耳をすませば――「人生」を教えてくれる食材たちの声。
今日のごはん。
どちらも同じ食材で作った料理である。
同じ食材でもどう作るかで全然違ったものに。
どう魅せるか、を考える。
これこそが私の生業、「編集」である。
・
某月某日。
午前のロングミーティングせから解放された私は点呼を始めた。
「さつまいも!」
「えのき!」
「たまねぎ!」
「にんじん!」
「アボカド!」
「トマト!」
「鶏肉!」
それと……
「ごはん!」
呼び出されし者たちがいそいそと姿を現し、キッチンに出揃ったところで調理を開始する。「キッチン」といっても一人暮らしの1K。もはや「廊下」なのであるが。次の打ち合わせまで時間がない。が、午後を乗り切るには何かパワーになるものを。食材たちを鍋に放り込んだらぐつぐつぐつ……。しばらくするとカレーができていた。
他人事のように書いているのは、カレーを作るつもりではなかったからだ。そう、冷蔵庫を開けるまでは。証拠といってはなんだが、写真にはお世辞にも「カレーらしい」とは思えない食材がいくつか紛れ込んでいる。気付いたあなたはじつに鋭い。
上の写真のような和食にされる予定で呼び出された食材たちは、さぞ驚いただろう。なぜか同じ皿で泳がされている集合15分後。
人生は何が起こるかわからない!
一番驚いたのは、長らく眠っていたバーモントカレーに違いない。突如叩き起こされた勢いでいい感じに溶けだす。
寝ているばかりではダメ! 人生には適度な刺激が必要なのだ!
食材たちの声に耳を傾けていると、人生の大切な教えに辿り着ける。
心も体も自然と満たされていく“口福”の時間(とき)である。
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