会話のないデート

短編小説 『会話のないデート』 2/全5回

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 彼が言ったその言葉で、頭に血がのぼった。……っていうのは言い過ぎかな。始めはちょっと冗談のつもりで私は口を閉じたけど、その後の彼が必死に話し掛けてくるその様を見てたら、なんだかそれに抵抗したくなった。そんな抵抗を数分続けていたら、なんだか後に引けなくなる。だから私は話せなくなっちゃった。そしたら彼も話さなくなった。……当たり前か、私が話さないのに彼が一人で喋るなんておかしいもんね。……まあとにかく、私たちのせっかくのデート。まだお昼を少し過ぎた時間。今日という日はまだまだ長いし、彼とは離れたくない。こんなつまらない意地のせいでデートを台無しにするなんて嫌だったし、私たち二人は初々しい関係でもないか。だからまあ、どうにかなるでしょう。……なんて特に気負ってもいなかったのも事実だった。
 ……ああ、横浜か。そう言えば二人で初めてデートをしたのも横浜だったな~。まさか数年後にはこうしてお互い喋ることをやめてしまう関係になってしまうなんて、数年前の私に予想なんて出来なかったよ。それに、数年後の今もまだ一緒にいることも想像出来なかった。もちろんあの時、ずっと一緒にいたい!って強く思ってた。だけどそれまでの男の子はみんな最後に私を置いていった。「なんか疲れる」とか「なんか重いんだよね~」とか、曖昧な理由で釈然としないまま別れはほとんど音も立てずに訪れては、すぐに私の前から消えていった。当時の彼氏も、別れも。もっとはっきり何が悪いか言ってくれたら直しようもあるのにさ、はっきりしないせいで私は自分で何が悪いのかもよく分からないまま、彼に会ったんだった。
 なんていうか、少し臆病だった自分がその時はいた。だって、それまでみんなそうやって私から離れていくんだよ?だったらもう誰かと触れ合うなんてそんなの絶望的じゃない?私だって出来ることなら傷付きたくないし、悲しい思いもしたくない。だからなんだか怖かった。大して女の子を持ち上げるような上手なことも言えない彼だったけど、その素朴な感じになんだか怯えていたような気がする。……ずっと昔の話だなぁ。彼はもう忘れちゃってるかもしれないよね。

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