【SNSとダウンロード違法化】先生教えて!学校で迷わないための著作権の話③
有斐閣公式キャラクターのろけっとぽっぽーは悩んでいました。
最近、TwitterやInstagram、YouTubeにも進出しているぽっぽー。
個人のSNSでもぽっぽーを使いたい! という声にこたえて、LINEスタンプやアイコンメーカーまで作っちゃいました。
SNSでは著作権に気をつけて、ってよく言われるけど……正直、何にどう気をつけたらいいのかな?
そこで、新刊『教育現場と研究者のための著作権ガイド』の著者のお一人、山神清和先生(東京都立大学教授)に質問してきました!
特に、最近の法改正で大きく変わったことをお聞きしていきます。
投稿するときに気をつけること
Q1.わぁ! このケーキかわいい! インスタに写真あげちゃおう。
読んでる本も一緒で知的な感じだな~。あ、店員さんの顔もハッキリ写っちゃったけど、このままアップしても大丈夫なのかな……??
結論から言うと、そのままアップするのはNG! です。
なぜか、順番に見ていきましょう。
まず、本の表紙(のイラスト)について。このような写り込みは、写り込んだものが他人の著作物である場合に、問題が生じる場合があります。
ちなみに、メインの被写体として他人の著作物をSNS上にアップロードすることは、公衆送信であり、著作権法上は許諾なく行うことが禁止されています。知っていましたか?
――もちろん! 公衆送信のことは、前回バッチリ教えてもらいました。
すばらしい。では、写り込みの話に戻ります。
写り込みについて定めた著作権法30条の2は、令和2年改正で大きく形を変えています。
メインの被写体に付随する著作物であれば、以下の要素を総合考慮して、「正当な範囲内」といえるならば、利用が認められる余地が出てきました。
・付随対象著作物の利用により利益を得る目的の有無
・当該付随対象事物等の当該複製伝達対象事物等からの分離の困難性の程度
・当該作成伝達物において当該付随対象著作物が果たす役割
・その他の要素
――フズイ、とうがい、ふずい、トウガイ、TOUGAI……「とうがい」と「ふずい」めちゃくちゃ多くないですか? もう何がなんだか……。
ちょっとゆっくりお願いします。
はい。わかりやすく言いかえると、
「付随対象著作物」が写り込んだもの、
「複製伝達対象事物」がメインの被写体、
「作成伝達事物」がそれらを写した写真など、です。
これらを踏まえて、さっき言った要素を、ぽっぽーが撮った写真について考えてみましょうか。
・「写り込んだ本の表紙のイラスト」により利益を得る目的の有無
・「写り込んだ本の表紙のイラスト」の、「メインのケーキ」からの分離の困難性の程度
・「写真」において「写り込んだ本の表紙のイラスト」が果たす役割
――えーと、普段の言葉に置きかえてみてもいいですか!?
・お金や「いいね!」をもらうために、イラストを写したわけじゃない。
・本をケーキから離すことは、そりゃできるけど……。
・これはケーキの写真だから、イラストに特に役割はないよ。ちょっとボケてるし。
よくできています。すべての要素を考慮して「正当な範囲内」といえればよいので、今回の写り込みは許容されると考えられます。
写り込みに注意する必要はあるものの、このように利用が認められる場合もあるので、過度に萎縮しなくても大丈夫ですよ。
――よかったー! じゃあ、インスタにあげちゃいます!
待った! その写真には、店員さんの顔も写っているんでしたね。
次の問題は、写り込んだ人です。著作権ではありませんが、人は、その人の肖像をみだりに他人に撮影・使用されないという人格的利益を持っています。これを違法に侵害すると、不法行為責任(民法709条・710条)を負うことになります。
したがって、他人の容姿を判別できる形で撮影した写真をアップロードすることは、本人の許諾がない限りは避けるべきです。
――そ、そうなんですね……! わかりました。店員さんの顔がわからないようにトリミングしてアップします!
閲覧・保存するときに気をつけること
Q2.大好きな漫画のシーンがTwitterで流れてきた! これ名言だよね。わかる! せっかくだからこの画像、保存しておきたいな。そういえば去年、ダウンロード違法化がなんちゃらって聞いたけど、これくらいは大丈夫だよね?
ぽっぽーが聞いたのは、令和2年の著作権法改正において、ダウンロード違法化の対象が拡大されたことですね。
従来は、楽曲・映像について一定の場合に私的複製を禁止して、刑事罰を科していました。今回の改正で、範囲を楽曲・動画以外の著作物全般(漫画・書籍・論文・コンピュータプログラムなど)に拡大しました。
――えっ!? じゃあ、漫画を1コマダウンロードしただけでも犯罪になっちゃうんですか!?!?
いいえ! 違法となるにはさまざまな条件があります。
(念のため、他人の著作物を送る側は公衆送信権を侵害しており違法ですよ!)
改正では、ダウンロード違法化の範囲を拡大した一方で、規制対象を違法にアップロードされたことを知りながらダウンロードする場合のみとし、以下の場合は規制対象外とされています。
・漫画の1コマ~数コマなど軽微なもの
・二次創作・パロディ
・著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合
刑事罰も抑制的に運用されるように要請されており、条文上も親告罪(被害者から申告がなければ起訴できない犯罪)であり、正規版が有償で提供されている著作物を反復・継続してダウンロードする場合に限定されています。
今回のように、漫画の1コマを保存するだけなら問題ありませんよ。
――ああ、ほっとしました!
海賊版だとわかっているものをダウンロードするような、どう考えても違法なことじゃなければ、そんなに心配しなくても大丈夫そうですね。
まとめると……
■SNSで著作物を利用するなら……
①アップロードする場合、許諾が必要。「正当な範囲内」の写り込みなら、許諾はいらない。ただし、判別可能な人が写っていないか注意。
②ダウンロードする場合、違法にアップロードされたものは避ける。ただし、軽微なものや二次創作などなら気にしなくても大丈夫。
これらに気をつければOKでしょうか!
いいですね。著作権について適切に意識しながら、SNSとうまく付き合っていきましょう。
さて、SNS以外にも生徒・学生が著作物を使って発信する重要な場として、学校行事がありますね。
次は、教育機関の行事における利用について、横山久芳先生に教えてもらってきてはどうでしょう 。
――運動会とか、文化祭とかですよね! わかりました、聞いてきます!
(第4回に続く)
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『教育現場と研究者のための著作権ガイド』では、こんな問いにも答えています。
Q. 自宅に大量に書籍を保有する生徒がいわゆる自炊代行業者に依頼して、書籍を複製している。できあがったスキャンデータは、その生徒の私的使用目的に限定されるならば、著作権法上許されるか。
Q. 中学校の教員が、自分の担任をしているクラスの男子生徒が、休み時間中に、昨晩放送されていた人気テレビドラマを、動画共有サイトに繰り返しアップロードしていることを知りつつ、これを放置していると、どのような責任に問われるか。
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