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【連載】カーニバル 第1回/全5回

  深夜一時を過ぎた。だから私たちは一日中着ていたそのスウェットを脱いで、余所(よそ)行きの格好になる。
「それじゃ寒いよ」
圭介は私の着ている薄手のニットを指差して言った。
「大丈夫。この前買ったこのダウンがあるから」
少し前に買ったばかりのダウンジャケットを着ながら私は言う。やたらにボリュームのあるベージュのダウンジャケットは、実に十万円もする、私としてはかなりの高級な衣服だった。
  別に、ただ寒さを凌げればいいと思って上着を買いに行っただけなのに、私はこの超高級なダウンを買うハメになったのだ。

  その時一緒にいた茜ちゃんのせいでもあるし、その店でやたら愛想のいい店員のせいでもある。

    ***

「ねえねえ、ここ一回見てみたかったんだよねぇ」
茜ちゃんの甘い声が私の鼓膜を緩く揺らす。纏わりつくようなその声に促されながら、私はしょうがなくその店に入った。
外は随分と賑やかだったのに、そのお店の中は随分と静かだ。聞こえるか聞こえないか程度の音量のBGMが流れ、鼓膜に纏わり付いた茜ちゃんの声を少しだけ緩和する。
「いらっしゃいませ」
私なんか敵いそうにないくらい美人なその女性は、私達が店内に足を踏み入れてから五秒も経たない内にそう言って、私達の元まで歩いてきた。
ハンガーラックに均等に洋服が掛けられ、たとえ値札を見なくてもそれらが私の手の届く範囲にあるものではないと分かる。そこに掛けられている洋服だって、私なんかに手に取られるなんて夢にも思ってないと思うし。
とにかく私はその場所の居心地が良くなかったし、そもそも茜ちゃんが行きたいと言ったから来た訳で、私は最初から一度だって行きたいなんて思っていなかった。茜ちゃんだってそんな高給取りじゃないから手軽に手が出せる商品なんてないと思う。だから早く飽きてくれないかな、という面持ちのまま私は洋服をゆっくりと見ている茜ちゃんの側で、洋服を見ることもなく、ただ視線を彷徨わせていた。天井を見たり、なぜそこに掛けられているのかも分からない絵を見たり、洋服ではなくそれを吊り下げているハンガーを見たり。だけど、そんなもの早々に飽きて、結局ひっきりなしに動く茜ちゃんの手を追い掛けていたりする。


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