人生で初めて占いを受けたお話
これは数日前、日記に記した文言。
骨折してお仕事を辞めてからも失業手続やら自分の展示やら、結構ノンストップで動き続けていたが、ふとした瞬間に「あれ…?」という奇妙なフリーズ状態が頻発するようになっていた。
それはまるで自分の胸奥に、何かずっと置き忘れてしまっている存在が居るような。貴女は誰なの?どうしてそんなに小さく縮こまっているの?
それを知覚すると途端に身体の力が抜け、ベッドに倒れ込んではよく分からない涙が暫く止まらなくなる。
自分自身でこの状態をとき解すのは何だか難しいような気がした。けれどもこんな漠然とした心の揺らぎについて、例えば病院の先生に相談するような事でもないし、心理カウンセリングを受けるなんて方法も大袈裟なように思えた。そこで人生で初めて、占いを受けて見ようと考えた。
信じているとか否とかそういう事さえ考えたことさえない、はっきり言ってほぼ無興味の領域だったが何故かその時、『全く親しみのない秩序から導き出された助言を受けてみる』という選択に妙な正当性を感じた。
予約時に占い師さんに伝えていたのは、母子手帳に記された正確な出生場所と出生時間、自分の本名だけであった。予定時間ぴったりに伺うと、たったそれだけの情報から導き出された分厚いデータ資料の山がどさりと目前に置かれ、一瞬ひやっとした。緊張を解きほぐすように少しずつ、ゆっくりとカウンセリングが始まった。
占術上での自分の気質や特徴を一通り説明を受けたのち、彼女が放ったのは、『ご両親がとにかく“強い”、お母様との関係性はどうでいらっしゃるの?』という言葉だった。あまり気に留めたことのない事柄ではあったが、『少女時代から交友関係が極端に希薄なのもあり、同世代の女性よりは母との関係は強いかもしれません。ランチをしたり、一緒に買い物にいったりするのも大体、母です』と淡々と今ある事実を答えた。
すると、『それ以前は?』と彼女は尋ねた。
それ以前?つまり、段々と他者とのコミュニケーションに障壁を感じるようになり、母とばかり遊ぶようになっていった、それ以前のこと?
『小学生のとき、学校から帰ったら5.6時間、夜まで母からピアノの特訓を受けていました。彼女はピアノ教師でしたから。』それを聞いて、占い師さんは何やら合点がついたようであった。
『愛情がとても枯渇している、と出ている。自閉症を持っていらしゃるということだけど、元々そこまで閉塞的な性格ではないと思う。けど、子供って自分がどういう状態にいるかを訴えることは出来ない。本当は素直な心があるのに、段々と自分を〈閉じてゆく〉方向性に自分を追い込んでゆくしかなかったんじゃないかな』
何故だかみるみると、色々な記憶が蘇ってきた。
毎晩遅くまでピアノを掻き鳴らしては怒られ続ける自宅での生活の反面、小学校では担任の先生の言うことを聞かなかったり、幼い頭で同級生を理詰めしたり、極端な動向が増えていった。その度に母は学校に呼び出されていた。
中学生に上がった頃には10も歳上の塾の先生と交換日記を重ねてこっそり付き合い出したし、高校に入ると殆ど「会話」というものをしなくなった。日記帳一冊をどこにも持ち運んで、話し相手にした。自分のことを打ち明ける相手は段々も小さく、小さく、そしてそこに極端に自分の存在を凝縮して託すようになっていった。大学院を辞めて、好きでもない人と一度結婚もした。日々の哀しい気持には気付かないようにしていた、感情を押し潰して生活を続けた先、壊れたのは身体の方だった。
『離婚後、ずっと続けていた福祉の仕事を骨折して失職したのですが、あんまりに不思議な怪我だったんです。あまりの重労働が続いていた前日の晩、恋人にもう辛い、と相談していました。翌日、彼から変な面白動画が送られてきて、気が抜けてちょっと気持がほころんできたその直後です、部屋で突然ひっくり返ったのは』
然るべき時にそういう不思議な事が起こるものなの、と彼女は続けた。『今、貴女の中にずっと居た、小さな貴女の存在に気付いてあげれた。それをどうしてあげようとかは、無理に考えなくていい。ただ、自分の人生が辿ってきた過程をもう一度、見つめ直してあげたらいい。』
貴女は大丈夫、これからはとても上手くいく。
だから今は暫く、その子と一緒に休んであげてね。
気付いてないだろうけど、異常に霊感が強いので福祉の仕事は正直向いてない。ケアを必要とする人々と密接に関わるうちに、〈色々と貰って来てしまう〉し、無意識に引き合ってしまうので要注意。あととても男性にモテるだろうけど、確実にこれからもずっとモテるだろうから、苦手なら外国に逃げちゃう手もあるよ。
そんなちょっと不思議な?アドバイスもいただき、初めての占いは終了した。
どうしてあげるか、じゃないのかもしれない。
そうっとしておいてあげよう。
小さな貴女のことをもう、忘れさえしなければ
きっと本当に、大丈夫な気がした。
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