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ちいさな、ちいさな、みじかいお話。

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#連載小説

長編小説『because』 84

長編小説『because』 84

 でんぱちの力を借りて、やっとの思いで立ち上がった時、私の携帯が鳴った。彼の友達であるあの人がいない今、そんな携帯の相手が誰であろうとどうでもよかったし私はその電話に応える気なんてなかったのに、でんぱちがしきりに「おい、携帯鳴ってるぞ」と言うものだから、私はしょうがなくポケットから携帯を取り出し、相手が誰なのかも確認せずに通話ボタンを押した。
「あ……お久しぶりです」
その自信なさげな声、懐かしく

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長編小説『because』 83

長編小説『because』 83

「それにも……」
五分も待って、やっと届いたその弱々しい言葉に私は落胆の色を隠せずにいる。もたれ掛けたままの頭に力を入れ、彼の胸に圧力をかけた。
「理由が必要かな?」
そう言った彼はなんだか満足そうな心持ちで、私は彼の言葉の中から、その満足の色を見出した。それがまた私を落胆させ、小さな不満の塊が私の中でふつふつと息を始めたのを感じ、それを押さえ込むように言葉を発した。
「理由なんてないって、そうい

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長編小説『because』 80

長編小説『because』 80

素直に嬉しかった。たとえそれが彼から出た嘘の言葉だったとしても、私はその言葉を純粋に喜ぶ事ができた。その時はそれでよかったんだ。それに彼がそう言った言葉は嘘なんかじゃなくて、本心だった事も後になって私は知る事ができた。私に笑っていて欲しいのではなくて、私は笑っていればよかったのだ。彼はそれ以上の事を私に求めていなかったし、求めようとする気持ちもない。それは酷く冷たいあしらい方だった事に、この時は気

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長編小説『becase』 35

長編小説『becase』 35

「それでな、あいつは、だから離れる事になってしまったのかもしれませんって言ったんだよ」

「……それで?」
核を遠回しに話すでんぱちの話し方にはまだいらついていたけれど、彼の話す言葉の一つ一つを逃してしまわないように、私はその遠回しな話に付き合った。

「今もこの辺りに住んでいるのか?って聞いたら、友達の家にいさせてもらってますって……」

「友達……」
彼の友達を私の記憶の中で辿ってみた。でもい

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長編小説『becase』 34

長編小説『becase』 34

「いや、焦るなよ……」
そう言ってでんぱちの随分と勿体ぶる態度にまた腹が立つ。ただ場所を言えばいいだけなのだ、そんな前置きなんていらないから、ただその場所の単語だけを並べればいいだけなのに。

「だから、どこなのって聞いてるのよ!」

「昨日、俺があの店で彼に会ったって言ったろ?」
場所を言えばそれで終わる会話なのに、でんぱちは昨日の話を始めた。早く場所を言ってしまえという気持ちを持っているはずな

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長編小説『becase』 33

長編小説『becase』 33

「彼を私と一緒に探してくれる。そういう事ですか?」

「そうだ!」
と言って大きく頷いた。体ごと頷いているような程、大きな頷き方だった。

「結構です」
私はそうきっぱりと言い放ち、でんぱちを置いて歩き出した。

「おいおい!」
と後ろから私の背中を嗄れ声が叩く。

「ちょっと、待てって!」

「別にあなたに探してもらわなくてもいいです」
でんぱちを見ずにそう言った。

「探すって言ってんだろう」

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『短編』突然に、さも跡形もなく 第4回 /全7回

『短編』突然に、さも跡形もなく 第4回 /全7回

 着信があったことをバイブレートした携帯が、テーブルを揺らしたことで気付いた。

「はい」

「ああ、雄大?大丈夫、今」

「ああ、うん。大丈夫」

「真木に電話したよ。やっぱりやめるって言ってきかなかった」

「……だろうな」

「……なあ、ほんとうにやめるのかな?あいつ」

「まあ、やめるんだろう。本気っぽかったから」

「……じゃあ、どうするんだよ俺たち」

そんなこと言われても、と思った。

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『短編』突然に、さも跡形もなく 第3回 /全7回

『短編』突然に、さも跡形もなく 第3回 /全7回

俺は電話を切り、まだパソコンのスイッチを入れていなかったことと、ドリンクバーを頼んだのに何も取りに行っていないことを思い出した。

……いや、そもそもここに何をしにきたのかもよく分からない。真木が突然バンドをやめるなんて言い出して、少し気が動転していたのかもしれない。動転していたからといって近所のファミレスに来るなんて、俺の行動範囲もほとほと大したものじゃないのだと思い知らされる。それに、落ち着く

