東京 三茶 世田谷線
2年ぶりに東京でのライブが決まった。
と、いうだけで、コロナの影響だろうなと理解できる。
もう、頭の中はある意味とっくに"withコロナ"なのかもしれない。
唄人羽の「Dear Coronavirus」と題したライブは福岡での22周年ライブから始まった。
ツアーというわけではないんだろう。だから始まったと言うのは語弊があるかもしれない。
2/20北海道、3/19東京、3/27大阪。
久しぶり。元気だった?いろいろ大変だったよね。頑張ったよね。
と、手紙を届けるように各地へ唄を届けてくれる。
そんな「Dear Coronavirus」の東京編に行ってきた。
唄人羽東京ワンマンLIVE 『Dear Coronavirus〜東京〜』
日程 : 2022年3月19日(土曜)
会場 : 三軒茶屋GRAPEFRUIT MOON
時間 : open 18:00 start 18:30
とはいえまだコロナ禍。東京はギリギリでまん延防止の期間内。なかなか厳しい状況。
それでも蓋を開けてみるとソールドアウト。
おかえりなさい!待ってたよ!
たくさんの人のそんな声がそこに表れていたように思う。
当日、お昼までは晴れていて、気温も高めだった。
お昼過ぎからぐうんと天気が悪くなって、雨がざあざあ降ってきた。
雨は冷たくて、風も強かった。
でも、不吉な予感はしなかった。
晴れも曇りも雨も風も暖かさも寒さも、もしかするとみんな唄人羽に会いに来たのかもしれない。なんて。
会場の三軒茶屋GRAPEFRUIT MOONは、約2年前に中止になったツアーの東京会場でもあった。
私もそれに参加予定だった。そこで唄人羽の東京ライブに初めて行く予定だった。
2年待った。
Dear Coronavirus 2年待たせていただきましたよ。
なんて。
検温、消毒、受付、来場者情報の記入。慣れてきたそれらを済ませて会場に入ると、ステージの周りには配信機材、機材、機材。そして機材。
これ全部使うの?ほんとに?いける?手は足りてる?と思うくらい機材があった。
アーティストやスタッフの、足を運ぶということが難しい人へも音楽を届けたいんだ!という気持ちが、ここまで配信ライブというものを進化させたんだろう。
Dear Coronavirus 配信というツールを味方につけさせていただきましたよ。
なんて。
開演を待つ会場内はあまりザワザワしていなかった。もう少し控えめ。どちらかというとサワサワ。だろうか。
これから始まるわくわくと、久しぶりのドキドキと、どんなんだったっけのソワソワ。それがサワサワという音になって溢れていた。
暗転して2人が登場。ギターを手に取ってチューニングを確認。メロディーを成さない単音が小さく響く。
この瞬間の心臓が痺れる感覚がたまらない。わかる人は挙手をお願いしたいくらいたまらなく好き。
"お久しぶりです。"
"会いたかったですよ。"
言ったのは哲郎さんだったけれど、会場全員がそう思っていたのは間違いない。
Dear Coronavirus みんなで共有できる気持ち、いただきましたよ。
なんて。
そうやってふわっと会場をひとつにして、一曲目の「エンブレム」を正面からぶつけてきた。
簡単にこの言葉を選択したくはない。
でも、これしかない。悔しい。
かっこよかった。完全に。
MCは相変わらずで、なんでもないくだらない話が多くて、頭が痛くなるくらい笑った。会場もたくさんの笑いが起きていた。
音楽でキュッと締めたと思ったらMCでゆるっと笑わせて、脳の温冷浴のような、脳のサウナのような、そんな時間だった。あまみが出た気がする。
"東京 三茶 世田谷線"で始まる「パレード」を東京の三茶で聴いたのは私は初めてで、感動という言葉では単純すぎるような、なんとも言えない感覚だった。
そのせいなのかなんなのか、今までで一番自分の中の凸凹にすこーんと馴染むなあと思った。きっと気のせいなんだろう。
だんだんとライブシーンで馴染んできた「大声を出してはいけない」という決まり事。
そんな一緒に歌う事ができない中でも「ONE MORE SMILE」はしっかりちゃっかり一体感。哲郎さん曰く、心の声(笑)とやらが聞こえたらしい。
"次の曲で最後になりました。"
の後に、ゆっくりと哲郎さんから切り出された話題。
"コロナだけじゃなくて、特に今は悲しい事ばかりが起こって…"
それまで出てこなかったけれど、確実に全員の心の中にあった話題。
本当にゆっくりと切り出された。
私自身、戦争がテーマの曲は今回どうするんだろう。どうするのが正解なんだろう。と、数日前から少し気になっていた。
