毎日超短話561「桜回線」 #毎週ショートショートnote
「声は一瞬で届くのに、桜前線はゆっくり北上するね」
開花宣言はまだ出ていないけれど、チラホラと桜が咲きはじめている。そのことを遠距離恋愛中の恋人に話そうと、電話をかけた。彼女の町に桜が咲くのはまだずっと先のことだ。
「ほんとだよ、声は一瞬なのにね。俺前線も一瞬で北上できたらいいのになあ」
ぼくがそう返事をすると彼女は、「一瞬で来れたら困るから」と笑った。浮気でもしてるんじゃないの? って冗談ぽく返す。
「してないよ、レディにはいろいろ準備があるんだから」
彼女の言い方は真面目なふうであって、とりあえずは安心した。そのあと「ゆっくり北上するのが、わたしたちらしいよ」と付け加えた。ゆっくりゆっくり友だちになって、ゆっくりゆっくり恋人になって、それからゆっくりゆっくり、これからどこに行くのかを考えていると、スマホに桜の花びらがやってきてそれがスマホの中に吸い込まれた。
「桜、一瞬で届いた」
彼女は「大好き」と、確かに言った。
久しぶりに参加させて頂きました〜🙇
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