【オンライン授業】先生教えて!学校で迷わないための著作権の話②
有斐閣公式キャラクターのろけっとぽっぽーは悩んでいました。
著作権法には、学校で著作物を使いやすくするための例外があるらしい。
あと、新型コロナウイルスの影響による特例もある、って聞いたかも。
前回、上野達弘先生に著作権について教えてもらったけど、”学校”という場での著作権については、もっと知っておくとよいことがあるみたい。
そこで、新刊『教育現場と研究者のための著作権ガイド』の著者のお一人、今村哲也先生(明治大学教授)に質問してきました!
今回は、いま特に重要なオンライン授業についてお聞きしていきます。
オンライン授業=公衆送信
Q1.たとえば誰かが描いた図をプリントに載せて配るとか、対面授業ではよくあると思うんですけど、オンラインでも紙と同じようにデータを配布して大丈夫でしょうか……?
はい。2018年の法改正によって、学校における例外を定めた著作権法35条1項の要件をみたせば、無許諾でできるようになりました!
オンラインでデータを配布することは、公衆送信に該当します。
公衆送信とは、「公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信」(著作権法2条1項7号の2)を行うことをいいます。
本来、著作物を公衆送信する場合には、著作権者の許諾が必要となります。
しかし、授業目的で公衆送信を行う場合、原則として無許諾で公衆送信することができます。ただし、教育機関の設置者は相当な額の補償金を著作権者に支払う必要があります。
――?????
おや、ハトが豆鉄砲を食ったような顔ですね。
――ハトなので……じゃなくて、いきなり難しい用語がいっぱい出てきてびっくりしました!! もうちょっとやさしくお願いします。
まずは、「こうしゅうそうしん」? って、たとえば何をすることですか??
典型的には、著作物を放送したり、インターネット上で送信したりすることがこれに当たります。
公衆送信には、送信可能化を含むとされているため(著作権法23条1項)、著作物をサーバーへ保存するなどしてインターネットを通じて送信できる状態にすることも、公衆送信に該当します。
学校では、たとえば以下のような場合が想定されます。
・他人の著作物を含む教材をLMS(Learning Management System)上にアップロードして生徒・学生にダウンロードさせる場合
・オンライン授業内で授業に関連する動画共有サイトの映像を見せたり、音楽を聴かせたりする場合
――やっとイメージがわきました! インターネットでデータを送ることは、ぜんぶ公衆送信だと思っていいですか?
いいえ、送信と受信のすべてが「同一の構内」で完結する場合には、公衆送信に該当しません。
したがって、同一の建物や、同じ敷地(キャンパス)の中にいくつかの建物がある場合に、無線通信や有線通信を用いた構内LAN が構築されている場合には、「同一の構内」での送信に該当しうるので公衆送信には該当しません。
学校では、たとえば以下のような場合が想定されます。
・書画カメラ(実物投影機、OHC)で撮影した画像を、構内LANを通じて同じ教室内のパソコン端末にリアルタイムで送信する場合
この場合は、無許諾・無償で著作物を使用できます。
――なるほど。じゃあ、オンライン授業やオンデマンド授業を家で視聴するような場合は、原則として公衆送信にあたると考えてよさそうですね。
授業目的公衆送信補償金制度
Q2.あれ? さっき、公衆送信は「ほしょうきん」が条件って言いませんでしたか? コロナ禍で急にオンライン授業をしなきゃいけなくなったから、無料でいいことになった、って聞いた気がするんですけど……?
たしかに、2020年度に限っては、緊急的かつ特例的な措置として補償金の額は無償とされました。
2021年4月1日以降は、授業目的公衆送信を行う場合、有償の補償金額を支払う義務が発生します。
具体的には、教育機関を設置する者が、文化庁長官が指定する補償金徴収分配団体であるSARTRAS(サートラス)に対して、相当な額の補償金(たとえば年1回の支払いで、生徒1人当たり○円〔包括制〕といったもの)を支払うことにより、学校等の授業の過程で著作物の公衆送信を行う際の著作権処理が完了します。
権利者に相談なく自由に利用可能であること、また、簡便な手続でなされることに特徴があります。
――ええっと、つまり……? 先生がお金を払うんですか……??
違います! 補償金の支払主体は、教育機関の設置者です。
たとえば、国立大学なら国立大学法人、私立学校なら各学校法人、公立学校のうち初等・中等教育機関なら各地方公共団体の教育委員会が支払いをします。
――そうなんですね! でも、どうやっていくら支払ったらいいんですか? 振込みですか?
SARTRASウェブサイト上のTSUCAO(ツカオ)というシステムから、著作物利用の申請と支払手続ができます。
補償金の額については、学校種別毎の1人当たりの額(年額)として、大学720円、高校420円、中学校180円、小学校120円、幼稚園60円が認可されています。これは、在学者のうち、補償金の対象となる授業を受ける予定の生徒・学生についてかかる金額です。
なお、年度ごとの補償金とは別に個別の都度補償金の支払いの仕組みや、特別な事情がある場合の減額制度なども用意されています。
――わかりました! 4月以降の動きにも要注目ですね。
まとめると……
■オンライン授業で著作物を利用するときは、
①授業目的公衆送信に当たるから、許諾はいらない。
②ただし、補償金の支払いが必要。手続きはSARTRASのサイトから。
こういうことですね!
そうです!
ただし、最初に言った「著作権法35条1項の要件」をみたして無許諾で利用するためには、
・授業に必要と認められる限度の利用であること
・著作権者の利益を不当に害しないこと
……など、ほかにもいくつかの条件があります。
『教育現場と研究者のための著作権ガイド』第2章に検討フローチャートを付けておいたので、そちらに沿ってチェックするとわかりやすいと思いますよ。
さて、生徒・学生のみなさんがオンラインで著作物を利用する場面は、授業に限られませんよね。
次は、たとえばSNS等での著作物の利用について、山神清和先生に教えてもらってきてはどうですか。
――たしかに、YouTubeとか、インスタとか、気になることがいっぱいです……! わかりました、聞いてきます!
(第3回に続く)
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『教育現場と研究者のための著作権ガイド』では、こんな問いにも答えています。
Q. 35条が適用される複製には、どのような態様の行為が含まれるか。
Q. 国語の授業を担当する教員が教科書に掲載されている小説の文章を用いた定期テストを作成し、生徒の人数分複製して利用する場合、著作権者の許諾が必要か。
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