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おな
2017年4月9日 16:52
「……あれかな?」圭介が前を指差しながら言った。その指の先は、真っ暗なその場所を照らす大きな球体のような明かりがあって、まだ少し先なのに、空気を通してその静かな賑わいを感じる。「なんか人がいる感じがするね」私がそう言うと、圭介が笑いながら言った。「人がいる感じ?」「え?なんか変なこと言った?」「人がいる感じってなんか変じゃない?」圭介は笑いながらそう聞いてくる。「え、じゃあなんて言
2017年4月8日 17:54
***「今日は冷えるって言ってたよ。なんか数年に一度しか来ないような寒波なんだって」「数年に一度か……。どうして今日に限ってそんな日に当たっちゃうんだろう」「さーな」圭介はモスグリーンのフリースを上に羽織って、私たちは外に出た。痛い程の冷たい空気が私の顔いっぱいに貼り付いて、剥(は)がれなくなる。「寒い」と私が言うと「寒いな」と圭介が言った。 家の鍵を閉めて、私たちは
2017年4月7日 22:57
それらの会話を店員さんに聞かれないように、私たちは静かにやり取りをした。そもそも、私はそんなに洋服と言う物に興味がない。洋服という物は肌を露出しないために着るものであって、それ以上の意味を見出すことが私には出来なかった。いや、もちろん絶対に着たくないと思う洋服もあるけれど、高いお金を出してまでどうしても着たいと思う洋服なんて一つもなかった。だから私にはブランドというものの価値がいまいちよく分からな
2017年4月5日 19:48
美人な店員さんはずっと私達の側にいて、それは今季の新作だとか、一番売れているとか、今私が着ているものと一緒です、などと言うけど、それらの言葉に購買意欲を掻き立てられはしなかった。どちらかと言うと、息苦しささえ感じさせるような言葉ばかりだ。「これ、可愛いー」と茜ちゃんの甘ったるい言葉が私の耳にこびり付いて、「それは最高級のダウンを使用してるんですよ」なんて店員さんは言った。 やっぱり
2017年4月3日 20:44
深夜一時を過ぎた。だから私たちは一日中着ていたそのスウェットを脱いで、余所(よそ)行きの格好になる。「それじゃ寒いよ」圭介は私の着ている薄手のニットを指差して言った。「大丈夫。この前買ったこのダウンがあるから」少し前に買ったばかりのダウンジャケットを着ながら私は言う。やたらにボリュームのあるベージュのダウンジャケットは、実に十万円もする、私としてはかなりの高級な衣服だった。 別に、
2017年4月2日 22:15