『短編』突然に、さも跡形もなく 第1回 /全7回
「……俺さ、やめることにしたから。……え?何ってバンドに決まってんだろ」
「は?」
「……バンドやめんの」
「何言ってんだよ?お前。……は?」
「悪いな、本当に悪いと思ってるよ。……だけどな、もう俺もそろそろちゃんとしないとって思っててさ」
「……俺たちはちゃんとしてないってか?」
「いや別に、雄大(ゆうだい)のことを言ってるんじゃないよ。……なんつーか、世間的に見れば俺たちは普通じゃないだろ?」
「普通ってなんだよ」
「またそれか……」
「またって」
「とにかくさ、俺、やめるから。葛城にも俺から直接言うから。その前に、とにかくお前には先に言っておかないとって思って」
「……」
「雄大?」
俺は何も言えないまま、ただ電話の向こうからしきりに「ゆうだーい」と呼ぶ声を聞いていた。何度か繰り返された後「じゃあ切るからな」と言って電話はパタリと切れてしまった。
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