新参者の私がそうだったのだから、おそらく気になっていた人は他にもいるんだろう。
ただ、いざライブが始まってみるとそのことは頭の隅に隠れてしまっていた。どこかで隠したいと思ってしまっていたのかもしれない。
そんな時、最後の曲の前に安岡さんがちゃんと言葉にしてくれた。
"今回のセットリストからは外しました。"
その葛藤を伝える言葉は長くは無かったけれど、その裏側にはたくさんたくさん考えた時間が存在しているように思えた。
"世の中で悲惨なことが起きているのに、ライブをして良いのか。"
私も、こんな時にライブに行って楽しんでも良いんだろうか。と、思ったりしていた。それも私だけではないと思う。
そこを正直に言ってくれたおかげで、少しの安心感が生まれた。
それは決してその話題に結論が出たからではない。
"こうやって(みんなに)来ていただいて、救われました。どうもありがとうございます。"
結局、その事が正しいとか正しくないという結論を言ったわけではない。きっと正解なんて無い。
それでも2人は来てくれて、みんながそこに集まった。それだけが事実で、それを共有できた。
そこに少なくとも私は救われた。
なんとなく感じるのは
真面目な話をする時の安岡さんの言葉は、いつもスタートからゴールに向かってしっかりと最短距離で進む気がする。高速道路という感じだろうか。
対して、哲郎さんの言葉はいつも柔らかくて優しくて、ゆっくりと周りの景色を確認しながら進む気がする。下道を行く感じだろうか。
今回も、哲郎さんがゆっくりとその話題を切り出し、安岡さんがその話題を確実にゴールに繋げた。そのおかげで、繊細で強めの話題がとてもすんなり聞く側の体の中に入ってきたんだと思う。
23年目だからこそ自然にできてしまう技なのかもしれない。
最後の曲の、とっても優しい「虹空」が終わった後は会場限定のアンコール。
マイクは通さず生音で。
「4人」と曲紹介はしたものの、安岡さんの優しい気まぐれで、雨が降っているからと「雨上がりの空」を歌ってくれた。
その後、今度こそ「4人」の流れになっておきながら、安岡さんのお茶目な気まぐれで、懐かしい曲に少しずつ挑戦してくれた。
最終的に「4人」をちゃんと歌ってくれた。
会場だけのアンコール。
まだ足を運べない環境な人も居て、これを感じるのは早いのかもしれない。失礼なのかもしれない。
でも、来場者だけの時間を過ごしたというのは、少しずつ日常が戻ってきているようで嬉しかった。
これから徐々にそれを感じられる人が増えて欲しい。
行きたかったのに。が、減って欲しい。
終演後、会場が明るくなった時、フワッと空白のような時間が一瞬だけ発生した。
夕方と夜の隙間のような、ライブと余韻の隙間。ほんの一瞬。
理解してもらえるかは分からないけれど、私はライブでしばしば感じる。
終わったのに体がまだ終わりを理解していない瞬間。というのだろうか。
なんともくすぐったい気持ちになる。
その後じわじわと会場に余韻が滲み始めて、全体が名残惜しそうにぽつりぽつりと動き始めた。
帰り際の物販。と、見送り。
世の中に縛りが無ければ、みんながもっとゆっくりコミュニケーションをとれるんだろう。
それでも可能な限り丁寧に対応して、見送ってくれた。
そして外に出ると、雨は上がっていた。
3月19日。三軒茶屋GRAPEFRUIT MOON。
私は確実に唄人羽のライブに行った。夢じゃない。
来てほしかった気持ちと来たかった気持ち、離れた場所にも届けたい気持ちとそれを向こう側へ繋げたい気持ち。
満席の会場でひとりひとりが持つそれぞれの感情が、ちょうどピッタリ組み合わさって大きなひとつになっていたように思う。
歌う2人の後ろにある、テトリスみたいな沢山の四角。それがまるでそれを表現しているようだった。
次、東京に来てくれるのがいつになるのかは分からない。約束はまだ何も無い。
それでも確実に言えるのは、ずっと同じ気持ちで待っている人がたくさんいるという事だろう。
なんてったって、ソールドアウトだから。
Dear Coronavirus 負けませんよ。しぶといですからね。
なんて。
改めて配信を観てみると、映像や音の美しさに感動する。GRAPEFRUIT MOONの配信、えぐい。
唄人羽のお2人、スタッフのみなさん、三軒茶屋GRAPEFRUIT MOONに、全力の感謝と敬意を。
ありがとぉーぅ。
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