【学校行事と配信】先生教えて!学校で迷わないための著作権の話④
有斐閣公式キャラクターのろけっとぽっぽーは悩んでいました。
出版社の公式キャラクターたるもの、”学校”という場での著作権について正しく理解しておきたい。
授業について第2回に教えてもらったけど、学校行事はどうなんだろう。
運動会や文化祭、今年はリアルでできるといいけど、オンラインを併用するとき、とくに知っておくといいことはあるのかな?
そこで、新刊『教育現場と研究者のための著作権ガイド』の著者のお一人、横山久芳先生(学習院大学教授)に質問してきました!
リアルでの「演奏」
Q1.先生、白状します! 文化祭で、CDのほかに、ネットからとってきた音源※をBGMとして使いました! あれも、ほんとうは許可をとらなきゃいけなかったんですか?
いえ、許諾は不要ですよ。
――あーやっぱり……え!? いらないんですか!?
いりません。
まず、ぽっぽーの行為が、著作権法上どういう意味をもつのか知っておきましょう。
文化祭で他人の著作物である楽曲を流すことは、著作権法上は公の演奏と評価されます。
――エンソウ?? 先生、ちゃんと話聞いてました? 楽器を弾いていたワケじゃありませんよ。
まあ、もう少しだけ聞いてください。
著作権法にいう「演奏」には、生(ライブ)の演奏に加え、録音物の再生も含まれるため(2条7項前段参照)、音楽CDを再生する行為も、著作権法上は「演奏」に該当します。
また、著作権法にいう「演奏」には、電気通信回線を通じた演奏の伝達が含まれるため(同項後段参照)、校内放送で楽曲をBGMとして流す行為も、著作権法上は「演奏」に該当します。
――えーっと……吹奏楽や軽音部の発表も、演劇や展示につけるBGMも、開幕・閉幕の放送も、みんな同じ「演奏」ってことですか?
著作権法上はそうです。
著作物を公に演奏する行為は、演奏権(著作権法22条)の対象となります。
――その「オオヤケ」っていうのも、よくわかりません。なんか、公共の場で、ってイメージ……?
場所の問題ではありません。
「公に演奏する」とは、「公衆に直接聞かせることを目的として」演奏することをいい(22条かっこ書参照)、「公衆」とは、不特定の者か、特定多数者をいいます(2条5項参照)。
たとえば、文化祭の参加者は、学校との間に個人的な(家族のような親密な)関係があるわけではないし、人数も多数にのぼるため、著作権法上「公衆」(不特定多数者)に該当します。
よって、文化祭で音楽を演奏する行為は、著作権法上、公の演奏と評価されることになります。
――なるほど! あれ、でも今までの流れからすると、これって許可が必要なやつじゃないですか?
鋭いですね。通常はそうなのですが、著作物を公に演奏する場合でも、
①営利を目的としない
②聴衆または観衆から料金を受けない
③演奏者に報酬が支払われない
この3つの要件をみたす場合は、演奏権が制限されるため、著作権者の許諾が不要となります(38条1項参照)。
――ムム? 難しくなってきたぞ。
大丈夫。ぽっぽーがした例で、ひとつずつ考えてみましょう。
文化祭で、CDのほかに、ネットからとってきた音源※をBGMとして使いました!
文化祭は学校行事として実施されるもので、利益を得るのが目的ではありませんから、①の要件を満たします。また、参加者から入場料等を徴収しないなら、②の要件を満たし、演奏者に対する報酬の支払いもないため、③の要件も満たします。
ゆえに、この場合は、38条が適用され、著作権者の許諾は不要となります。
――わーい、よかったです! これって、学校行事なら、どんな行事でも一緒ですか?
基本的にはそうです。たとえば、行事の開会式等で教員・生徒が合唱したり、生徒が楽器演奏を行ったり、校内放送で音楽CDをBGMとして流したりすることは自由です。
※この「ネットからとってきた音源」は、初等中等教育で、著作権法35条の要件をみたし適法にダウンロードされたファイルをさします(詳細は書籍を参照)。なお、ストリーミングサービスは規約で個人的使用以外の使用を禁止しているものがあり、注意が必要です。
オンライン配信は要許諾
Q2.今年の文化祭は入場制限つき。でも、できるだけ多くの人に見てもらいたいな。そうだ、当日の様子を動画配信しよう! 音楽もそのまま入ってるけど、非営利・無料・無償だからOKだよね?
いいえ、オンラインで配信する場合は、著作権者の許諾が必要です。
――えー!!! リアルで同じものを流すときはいらないのに、ですか?
そうです。
学校の運動会や文化祭で行われる著作物の実演については、38条1項により上演・演奏権が制限されるため、著作権者の許諾を要しません。
しかし、著作物の実演を録音・録画し、その複製物を作成する場合や、自校のウェブサイト上で動画として配信する場合は、別途、複製権(21条)や公衆送信権(23条1項)が問題となります。
ゆえに、著作権者の許諾を要することになるんです。
――な、なんてこった……。じゃあ、配信は諦めるしかないのかな……。
いやいや、許諾をとればいいんですよ。
音楽の分野は著作権の集中管理が進んでおり、日本音楽著作権協会(JASRAC)が我が国のほとんどの作詞家・作曲家および音楽出版社から著作権の委託を受けて管理を行っています。
ゆえに、配信する楽曲がJASRACの管理対象となっている場合は、JASRACから許諾を受けて利用することが可能です。
JASRAC の管理楽曲は、JASRACのホームページ上にあるJ-WIDにより検索することができます。
また、YouTubeなどの動画配信サイトによっては、JASRACと包括契約を交わしているため、個別の許諾なく配信が可能です。
――そうなんですね! それなら、ハードルが低くて使いやすいかも。
ただ、楽曲を自ら演奏するのではなく、CDやダウンロードした音源をそのまま利用する場合は、著作権者(作曲者やJASRAC)に加えて、その音源を作った著作隣接権者(レコード会社等)の許諾も必要です。
難しい場合は、フリー素材を使うことを考えてもよいかもしれませんね。
――リアルとネットだと、考えないといけないことがだいぶ違うんですね。配信もやってみたいけど、やっぱりリアルで思いっきり行事ができると嬉しいなあ!
まとめると……
■学校行事で音楽を使うときは、
①リアル開催の場合、非営利・無料・無償なら許諾は不要!
②オンライン配信の場合、JASRAC等の許諾が必要。他人の音源なら、レコード会社や演奏者等の許諾も必要。
いいですね。
”学校”という場での著作権について、よく勉強してきたと思います。
学校は、研究機関でもあります。次は研究において重要な引用について、谷川和幸先生に教えてもらってきてはどうですか 。
――引用ってよく聞くけど、あんまりちゃんと知らないかも。わかりました、聞いてきます!
(第5回に続く)
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『教育現場と研究者のための著作権ガイド』では、こんな問いにも答えています。
Q. 高校の文化祭でクラスの出し物の宣伝を行うために、アニメのキャラクターを使った看板やポスターを制作する場合、著作権者の許諾が必要か。
Q. 入試問題の作成にあたって、著作物を改変することは認められるか。
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