![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/77427676/rectangle_large_type_2_c743d7ffc75bf6e099c70e9238fa91a0.png?width=1200)
理念が形骸化する流れに歯止めを 東京レインボープライド抗議者通報
日本最大級の性的マイノリティ(いわゆるLGBT)イベント『東京レインボープライド(TRP)2022』(4月22〜24日、代々木公園)で、同性パートナーと暮らすゲイ男性が会場で、イベントのスポンサー1社のLGBTフレンドリーへの取り組みが不十分であることに加え、TRP実行委員会のあり方がスポンサー中心に偏っているとして、抗議活動を行い、TRP実行委がこれを警察へ通報した。警察官は、抗議活動に問題はないとした。ハフポストが報じた。
このことでTRP実行委に「スポンサーを中心に考えている」「LGBT当事者に人権を、という原点を忘れている」という批判が起きている。
4月24日、男性がハフポストに告発した記事が出て、「炎上」状態に。
報道によると、男性はTRP会場の野外ステージ付近に位置していた大手外資系保険アクサグループのブース前で、プラカードを持ち、「アクサグループ傘下のアクサ損害保険で自動車保険を更新する際、保険料金が安くなる配偶者限定特約の制度が、同性パートナーに認められなかったことにショックを受けた」という内容の抗議文を読み上げた。
3日後の27日に、TRP実行委はコメントを出した。
TRP実行委は、警察に通報した理由付けについて、男性がハフポストに語ったような「スポンサーへの妨害行為」ではなく、男性が出展者用リストバンドをつけていたのを根拠に、「出展者同士のトラブル」と説明。双方に認識のずれがあったもよう。TRP実行委は、「男性に数回声かけしたが名前と団体を聞けなかった」「通報依頼を受けたことに加え、万一に備え、イベント参加者の皆様の安全を最優先に考えての判断」「一部SNS上で言われているような当事者の切実な訴えを企業に配慮して封じ込めるために通報したわけではない」などと説明。男性がハフポストに語った、「平和のLGBTQの祭典で、スポンサーや来場者の安全を脅かすのはやめてください」「スポンサーに迷惑をかける行為があったので、止めにきました」などの発言は否定。
LGBTフレンドリーの判断基準については、「実際にどこまでLGBTQフレンドリーであるかを細分化したチェック項目等は現状設けてございません。」と説明。
TRP実行委は、「ハフポストに訂正を依頼するメールを25日に送った」と発表しているが、29日15時時点でハフポストの記事にTRP実行委の依頼通りに訂正された箇所はない。
TRP実行委の公式ツイッターへの引用ツイートを見たが、TRP実行委の説明には納得できないという意見が大半だった。
【お知らせ】
— 東京レインボープライド #TRP (@Tokyo_R_Pride) April 27, 2022
平素より東京レインボープライドを応援いただき誠にありがとうございます。
一部報道につきまして、TRPの見解をまとめさせていただきました。https://t.co/bjiyBGc48M
イベントビジネスとして東京レインボープライドをみれば、まだまだ成長しそうだが…。スポンサー獲得がうまくいき、開催規模とともに参加者は増えた一方、「LGBTの人権が尊重されていない現状を変える」という理念は形骸化し、イベントは商業主義化と共に派手になる道をたどるのか?