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『短編』突然に、さも跡形もなく 第2回 /全7回

『短編』突然に、さも跡形もなく 第2回 /全7回

「喫煙席はこちら側になりますねー。お好きな席へどーぞー」

重い体をぐったりと椅子に下ろし、バッグからパソコンを取り出した。もうほとんど常連になってしまっているいつものファミレスのいつもと同じ席だ。ここの店はWIFIが通っているから便利だ。ファミレスで、無料の電波を飛ばしてるところは珍しい。

「あ、ドリンクバーで」

いつもドリンクバーしか頼まないのに、店員は笑顔で対応してくれる。申し訳ない気持

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『短編』突然に、さも跡形もなく 第1回 /全7回

『短編』突然に、さも跡形もなく 第1回 /全7回

「……俺さ、やめることにしたから。……え?何ってバンドに決まってんだろ」

「は?」

「……バンドやめんの」

「何言ってんだよ?お前。……は?」

「悪いな、本当に悪いと思ってるよ。……だけどな、もう俺もそろそろちゃんとしないとって思っててさ」

「……俺たちはちゃんとしてないってか?」

「いや別に、雄大(ゆうだい)のことを言ってるんじゃないよ。……なんつーか、世間的に見れば俺たちは普通じゃ

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『短編』再会はどこか不安定 最終回 /全5回

『短編』再会はどこか不安定 最終回 /全5回

「本当だよ。大学卒業した後に、同僚の子と少し付き合ってたけど、すぐに別れちゃったから」

「同僚と付き合ってたのか?」

「そうだよ。同期の女の子。部署は違ったから毎日会ったりはしないけど」

「なんかでもそれ、やりにくそうだな」

「別に。そんなことないよ。普段顔を合わせないから。同じ会社だって言っても、別に気にならない距離感」

「ああ、距離感ね~」

「そうそう、距離感」

将は突然くっくっ

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『短編』再会はどこか不安定 第4回 /全5回

『短編』再会はどこか不安定 第4回 /全5回

「ところでお前最近どうだ?」

時計は深夜一時を指していた。店内は幾分落ち着き、入ってきた時の賑やかさはもうほとんどなかった。二つ隣の席に座っていた大学生らしきグループも、さっきまではしゃいでいたように見えたが、いつの間にか静かになってしまっていた。二人は机に顔を突っ伏している。寝てしまったのだろう。もう電車も走ってないから、僕に残された道は将の家に帰るか、このファミレスで朝まで過ごすか、どっちも

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『短編』再会はどこか不安定 第2回 /全5回

『短編』再会はどこか不安定 第2回 /全5回

「おいおい、別にいいだろう?お前だってどうせ彼女いないんだから」

と何度かのやり取りをした後、業を煮やしたのか

「あの、すみません。一緒に飲みませんか?」

と気付けば将が声を掛けていた。女の子たちは一瞬怪訝な表情を浮かべ、同じタイミングで見合わせた。それからまた少しの間があって、二人は僕たち二人の顔を見定めているようだった。それからまた少しの間があり

「ああ、いいですよ」

と一人の女の子

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『短編』再会はどこか不安定 第1回 /全5回

『短編』再会はどこか不安定 第1回 /全5回

「あの二人、なんだか深刻な雰囲気だよな」

将(まさる)は他の席に座っていたカップルを見ながらそう言う。

「そうか?和気あいあいと見えるけど」

「ダメだな、啓介(けいすけ)は。あれはどう見ても喧嘩してるよ」

将はそう言うが、僕にはそうは見えなかった。だってさっきから彼女も彼も柔らかな笑みを浮かべている。もし深刻な空気なら、もっと表情は固いはずだし、深刻そうな雰囲気を纏っていそうなものだが。

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