クラブハウスで俳句鑑賞 【毎日0時の一日一句】 365日、毎日俳句を紹介してみた
2021年の6月15日にクラブハウスではじまった「季節の俳句 一日一句」。基本午前0時にスタート、ごくまれに都合で午後0時スタートの日もありましたが、無事に365日連続開催、2022年6月14日に最終夜を迎えることができました。クラブハウスからどんどん人が減っていく中、最後までたくさんのみなさんと俳句のお話ができたこと、まずは心よりお礼申し上げます。
このノートでは365日で紹介した365句を日付順にまとめています。「季節の俳句」を掲げつつも、無季俳句もいろいろ、そしてこっそり川柳や短詩もご紹介しています。バードウィーク、桜ウィークなど、一テーマを集中してご紹介した期間もありましたね。この句が好き、この句が印象に残ってる、などなど、ぜひ教えていただけるとうれしいです。
155夜目からは、クラブハウスにREPLAYが残っていますので、みなさんの鑑賞を聞き返すことができます。
6月15日~
♯1 15日 勝ちて獲し少年の桃腐りやすき 寺山修司
♯2 16日 向日葵よ青年は血と鉛の海 徳弘純
♯3 17日 じゃんけんで負けて蛍に生まれたの 池田澄子
♯4 18日 愛されずして沖遠く泳ぐなり 藤田湘子
♯5 19日 手の薔薇に蜂来れば我王の如し 中村草田男
♯6 20日 虹消えて忽ち君の無き如し 高浜虚子
♯7 21日 こはさずに蛍を袖に胸に髪に 冬野虹
♯8 22日 地下鉄にかすかな峠ありて夏至 正木ゆう子
♯9 23日 泥鰌浮いて鯰も居るというて沈む 永田耕衣
♯10 24日 鉛筆の遺書ならば忘れ易からむ 林田紀音夫
♯11 25日 あきらめて短き髪を洗ひけり 石田郷子
♯12 26日 「来ないで」も「来て」も泣き声夏の月 江渡華子
♯13 27日 N夫人ふわりと夏の脚を組む 坪内稔典
♯14 28日 千万年後の恋人へダリヤ剪る 三橋鷹女
♯15 29日 鮎たべてそつと重たくなりにけり 阿部完市
♯16 30日 をさなくて螢袋(ほたるぶくろ)のなかに栖(す)む 野澤節子
7月1日~
♯17 1日 水無月の限りを風の吹く夜かな 高桑蘭更
♯18 2日 かつをろーれんすらろーれんすらかつを 岡井省二
♯19 3日 あぢさゐの花より懈(たゆ)くみごもりぬ 篠原鳳作
♯20 4日 現在(いま)も稚拙な愛なり氷菓を木の匙に 磯貝碧蹄館
♯21 5日 恐るべき君等の乳房夏来たる 西東三鬼
♯22 6日 夜間飛行士草に眠る処女膜のように 安井浩司
♯23 7日 噴水の背丈を決める会議かな 鳥居真里子
♯24 8日 ぢかに触る髪膚儚し天の川 三橋敏雄
♯25 9日 ゆるやかに着てひとと逢ふほたるの夜 桂信子
♯26 10日 軍艦をこわして螢籠つくる 田島健一
♯27 11日 ねむりても旅の花火の胸にひらく 大野林火
♯28 12日 落日の水鉄砲に濡れてあげる 五島瑛巳
♯29 13日 私の虎私の羊を食べてはやく 前島篤志
♯30 14日 ぼうたんの百のゆるるは湯のやうに 森澄雄
♯31 15日 ほうたるほうたるなんでもないよ 種田山頭火
♯32 16日 大雷雨鬱王と会うあさの夢 赤尾兜子
♯33 17日 水やうかんああ今嘘をついてゐる 渡辺鮎太
♯34 18日 みつまめをギリシヤの神は知らざりき 橋本夢道
♯35 19日 肉食ののちの瞑目ひきがへる 穂積茅愁
♯36 20日 結跏趺坐している桃の熟れ具合 山崎十死生
#37 21日 翁かの桃の遊びをせむと言ふ 中村苑子
#38 22日 船焼き捨てし/船長は//泳ぐかな 高柳重信 ←多行俳句初登場
#39 23日 兎も片耳垂るる大暑かな 夏目漱石
#40 24日 花火師と九十九万九千九百九十九の空席 宮崎斗士
