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シロクマ文芸部参加

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2023年12月の記事一覧

 明日も昨日もない彼女 :  「#振り返る」 4122文字

明日も昨日もない彼女 : 「#振り返る」 4122文字

振り返ると、砂時計の砂の様に世界はさらさらと崩れていった。向き直ると、やはり同じ様にさらさらと世界が崩れて行く。
前を歩いていた庸介の手を握り、意識を失った。

そこは病院だった。

彼女は、全ての事を忘れていた。
目の前にいる庸介の事も覚えていない。
彼女は母一人子一人で、母親は入院の手続きを済ませるとさっさと帰ってしまっい、ベットの横には庸介が椅子に座って彼女を見ていた。

「気が付いた?」

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宇宙(そら) :  「# 冬の色」

宇宙(そら) : 「# 冬の色」

冬の色は銀色だと思っていた。

あなたは知っているだろうか?
夜に私が浮遊していたことを…。

私自身も、
ずっと忘れていたのだけど…。
夜になると私は浮遊し町を見下ろしていた。
ふとそれを思い出して、
星が煌めき出すのと一緒に浮遊してみた。

するとね、
冬の色は銀色ではなくなっていたの。

町は半透明な紙で出来たペーパークラフトみたいで、葦原の金色の様な光に包まれていた。

硬くて冷たいコンク

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ありがとうの魔法  :  「#ありがとう」

ありがとうの魔法 : 「#ありがとう」

「ありがとう。
 ありがとう。
 ありがとう。
 ……。   」

雪の降り出した道に倒れ、
一人の女性が、
唯一知っているその国の言葉を
呟きながら亡くなった。

そんな物語を読んだ時、

とてつもなく悲しくなった。

午後から雲が広がり、
気温が急に下がり出して、
空からふわふわと雪が降ってきた。

次から次へと降りて来る雪。

灰色の空から降りて来る雪を見ながら、
ふと、その話を思い出した。

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雪山  :  「#十二月」

雪山 : 「#十二月」

十二月一日 朝。

冷気に覆われた街を高台の住宅地まで行くと、遠くに高く聳える山の頂上が真っ白な雪で覆われていた。三角の頂上は風が強いらしく、雪煙がひっきりなしに上がっている。

あの山が白くなるとこの街にも雪がやって来る。
空は晴れているのに、僅かに粉雪が飛んでいた。

「山が真っ白。」

「キレイだなぁ。」

夫は雪道の運転はそれ程苦ではないから、あの山をキレイと素直に思える。
私はアイスバー

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