教壇から見えてしまう光景
以前、教える仕事をしていた。私はたっぷり時間をかけてじっくり教材を作り、退屈な授業にならないよう精いっぱい工夫を凝らしていたので、大半の生徒たちが真剣に、時に愉しそうに、こちらに目と耳を向けてくれると嬉しかった。
気になったのは、それ以外の生徒たち。教室には 30 人以上いるから、自分は見られていないだろう、見つからないだろう、と思っていたのだろう。( 私がナメられていただけかもしれない。)
ゆらゆらと舟をこいでいる子。すでに睡魔に屈して真下を向いている子。心ここにあらずの子。落書きや内職にいそしむ子。いろんな生徒がいた。( 授業に集中させられなかった私の力量不足だったとも思う。)
そんな中、一点を凝視している生徒。そうか、この男の子は斜め前の女の子のことが気になるんだな。本人はクラスメートたちにバレないよう、こっそり見ているつもりだろうけれど、教壇からは一目瞭然。気づいてごめんね。
教壇からは、意外といろいろ見える。見えてしまう。同じように、実は見えている教師って、案外、多いのかもしれない。
ちなみに、「教育の根は苦いけれど、その実は甘い」とアリストテレスは言いましたね。