#41 25日 あんずあまさうなひとはねむさうな 室生犀星
#42 26日 一条のけむり入りたる夏氷 能村登四郎
#43 27日 次の世は茄子(なすび)でもよし君と逢わん 折笠美秋
#44 28日 夏みかん酸つぱしいまさら純潔など 鈴木しづ子
#45 29日 朝顔の咲く音がする さようなら 大西泰世 ←川柳初登場
#46 30日 一生の楽しきころのソーダ水 富安風生
#47 31日 致死量の月光兄の蒼全裸(はだか) 藤原月彦
8月1日~
#48 1日 恐竜には致死量の憂愁だったか 松本恭子
#49 2日 人の世のかなしきうたを踊るなり 長谷川素逝
#50 3日 百合のゆうぐれが來るいつまで拗ねる 小澤碧童
#51 4日 大声で言えば真実ほととぎす 今瀬剛一
#52 5日 夏草やベースボールの人遠し 正岡子規
#53 6日 夏草を科学忍者は軽く踏み 中村安伸
#54 7日 原爆許すまじ蟹かつかつと瓦礫あゆむ 金子兜太
#55 8日 そよりともせいで秋立つことかいの 上島鬼貫
#56 9日 稲光り わたしは透きとほらねばならぬ 富澤赤黄男
#57 10日 祈りとは膝美しく折る晩夏 攝津幸彦
#58 11日 みづうみのみなとのなつのみじかけれ 田中裕明
#59 12日 食つてから泣け八月のさるすべり 加藤静夫
#60 13日 かりかりと蟷螂蜂の皃を食む 山口誓子
#61 14日 秋風や殺すに足らぬひとひとり 西島麦南
#62 15日 よのはてのひやむぎゆでてゐましたの 外山一機
#63 16日 君ら征きしはまぼろし炎天のまぼろし 小枝秀穂女
#64 17日 俳諧は屁のやうなもの浮いてこい 中原道夫
#65 18日 胸には恋の廃墟ばかりで蚊喰鳥 楠本憲吉
#66 19日 あさがほのかたちで空を支へあふ 小津夜景
#67 20日 子を殴ちしながき一瞬天の蝉 秋元不死男
#68 21日 素裸になつて欅にすこし似る 大塚凱
#69 22日 やつと死ぬ父よ晩夏の梅林 飯島晴子
#70 23日 鳩舎より羽毛の昇りゆき良夜■ 鷹羽狩行
#71 24日 人形の誰にも抱かれ草の花 大木あまり
#72 25日 ながれぼしそれをながびかせることば 福田若之
#73 26日 琴墜ちてくる秋天をくらりくらり 金原まさ子
#74 27日 君は私の舟だつたのに秋麗(あきうらら) 大高翔
#75 28日 空に舟が髪にその櫂のしずくが 今泉康弘
#76 29日 君胡麻擂れ我擂鉢を押さへゐむ 小澤實
#77 30日 柘榴が口あけたたはけた恋だ 尾崎放哉
#78 31日 づかづかと来て踊子にさゝやける 高野素十
9月1日~
#79 1日 綾とりの男同士に夏逝く潟 橋閒石
#80 2日 栗食むや若く哀しき背を曲げて 石田波郷
#81 3日 霧よ包め包めひとりは淋しきぞ 臼田亞浪
#82 4日 切株やあるくぎんなんぎんのよる 加藤郁乎
#83 5日 渡り鳥わが名つぶやく人欲しや 原裕
#84 6日 露の野をわれへ嫁げや玉の輿 高山れおな
#85 7日 雨音や斜塔を妻といたしたく 岡村知昭
#86 8日 くちすへばほほづきありぬあはれあはれ 安住敦
#87 9日 不可逆性虚血性銀河ニ帰ラナム 夏石番矢
#88 10日 金銀瑠璃硨磲瑪瑙琥珀葡萄哉 松根東洋城
#89 11日 菊見事死ぬときは出来るだけ楽に 日野草城
#90 12日 ビル、がく、ずれて、ゆくな、ん、てきれ、いき、れ なかはられいこ
#91 13日 新宿ははるかなる墓碑鳥渡る 福永耕二
#92 14日 鳥葬にまづ駆けつけの小鳥来る 岡田一実
#93 15日 マロングラッセ季題アップルパイ季題 京極杞陽
#94 16日 寂しいと言い私を蔦にせよ 神野紗希
#95 17日 葛の花くらく死にたく死にがたく 渡辺白泉
