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【日本一周 九州編6】 飛梅伝説と謎の石像
・メンバー
明石、尾道
・太宰府天満宮動物彫刻談義 筆者:明石
九州国立博物館から太宰府天満宮へは、トンネル内を進む長いエスカレーターを降りていけばよい。内部はカラフルな照明によって彩られ、ワープゾーンさながらの光景である。
左手の壁には、九博で行われた歴代企画展のポスターがずらーり並んでいる。「これ行きたい!」と思っても、どれも遠い昔の出来事であるから生殺しの所業に身をやつすことになる。
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ところで、こういったポスターは昔のものほど色数が少なくて簡素なはずなのに、デザインやフォントによって強く心を惹きつけられるのはなぜだろうか。
昔のデザイナーは少ない手法を技術でカバーできるほどに優れていたのか、はたまた昨今の色にあふれた広告に慣れきった現代人はシンプルなつくりの方が心を打たれるのか、さては昔の活力に溢れた気風が魅了するのか。
ううむ、単に僕が岡本太郎信奉者だから、明瞭なパンチラインを求めてしまっているのだろうか。
ポスター談議であたまをくるくるさせていると、太宰府天満宮に到着していた。
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天満宮で祀られている菅原道真公が平安京から太宰府へと左遷させられたとき、京都の邸宅の梅の木は道真公を慕って九州まで飛来した。この梅にまつわる「飛梅伝説」の霊験あらたかな場所として知られる太宰府では、境内のいたるところに梅の木が植えられている。
京都の仁和寺を訪れたときとは異なり、そこここに咲きみだれる梅の花の馥郁たる香りは僕たちを誘った。
そのときの記事はこちら!
唐破風のかたちにあつらえられた美しい茅葺き屋根の本殿に参拝して、ひとまず「ここまでやってきた!」という実感を得ることができた。
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右手にはうわさの飛梅が見られたが、花は大方散ってしまっていた。九州国立博物館で知ったのだが、この梅が道真公を追って太宰府へやってきたとき、彼は当時として高齢の57歳だったという。歳をとってから移動は身体にもひびくだろうし、梅がお供したくなったのもうなずける。
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参拝所の脇にひかえる獅子は、白い体躯に大きな黒目がぎょろっとしていて可愛らしかった。土地柄か、毛流れがシーサーに近いものになっている。
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豆知識として、御神体を守る狛犬は、口を開いている阿形が獅子、口を閉じている吽形が狛犬というルールがある。また、狛犬は頭に角が生えているものも多い。
この二体の像を総称して狛犬と呼ぶのが通例だが、中には獅子二体のみで狛犬を構成するという不思議な神社もあるので、必ずしも原則というわけではない。
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さて、はなしを太宰府の獅子に戻すが、シーサーは獅子が沖縄でなまったものであるため、シーサーに似ている獅子というのはマックに似ているマクドという具合におかしなものである。
しかし、どちらも守護像ではあるものの、シーサーは家など、獅子は御神体などを守るという差別化がなされているため、両者を区別することもあながち不可能ではない。
よって、九州という沖縄に近い土地に鎮座する獅子が関東のそれと異なるのは至極当然であり、シーサーに似ている獅子がいたとしておかしくないのである。法令的日本語に頭をこんがらがらせられたところでお開きにする。
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もうひとつ気になったのは、入り口の鳥居をくぐって右手の灯籠の上にある石像だ。天守閣のシャチホコのように見えるが、石灯籠の上にいるのはあまり見たことがなかった。
シャチホコのシャチは海に棲むとされる架空の動物である(イルカ科のシャチとは異なる)。そのため、多くは防火を願って置かれるが、太宰府天満宮でもその意図でつくられたのだろうか。
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刻一刻と日は傾き、夕焼けに染まった表参道は閑散としていた。時間があれば隈研吾の設計した参道沿いのスタバで一息つきたかったが、そんな暇はありそうにない。せめてもと、天満宮にほど近い売店で名物の梅ヶ枝餅をひとつずつ買った。
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焼きたての梅ヶ枝餅は温かい。手にするだけで冷えた身体に滲みいる幸福なお菓子は、薄いモナカのような独特な生地で餡が包まれていた。僕らは博物館のキャプション群によって疲弊した頭に糖分を補給しつつ、駐車場へと戻った。
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