映画『あんのこと』
入江監督は、僕にとっては、京都フィルムメーカズラボに参加した時のゲストスピーカーで、ラボの先輩にあたる方。
そんな先輩が、とんでもない映画を撮ったというので、気になっていました。
前日にチケットを取ろうと思ったら、新宿の映画館がすでに結構席が無くなっていたので、立川に切り替え。
立川も、事前購入の段階では正直かなり席が空いていたのですが、いざ、上映が始まる直前には、ほぼ満席。
作品の内容と『ふてほど』効果か。
「実話を基にしたフィクション」という事ですが、ただ単に実話だからリアル、というレベルではないリアルさがありました。
それは、入念に行われた取材や、それを基におそらく、悩み、迷い、自問自答しながら書かれたであろう脚本、そして、役者の「そこに生きる演技」それらが見事に融合したものでした。
海外だったら、「ありそうかも」と思える話ですが、実際に日本でもこういう事があったのかと、驚きを隠せませんでした。
正直、自分の住んでいるアパートの住人の事も良く分かっていないのが現状。
「お隣の家に醤油を借りる」なんて、昭和的な繋がりもほとんどないし、劇中にも描かれていますが、その人の状況をきちんと把握するのではなく、
数字だけを表面的に捉えて対応する行政の在り方も、彼女がいわゆる「社会」から零れ落ちてしまった要因の一つなのかも…と感じました。
いや、でも、自分も社会を構成している一部分である事も確かで、今も杏のような人がいるであろう状況を救えていない現状に、何とも言えない気持ちになりました。
この映画の中で、杏は自ら望んで老人介護の仕事をして、他人に押し付けられた形ではあるけど、子供の世話をしますが、ほぼ何も与えられてこなかった杏が、「他人のために」尽くす事で、救いを得ていたのが印象的でした。
子供を育てるエピソードはフィクションとの事ですが、杏が、命を次に繋げたという感じがして、杏の、短い生涯の中にも、この世に何か一つ残せたものがあったという願いが込められているように感じました。
『市子』の杉咲花さん、『ミッシング』の石原さとみさんに並ぶほどの河合優美さんの鬼気迫るお芝居が、杏という人物をそこに生み出していました。
是非、ご覧になってみてください。