#96 18日 遺品あり岩波文庫「阿部一族」 鈴木六林男
#97 19日 障子しめて四方の紅葉を感じをり 星野立子
#98 20日 たましひのたとへば秋の螢かな 飯田蛇笏
#99 21日 月の出や口をつかいし愛のあと 江里昭彦 ←このへんから「月」の特集
#100 22日 月光にいのち死にゆくひとと寝る 橋本多佳子 ←100回記念
#101 23日 なにもかも月もひん曲ってけつかる 栗林一石路
#102 24日 徐々に徐々に月下の俘虜として進む 平畑静塔
#103 25日 月光の象番にならぬかといふ 飯島晴子
#104 26日 コスモス咲き駅長は持つ大時計 矢島房利
#105 27日 大鯉のぎいと廻りぬ秋の昼 岡井省二
#106 28日 ある闇は蟲の形をして哭けり 河原枇杷男
#107 29日 有る程の菊抛げ入れよ棺の中 夏目漱石
#108 30日 恋人よ草の沖には草の鮫 小林恭二
10月1日~
#109 1日 小鳥またくぐるこの世のほかの門 田中裕明
#110 2日 あきさめはぬれたる花を記憶せり 小沢青柚子
#111 3日 をりとりてはらりとおもきすすきかな 飯田蛇笏
#112 4日 鶏頭の十四五本もありぬべし 正岡子規
#113 5日 がんばるわなんて言うなよ草の花 坪内稔典 ←かろやかウィーク!
#114 6日 君のそばへとにかくこすもすまであるく 清水径子
#115 7日 君去なば食はむ藷君に見られしや 石田波郷
#116 8日 空は太初の青さ妻より林檎うく 中村草田男
#117 9日 薄紅葉恋人ならば烏帽子で来 三橋鷹女
#118 10日 こいびとになってくださいますか吽 大西泰世
#119 11日 リトヴィノフは葡萄酒じやないぞ諸君 仁智栄坊
#120 12日 芭蕉忌の水をよろこぶ鳥獣 原裕 ←バードウィーク
#121 13日 おおぞらに孔雀錆びつく昭彦忌 江里昭彦
#122 14日 かなしめば鵙金色の日を負ひ来 加藤楸邨
#123 15日 人来ねば鶸の来ている石舞台 松崎鉄之介
#124 16日 あら波や或は低き雁の列 原石鼎
#125 17日 一生の白いかもめが飛んでくる 阿部青鞋
#126 18日 幾人か敵あるもよし鳥かぶと 能村登四郎
#127 19日 さんま食いたしされどさんまは空を泳ぐ 橋本夢道
#128 20日 鉋屑の出る有様こそ面白し棟梁はこの朝識りぬ 中塚一碧樓 ←自由律ウィーク
#129 21日 とんぼが淋しい机にとまりに来てくれた 尾崎放哉
#130 22日 わが心のやうな林檎があるナイフのそば 海藤抱壺
#131 23日 すきがありますすすきすきです 岡田幸生
#132 24日 石に腰を、墓であつたか 種田山頭火
#133 25日 「馬」 軍港を内臓してゐる 北川冬彦 ←こっそり自由詩
#134 26日 ずぶぬれて犬ころ 住宅顕信
#135 27日 陽へ病む 大橋裸木
#136 28日 ひとり膝を抱けば秋風また秋風 山口誓子
#137 29日 秋の暮大魚の骨を海が引く 西東三鬼
#138 30日 胡桃割る閉じても地図の海青し 寺山修司
#139 31日 稲無限不意に涙の堰を切る 渡辺白泉
11月~
#140 1日 小鳥来て午後の紅茶のほしきころ 富安風生
#141 2日 君の剥く梨の惑星自転する 作者不詳
#142 3日 独房に林檎と寝たる誕生日 秋元不死男
#143 4日 虫を祭れる船や音なく燃え盛る 夏石番矢
#144 5日 死ぬときは箸置くやうに草の花 小川軽舟
#145 6日 音のして海は見えずよ草の花 木下夕爾
#146 7日 跳び箱の突き手一瞬冬が来る 友岡子郷
#147 8日 定型やヴァイオリンにて野菊打つ 摂津幸彦
#148 9日 川はきつねがばけたすがたで秋雨くる 外山一機
