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朝ドラ「虎に翼」の弁護士考察・第19週(美佐江の問いかけ)

第19週では、ついに、美佐江の闇が明らかになってきました。美佐江が寅子に問いかけたあの言葉。今後、ドラマの展開にどう繋がっていくのでしょうか。


美佐江の問いかけ

「佐田先生は心から納得する答えが出せます? どうして悪い人からものを盗んじゃいけないのか。どうして自分の体を好きに使ってはいけないのか。どうして…人を殺しちゃいけないのか」

ミサンガ女子高生、美佐江が、寅子に対して伝えたこの言葉。結局、寅子は、美佐江に対して、「スッキリさせる」答えを伝えられませんでした。

美佐江は、この言葉を残した後、東京大学に進学し、新潟の地を去ります。

なぜ罪を犯してはいけないのか?

当たり前のことほど、説明が難しいことはありません。数学でも、「1+1=2」の証明は難問といわれますが、「なぜ罪を犯してはいけないのか?」も、この証明と甲乙付けがたい難問です。

この問題について、刑法では、「他人の法益を侵害したこと」から説明するアプローチと、「社会規範に反すること」から説明するアプローチがあります。とはいえ、「法益」も「社会規範」も、結局のところは、法律が作り上げたフィクションです。これだけでは、美佐江をスッキリさせる答えとはいえないでしょう。

「人の物を盗んではならない」「人を殺してはならない」ことは、他人に不利益を与えることが明確ですので、なんとか説明できそうです。

「どうして自分の体を好きに使ってはいけないのか」は難問です。たしかに、自分の体をどう使うかは、自分で決めてよいという論拠も成り立ちうるからです。「自分の体を好きに使ってはいけない」理由を説明するには、社会秩序の話や、児童福祉の話を持ち出すほかありません。ただ、「社会秩序」も「児童福祉」も、法学が生んだフィクションに過ぎないわけです。

まさに、美佐江の質問は、「法とは何か?」を尋ねるものです。これはかつて、学生時代に寅子が山田よねと議論したテーマであり、桂場から問われたテーマでもあります。

寅子が、裁判官としてこれだけの経歴を積んだうえでも、「法とは何か?」に対する答えを導けていないことが、美佐江の問いかけを通じて浮き彫りになりました。

少年法のあり方

美佐江は、少年法のあり方にも関わる存在として描かれているように思いました。

「なぜ罪を犯してはいけないのか?」への答えを導くために、多くの少年の心理を支配して、非行の道へと進ませる美佐江。

裕福な家族と才能に恵まれ、優等生としての道を歩んできた美佐江が、なぜ犯行に及んだのか。そこには、少年期ならではの心理が大きく絡んでいるように思います。

法に対して疑問を覚える美佐江に、どれほど刑罰を与えても、更生にはつながりません。

むしろ、美佐江を更生させるためには、刑罰よりも、犯行に至った心情に寄り添う教育的・心理的サポートのほうが重要です。そのような役割を担うのが、少年法であり、家庭裁判所でもあります。

戦後、少年法は、少年犯罪を刑事事件として処罰しやすくする方向に、何度も改正を重ねられてきました。このような流れに苦言を呈していた1人が、家庭裁判所の父、多岐川裁判官のモデルである、宇田川潤四郎でした。

美佐江とのエピソードは、今後、少年法改正問題へとつながる伏線ではないかと思いました。

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