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ありがとうの魔法 : 「#ありがとう」



「ありがとう。
 ありがとう。
 ありがとう。
 ……。   」


雪の降り出した道に倒れ、
一人の女性が、
唯一知っているその国の言葉を
呟きながら亡くなった。



そんな物語を読んだ時、



とてつもなく悲しくなった。




午後から雲が広がり、
気温が急に下がり出して、
空からふわふわと雪が降ってきた。

次から次へと降りて来る雪。

灰色の空から降りて来る雪を見ながら、
ふと、その話を思い出した。

イルミネーションの灯る商店街。
人々は慌ただしく通り過ぎ、
空気は刺すように痛い。


誰にも聞こえないくらいの小さな声で、
「ありがとう。
 ありがとう。
 ありがとう。」
と、空を見上げたまま呟いてみた。


イルミネーションの街から人々は消え、
凍てつく空気も離れていった。
雪が真綿のような温もりを持ち、
胸の辺りが暖かくなる。



もしかしたら、
物語の女性は、
悲しくなんかなかったのかも…。
死と言う現実に見えたものも、
遠くに離れて行ったのかもしれない。


悲しいと言う固定観念。

悲しいと言う固定観念が、
私を悲しくさせていただけかもしれない。



灰色の空から降る雪は妖精のようで、
首に巻いたマフラーが温もりをくれる。
赤い指先を自分の息で温める。
更にイルミネーションは光り出す。







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