#149 10日 いなびかり海の花道誰か来る 津田清子
#150 11日 あなたなる夜雨の葛のあなたかな 芝不器男
#151 12日 泣くことも柿剥くことも下手なりけり 橋閒石
#152 13日 暗がりに檸檬泛かぶは死後の景 三谷昭
#153 14日 なつめ若き実のもと明治のうた低く 古沢太穂
#154 15日 深淵を蔓がわたらんとしつつあり 神生彩史
#155 16日 やつてみせくれしスケートジャンプかな 京極杞陽
#156 17日 かの鷹に風と名づけて飼ひ殺す 正木ゆう子
#157 18日 白鳥の首のカアブを真似てみよ 神野紗希
#158 19日 雄鹿の前吾もあらあらしき息す 橋本多佳子
#159 20日 月の出や死んだ者らと汽車を待つ 鈴木六林男
#160 21日 夢の世に葱を作りて寂しさよ 永田耕衣
#161 22日 空中に海をおもへり恋の冥(うみ) 大屋達治
#162 23日 しぐるるや駅に西口東口 安住敦
#163 24日 たくさんの犬埋めて山眠るなり 川上弘美
#164 25日 定型詩ばかりのノート憂国忌 皆吉司
#165 26日 帰り花鶴折るうちに折り殺す 赤尾兜子
#166 27日 右手は勇左手は仁や懐手 高浜虚子
#167 28日 木の家のさて木枯らしを聞きませう 高屋窓秋
#168 29日 リボンかけてもらふまでなる懐手 能村研三
#169 30日 しら帆百上げる十一月末日の仕事 阿部完市
12月~
#170 1日 まぼろしの鱶が書斎を出てゆかぬ 池田澄子 ←三橋敏雄忌
#171 2日 銀杏散るまつただ中に法科あり 山口青邨
#172 3日 冬薔薇や賞与劣りし一詩人 草間時彦
#173 4日 綿入が似合う淋しいけど似合う 大庭紫蓬
#174 5日 土を拂ひ枯菊を置く火の上に 大橋桜玻子
#175 6日 燃えずの火濡れずの水をわたり馬 九堂夜想
#176 7日 スケートの濡れ刃携え人妻よ 鷹羽狩行
#177 8日 らふそくの中は雨降る音ならむ 林桂
#178 9日 胸中に海鳴りあれど海見たし 折笠美秋
#179 10日 寒月やさて行く末の丁と半 小沢昭一
#180 11日 冬蝶逃げよ千の検索窓が開く 十亀わら
#181 12日 ラガー等のそのかちうたのみじかけれ 横山白虹
#182 13日 戦あるかと幼な言葉の息白し 佐藤鬼房
#183 14日 一兵もなき極月の城の奥 西村逸朗
#184 15日 あはれこの瓦礫の都冬の虹 富澤赤黄男
#185 16日 息白く消えて途方もなく昨日 福田若之 ←同時代の俳人特集
#186 17日 もう一度言ふ蕪提げ逢ひに来よ 生駒大祐
#187 18日 蕪煮てあした逢ふひといまはるか 高柳克弘
#188 19日 いい葱はコンソメで煮るまだ泣くよ 佐藤智子
#189 20日 にはとりの煮ゆる匂ひや雪もよひ 鴇田智哉
#190 21日 湖を船は出られず細雪 小野あらた
#191 22日 みな王に触れてからゆく冬至かな 中村安伸
#192 23日 なにもない雪のみなみへつれてゆく 田島健一
#193 24日 それぞれに森を離れてきて聖樹 矢野玲奈
#194 25日 知らない町の吹雪のなかは知っている 佐藤文香
#195 26日 見てはならない冬の虹見なくては 岡村知昭
#196 27日 週二十一ポンド三十ペンスの失業保険文学青年は泳ぐのが得意だ 青木重治
#197 28日 俺に是非を説くな激しき雪が好き 野村秋介
#198 29日 嘘を言ふシヨール臙脂に雪ぼたる 飯田龍太
#199 30日 年守るやなにか船きてのれといふ 中島月笠
#200 31日 船のやうに年逝く人をこぼしつつ 矢島渚男 ←200回記念
1月
#201 1日 去年今年貫く棒の如きもの 高浜虚子
#202 2日 初夢のわが野に放つ一悍馬 飯島晴子