本質を見ようとしない一部の論理に影響され、スポンサーへの抗議が起きれば企業が出展を控えるようになるという懸念があったのか。コロナでスポンサー収入が減少したなか行き詰まりもあったのか。
開催直前に雑誌のインタビューで、「身構える人もいて、当事者と非当事者の分断が生まれる」ということで、「私たちに人権を」というアプローチが適切ではなく、「ハッピーな要素」で盛り上げるのが適切であるかのように捉えられる、代表者のどっちつかずな発言があった。これが物議を醸しだした。通報問題が起きる予兆だったのか。
代表者が発言に責任を持つべきなのも確かだが、代表者に意図に反した批判が行くことがないように、掲載前の確認でメディアに説明できなかったのか。
そして当日になり、まさに人権を誤解したスタッフによる稚拙な運営がみられた。
出展する企業の実態も問われている。今回抗議対象となったのはプラチナスポンサーの大手外資系保険アクサグループだが、他にもダイバーシティ&インクルージョンをアピールしながら、実態には大きな乖離があるのでは、と首を傾げざるを得ないーという出展企業があることは、以前から指摘されてきた。障害者雇用率が2017年を除き未達成で報告義務違反もあり厚生労働省の企業名公表による信用低下リスクを抱え、発達障害者への「差別と人権侵害」をめぐる大きな労働事件訴訟が起きているセールスフォース(詳細)が、アクサ同様にプラチナスポンサーに名を連ねているのも引っかかる。LGBTとメンタルヘルスは関係が深く、LGBT当事者にはうつ病など精神障害や発達障害を抱えるケースも多いことが、複数のLGBT団体により発表されている。
プラチナスポンサーのアクサグループ傘下のアクサ損保が同性パートナーを認める訴えを取り合わないのを不当だとするプラカードを掲げる抗議行動(アクサ損保は「2022年中には配偶者として認めるような制度設計を進めていた」とハフポストに語っている)が警察に通報されるなら、出展企業の問題点を指摘する内容を読み上げることには大きな制約となることがありえるのでは、と考えざるを得ない。
「この場所だからこそ聞き入れられる」と願い、声を上げた当事者には絶望的なことではないか。「来年も参加できる」と思えるだろうか。
TRP実行委は27日に発表したコメントで「出展者同士のトラブルへの不介入」を持ち出し、アクサの問題に触れていないが、LGBT理解啓発団体としてできることはなかったのか。イベントでの抗議行動に、内容次第では警察への通報以外の方法で調整に入るなどできなかったのか。そして今回の件にスポンサー資金の問題は避けて通れない。TRPのスポンサー向け資料によると「プラチナスポンサー」の料金は500万円。2022年に特別協賛になっている各社からのスポンサー収入をトータルするとおよそ1億1200万円で、プラチナスポンサー1社はスポンサー収入全体の4.4%を占めることになる。
TRP実行委は、抗議した男性への対応に問題があったと認め、公式に謝罪し、危機管理の見直しやLGBTフレンドリー判断基準の見直し、声を上げたLGBT当事者への抑圧に与しないことを実践してほしい。これを機に、問題提起の声をまずは丁寧に受け止める姿勢に軌道修正し、「LGBTの人権が尊重されていない現状を変える」という理念が形骸化する流れは止めるべきだ。
出展各社には、抗議を恐れて出展を控える方向に巻き戻すのではなく、改善の機会と捉えて、自社の危機管理とLGBT施策の再点検を行っていただきたく願う。
アメリカのプライドパレードには、2019年、IT大手グーグルが企業として出展することと、グーグルがゲイ差別をなくすためのプロダクト開発の取り組みが不十分であるとして改善を求める同社従業員グループが出展することを、両方認めるという決定をした事例がある。こちらのアイティメディアの記事に詳しい経緯が説明されている。
LGBTをテーマにしたイベントでの事例にフォーカスしたが、他の多様性イベント(世界自閉症啓発デーや国際女性デーなど)でも類似した問題は起こりえる。
スポーツを通して多様性と平和の世界を作ることを原点としていたオリンピックは、商業主義化とともに派手になっていった。批判は色々あるが、継続している。それは、スポーツを通して多様性と平和の世界を作るという目的を叶えるために、改善が続けられているためだ。
筆者は26日20時半ごろ署名を立ち上げた。特にTRP実行委が見解を発表した27日20時以降に参加者が増え始め、29日15時時点で32人になった。「今後の改善に」と思われる方は、ぜひクリックされたい。
5月4日追記・TRP特別協賛各社のスポンサー収入トータルは、TRP公式サイトに掲載されたレインボー・ダイヤモンド・プラチナ・ゴールド・シルバー・ブロンズスポンサー各社のバナーの数を元に算出。
5月9日追記・ハフポストが記事を一部訂正していたことがわかった。“【2022/05/02訂正】TRP実行委が警察を呼び対応した経緯について「『スポンサーへの妨害行為』として」との文章を削除しました。”
収録マガジン
マガジンをフォローしておくと、追加のたびに通知されます。
いいなと思ったら応援しよう!
![長谷川祐子(長谷ゆう)/ライター・翻訳者・ジャーナリスト/3.8国際女性デートークイベント](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/151402497/profile_ae4cd4f772a3f12d210656d5e0c51987.jpg?width=600&crop=1:1,smart)