、補い合いながらこの世界はできている。
だから、だいじょうぶ。





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