#203 3日 初湯殿卒寿のふぐり伸ばしけり 阿波野青畝
#204 4日 寝正月大和島根の浮くまゝに 中島月笠
#205 5日 生と死のあはひに恋や懸想文 後藤比奈夫
#206 6日 姫始闇美しといひにけり 矢島渚男
#207 7日 いくたびも雪の深さを尋ねけり 正岡子規 ←東京大雪
#208 8日 寒鯉を雲のごとくに食はず飼ふ 森澄雄
#209 9日 銀の溶けたる冬眠に入る蝙蝠たち 阿部青鞋
#210 10日 千里飛び来て白鳥の争へる 津田清子
#211 11日 寒凪やはるかな鳥のやうにひとり 清水径子
#212 12日 水鳥見たはかない滿足で歸ります 中塚一碧楼
#213 13日 牡蠣にレモン滴らすある高さより 正木ゆう子
#214 14日 詩の如くちらりと人の炉辺に泣く 京極杞陽
#215 15日 冬菊のまとふはおのがひかりのみ 水原秋桜子
#216 16日 血を売って愉快な青年たちの冬 鈴木六林男
#217 17日 白梅や天没地没虚空没 永田耕衣
#218 18日 神戸何処へゆきし神戸は厳寒なり 堀口千穂子
#219 19日 寒月下あにいもうとのやうに寝て 大木あまり
#220 20日 寒月に焚火ひとひらづゝのぼる 橋本多佳子
#221 21日 青き炎(ほ)をつつむ赤き炎久女の忌 岡田一実
#222 22日 火を焚くや枯野の沖を誰か過ぐ 能村登四郎
#223 23日 昔雪夜のラムプのやうなちひさな恋 三橋鷹女
#224 24日 綿虫やそこは屍の出でゆく門 石田波郷
#225 25日 雪女郎おそろし父の恋恐ろし 中村草田男
#226 26日 僕を恋うひとがいて雪に喇叭が遠くふかるる 橋本夢道
#227 27日 息子きみは弓だ雪夜に強く撓り 田島健一
#228 28日 ことごとく未踏なりけり冬の星 高柳克弘
#229 29日 冬天を降りきて鉄の椅子に在り 西東三鬼
#230 30日 人体に谷あり谷の冬ざくら 柿本多映
#231 31日 約束の寒の土筆を煮て下さい 川端茅舎
2月
#232 1日 寒烏己が影の上におりたちぬ 芝不器男
#233 2日 恋人に近づく冬の象の鼻 皆吉司
#234 3日 叱られて目をつぶる猫春隣 久保田万太郎
#235 4日 吾(あ)も春の野に下り立てば紫に 星野立子
#236 5日 火を水のまぶたにこぼす青鞋忌 妹尾健太郎
#237 6日 太郎に見えて次郎に見えぬ狐火や 上田五千石
#238 7日 三人が傾きボブスレー曲がる 藤田哲史
#239 8日 海になつて鯨を出入りするといふ 中村安伸
#240 9日 お祈りをしたですホットウイスキー 佐藤智子
#241 10日 外套の裏は緋なりき明治の雪 山口青邨
#242 11日 誰か鈴振るらし水鏡に雪降るらし 河原枇杷男
#243 12日 蝶墜ちて大音響の結氷期 富沢赤黄男
#244 13日 ひぐまの子梢を愛す愛しあふ 生駒大祐
#245 14日 君の涙の潜き上げたる真珠かな 金子晋
#246 15日 日の鷹がとぶ骨片となるまで飛ぶ 寺田京子
#247 16日 寒ければ着重ね恋しければ逢う 池田澄子
#248 17日 蹴あげたる鞠のごとくに春の月 富安風生
#249 18日 春ひとり槍投げて槍に歩み寄る 能村登四郎
#250 19日 恋人のからだの丘も春の暮 正岡豊
#251 20日 梅咲いて庭中に青鮫が来ている 金子兜太
#252 21日 大正の男激減す春疾風 三橋敏雄
#253 22日 子猫ねむしつかみ上げられても眠る 日野草城
#254 23日 あふみよりかなしき春が遠江 大屋達治
#255 24日 猫と瓶同じ処が濡れてゐる 摂津幸彦
#256 25日 祈らねば獣語を放つかも知れず 大西泰世
