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【連載】カーニバル 第5回/全5回

「……あれかな?」
圭介が前を指差しながら言った。その指の先は、真っ暗なその場所を照らす大きな球体のような明かりがあって、まだ少し先なのに、空気を通してその静かな賑わいを感じる。
「なんか人がいる感じがするね」
私がそう言うと、圭介が笑いながら言った。
「人がいる感じ?」
「え?なんか変なこと言った?」
「人がいる感じってなんか変じゃない?」
圭介は笑いながらそう聞いてくる。
「え、じゃあなんて言えばいいのかな」
「うーん……。人の気配がするとか?」
「なんかそれとは違うの。人の気配って言われるとなんだかネガティブなイメージがあって……」
「人がいる感じはポジティブなイメージ?」
「ポジティブって言うか……」
「なに?」
「なんだか暖かい……みたいな」
私がそう言うと、圭介は真顔で私の顔を見た。そんな顔を向けられて私はまた何か変なことを言ったのだろうかと、少しだけ不安になった。でもすぐにまた圭介は笑い出して
「真央は本当に面白いことを言うな!」
と言った。
「ほら、もうすぐ着くよ!」
圭介はそう言って、私の手を引いた。

 煌々と光る明かりに私たちは吸い込まれるように近づいて行く。その明かりの中に入ってしまえば、私たちはやっとこの町の住人になれるような気がする。それと同時にずっと住んでいた東京という場所を失くしてしまうような気もした。それは少しだけ寂しい、だけど、今私たちが住んでいるのはこの町だった。一ヶ月前に越して来たばかりだけど、もう一ヶ月もこの町で生活をしているのだ。見慣れない道も、外灯の少ない夜道も、静寂しか転がっていない夜も、肌が切れるような寒さも、きっと東京にはないこの星空が全てを解決してくれるような気がした。
 圭介が少し足を早めると、その手に繋がれた私の左手が引かれ、私の歩調も早くなる。
「もうすぐだ!」
振り向いて笑顔でそう言った圭介の口から洩れる真っ白な息を見て、東京への未練が飛んでいってしまったみたい。

 カーニバルはこれから始まるんだ。

          終


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