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#連載小説
長編小説『becase』 35
「それでな、あいつは、だから離れる事になってしまったのかもしれませんって言ったんだよ」
「……それで?」
核を遠回しに話すでんぱちの話し方にはまだいらついていたけれど、彼の話す言葉の一つ一つを逃してしまわないように、私はその遠回しな話に付き合った。
「今もこの辺りに住んでいるのか?って聞いたら、友達の家にいさせてもらってますって……」
「友達……」
彼の友達を私の記憶の中で辿ってみた。でもい
長編小説『becase』 34
「いや、焦るなよ……」
そう言ってでんぱちの随分と勿体ぶる態度にまた腹が立つ。ただ場所を言えばいいだけなのだ、そんな前置きなんていらないから、ただその場所の単語だけを並べればいいだけなのに。
「だから、どこなのって聞いてるのよ!」
「昨日、俺があの店で彼に会ったって言ったろ?」
場所を言えばそれで終わる会話なのに、でんぱちは昨日の話を始めた。早く場所を言ってしまえという気持ちを持っているはずな
長編小説『becase』 33
「彼を私と一緒に探してくれる。そういう事ですか?」
「そうだ!」
と言って大きく頷いた。体ごと頷いているような程、大きな頷き方だった。
「結構です」
私はそうきっぱりと言い放ち、でんぱちを置いて歩き出した。
「おいおい!」
と後ろから私の背中を嗄れ声が叩く。
「ちょっと、待てって!」
「別にあなたに探してもらわなくてもいいです」
でんぱちを見ずにそう言った。
「探すって言ってんだろう」