#257 26日 一行の詩が処刑台のやうに響く朝だ 夏石番矢
#258 27日 俳句思へば泪わき出づ朝の李花 赤尾兜子
#259 28日 苺ジヤム男子はこれを食ふ可らず 竹下しづの女
3月~
#260 1日 地の春に水の絶景はじまりぬ 中村苑子
#261 2日 黛を濃うせよ草は芳しき 松根東洋城
#262 3日 仕る手に笛もなし古雛 松本たかし
#263 4日 顔じゆうをたんぽぽにして笑うなり 橋閒石
#264 5日 菫程な小さき人に生れたし 夏目漱石
#265 6日 「大和」よりヨモツヒラサカスミレサク 川崎展宏
#266 7日 音楽を降らしめよ夥(おびただ)しき蝶に 藤田湘子
#267 8日 われは恋ひきみは晩霞を告げわたる 渡辺白泉
#268 9日 卒業の美女より水の如き礼 平畑静塔
#269 10日 梅の木の下にはなみだの壺がある 津根本潮
#270 11日 小さくて全き六腑水温む 田中裕明
#271 12日 チューリップ喜びだけを持つてゐる 細見綾子
#272 13日 鳥帰るいづこの空もさびしからむに 安住敦
#273 14日 ひかり野へ君なら蝶に乗れるだろう 折笠美秋
#274 15日 春の水とは濡れてゐるみづのこと 長谷川櫂
#275 16日 春来る童子の群れて来る如く 相生垣瓜人
#276 17日 弟よ/相模は/海と/著莪の雨 高柳重信
#277 18日 黒猫の子のぞろぞろと月夜かな 飯田龍太
#278 19日 にもつは絵馬風の品川すぎている 阿部完市
#279 20日 好きなものは玻璃薔薇雨駅指春雷 鈴木しづ子
#280 21日 法医學・櫻・暗黒・父・自瀆 寺山修司 ←桜ウィーク!
#281 22日 花冷えのイカリソースに恋慕せよ 坪内稔典
#282 23日 ふたりづつふたりづつ花の中に入る 桂信子
#283 24日 眠し眠し櫻となつてゆくからだ 渡辺鮎太
#284 25日 櫻姫とは月明に消ゆるもの 田中裕明
#285 26日 花おぼろとは人影のあるときよ 後藤比奈夫
#286 27日 ゆで玉子むけばかがやく花曇 中村汀女
#287 28日 チチポポと鼓打たうよ花月夜 松本たかし
#288 29日 笑い了えし体が桜ふぶきの中 池田澄子
#289 30日 君琴弾け我は落花に肘枕 芥川龍之介
#290 31日 波のうへに花浮き花や遠ロシヤ 大屋達治
4月~
#291 1日 さきみちてさくらあをざめゐたるかな 野澤節子
#292 2日 散りながら猫をころがすさくらかな 阿部青鞋
#293 3日 君を待たしたよ桜ちる中をあるく 河東碧梧桐
#294 4日 愛よりまづほろびて雨の花筏 塚本邦雄
#295 5日 花影婆娑と踏むべくありぬ岨の月 原石鼎
#296 6日 葉桜の中の無数の空さわぐ 篠原梵
#297 7日 うそついているにんげんはやまざくら 阿部完市
#298 8日 ヒトはケモノと菫は菫同士契れ 金原まさ子
#299 9日 春の夜の死よりしづかに接吻す 神尾彩史
#300 10日 牡丹百二百三百門一つ 阿波野青畝
#301 11日 千年とひと春かけて鳥堕ちぬ 摂津幸彦
#302 12日 蝶になる途中九億九光年 橋閒石
#303 13日 春風や闘志いだきて丘に立つ 高浜虚子
#304 14日 まゝ事の飯もおさいも土筆かな 星野立子
#305 15日 時計屋の時計春の夜どれがほんと 久保田万太郎
#306 16日 野遊びのふたりは雨の裔ならむ 河原枇杷男
#307 17日 をみなとはかかるものかも春の闇 日野草城
#308 18日 教室できみを裸にして森だ 正岡豊
#309 19日 松の花かくれてきみと暮らす夢 渡辺白泉
#310 20日 狡る休みせし吾をげんげ田に許す 津田清子
#311 21日 腸のよろこんでゐる落椿 飯島晴子
