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ちいさな、ちいさな、みじかいお話。

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2017年3月の記事一覧

短編小説 『会話のないデート』 最終回/全5回

短編小説 『会話のないデート』 最終回/全5回

 目の前にゴンドラが到着すると、私たちは二人してそれに乗り込んだ。しっかりと手を繋いだまま、彼はしっかりとリードしてくれる。ドアが閉められると急に静かになって、なんていうか、月並みな表現だけど世界には私たち二人だけしかいないんじゃないかと思えてしまう。ゆっくりと上に登るゴンドラの中、彼はずっと外に視線を向けていた。海が広がるその景色は確かに綺麗だけど、私はもう少し彼の顔を見ていたかった。
「あ」

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短編小説 『会話のないデート』 4/全5回

短編小説 『会話のないデート』 4/全5回

   *

 長かった。これがいつまで続くのか、そう考えると少し億劫にもなって、でも、この時間を少しだけ楽しんでいる自分もいたりする。まあ今となっては、話さないことの方が普通に思えてくるくらい。ただ一日、……ううん、半日とちょっとくらいか。たった半日話してなかっただけなのに、すぐに順応しちゃうあたりが、私たち、っていうか、彼の良いところだと思う。 
 夜も更けた頃、コスモワールドにいた私たちは、な

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短編小説 『会話のないデート』 3/全5回

短編小説 『会話のないデート』 3/全5回

   *

 赤レンガ倉庫には、決して多過ぎはしない、だけど少なくもない人たちがいる。〝ブラジリアン〟と書かれた大きな垂れ幕が掲げられ、何かイベントをやっていることは容易に察しが付いた。思わず彼女の方を見て「何やってるんだろう?」と言いそうになる。だけど慌てて開きかけた口を閉じた。彼女はその様子をまじまじと見ていて、一瞬笑いそうになった顔をすぐにぴっと正したのだった。……なんだよ、笑いたければ笑え

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短編小説 『会話のないデート』 2/全5回

短編小説 『会話のないデート』 2/全5回

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 彼が言ったその言葉で、頭に血がのぼった。……っていうのは言い過ぎかな。始めはちょっと冗談のつもりで私は口を閉じたけど、その後の彼が必死に話し掛けてくるその様を見てたら、なんだかそれに抵抗したくなった。そんな抵抗を数分続けていたら、なんだか後に引けなくなる。だから私は話せなくなっちゃった。そしたら彼も話さなくなった。……当たり前か、私が話さないのに彼が一人で喋るなんておかしいもんね。…

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