#312 22日 大晩春泥ん泥泥どろ泥ん 永田耕衣
#313 23日 恋人奪いの旅だ 菜の花 菜の花 海 坪内稔典
#314 24日 永き日のにはとり柵を越えにけり 芝不器男
#315 25日 てのひらにのせてくださる柏餅 後藤夜半
#316 26日 木よ人よ漣すぎるものたちよ 岡田一実
#317 27日 わが死後の乗換駅の潦 鈴木六林男
#318 28日 鳥雲に人みな妻を遺し死す 安住敦
#319 29日 天国の時計鳴りゐるきんぽうげ 堀内薫
#320 30日 死は春の空の渚に遊ぶべし 石原八束
5月~
#321 1日 風船を手放すここが空の岸 上田五千石
#322 2日 春暁や足で涙のぬぐえざる 折笠美秋
#323 3日 頭悪き日やげんげ田に牛暴れ 西東三鬼
#324 4日 雀の巣かの紅糸をまじへをらむ 橋本多佳子
#325 5日 君我に未完の詩あり夏始まる 橋本榮治
#326 6日 目つむりていても吾を統ぶ五月の鷹 寺山修司
#327 7日 クレヨンの黄を麦秋のために折る 林桂
#328 8日 麦よ死は黄一色と思いこむ 宇多喜代子
#329 9日 陰に生る麦尊けれ青山河 佐藤鬼房
#330 10日 蟇誰かものいへ声かぎり 加藤楸邨
#331 11日 郭公や何處までゆかば人に逢はむ 臼田亞浪
#332 12日 恋人のああ何の瞳ぞ薔薇映し 高柳重信
#333 13日 緑陰や矢を獲ては鳴る白き的 竹下しづの女
#334 14日 儒艮とは千年前にした昼寝 中村安伸
#335 15日 青嵐演劇部員少し自由 田島健一
#336 16日 若者には若き死神花柘榴 中村草田男
#337 17日 毛虫焼く頭の中で蝶にして 北大路翼
#338 18日 なほ北に行く汽車とまり夏の月 中村汀女
#339 19日 蟻よバラを登りつめても陽が遠い 篠原鳳作
#340 20日 蟻台上に飢ゑて月高し 横光利一
#341 21日 藤椅子の人みな本を得てしづか 波多野爽波
#342 22日 咳暑し茅舎小便又漏らす 川端茅舎
#343 23日 化石にしてあげるそしてやさしくしてあげる 早舩煙雨
#344 24日 夏草に汽罐車の車輪来て止る 山口誓子
#345 25日 鉄階にいる蜘蛛智慧をかがやかす 赤尾兜子
#346 26日 あなミントゼリーに毒を盛られたし 佐藤智子
#347 27日 この三人だから夕立が可笑しい 宮崎斗士
#348 28日 戦争にたかる無数の蠅しづか 三橋敏雄
#349 29日 目覚めなば父惶ろしき午睡かな 原石鼎
#350 30日 夫人よ炎天の坂下でどぎまぎしてよろしい 中塚一碧楼
#351 31日 楡よ、おまえは高い感情のうしろを見せる 加藤郁乎
6月
#352 1日 一〇〇挺のヴァイオリンには負けられぬ 定金冬二
#353 2日 双腕はさびしき岬百合を抱く 正木ゆう子
#354 3日 ふとアイスクリームといふことばいで 京極杞陽
#355 4日 百日紅まことの愛は遂になし 金子兜太
#356 5日 六月を奇麗な風の吹くことよ 正岡子規
#357 6日 大粒の雨が来さうよ鱧の皮 草間時彦
#358 7日 抜手切る 亀よ 落暉は沖で待つ 三橋鷹女
#359 8日 眼のくぼむあなた泉と云ふいつか 青本柚紀
#360 9日 握りつぶすならその蝉殻を下さい 大木あまり
#361 10日 亡びつつ砂は音叉を恋うらしも 九堂夜想
#362 11日 夏真昼死は半眼に人をみる 飯田蛇笏
#363 12日 睡蓮や聞き覚えある水の私語 中村苑子
#364 13日 をみな等も涼しきときは遠を見る 中村草田男
#365 14日 あの先で修羅はころがれ雲の峰 幸田露伴
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