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「“右翼”雑誌」が朝日を見る時、朝日は「”右翼”雑誌」を見るか?:梶原麻衣子『「“右翼”雑誌」の舞台裏』(星海社新書)

皆さんは論壇誌といえば何を思い浮かべるでしょうか。

書店の雑誌のコーナーに行くと、『世界』や『中央公論』、『文藝春秋』といった歴史や伝統のある雑誌のほか、見出しが派手な雑誌を見たことはありませんでしょうか。『WiLL』や『Hanada』などの雑誌がその代表です。

雑誌の表紙を見ると、その雑誌の巻頭特集が大きくタイトルに出されていますが、『WiLL』『Hanada』では縦書きの文字に背景は原色に近い色の帯。これはかなり目立ちますよね。

目立つのはタイトルだけではなく、中身もまた強烈なものが揃っています。「中国に屈する日本外交 習近平が国賓来日⁉」(『WiLL』)、「【内部告発スクープ!】れいわ新選組の本性」(『Hanada』)など、強い言葉で見出しを出し、惹きつけられるなと思います。

これら『WiLL』や『Hanada』を「右翼雑誌」として位置づけ分析をしているのが、かつて同雑誌の編集部にも所属していた梶原麻衣子氏の著作です。



本の紹介

(目次)
第1章 「右翼雑誌」はこうして作られる
第2章 ゲリラ部隊は正規軍にはなれない
第3章 「最強のアイドルにして悲劇のヒーロー」 安倍晋三
第4章 ピンからキリまで 「右翼雑誌批判」の虚実
第5章 読者との壮大な井戸端会議
第6章 『Hanada』編集長が考えていること 花田紀凱氏インタビュー

講談社BOOK倶楽部より、https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000405014

全6章立て、208ページですが、見た目よりも話がかなり入ってきやすく、スムーズに読むことができるかと思います。著者ももともと「中の人」ということもあり、読みやすく、かつ惹きつけられる文章というのは強く感じるところです。

『Will』『Hanada』とは

上記でも記したように、いわゆる「右翼雑誌」として、書店に並ぶ似た見た目をしている2つの雑誌についての予備説明が必要かと思います。

『WiLL』と『Hanada』の2つが著名な「右翼雑誌」として有名かと思いますが、先に登場したのは『WiLL』でした。2004年11月にワック株式会社から発売され、現在にいたるまで発行が続けられています。創刊当初の編集長こそ、この本でもほぼ主役として取り上げられる花田紀凱氏でした。

その後、2016年に花田紀凱氏がワック株式会社から退職すると、今度は飛鳥新社から月刊誌として『Hanada』が発行されることになりました。

著者は『WiLL』編集部から『Hanada』編集部と、両方の雑誌で編集部に所属した経歴を持ちます。

「出版会の蟹工船」

目を引く雑誌のために花田編集長が心がけていることとして、とにかく情報の鮮度だと本書は指摘します。

 どの雑誌でも、突発的に重大な事件や出来事が起きた場合には記事の差し替えや特集の組み換えが行われると思うが、『WiLL』や『Hanada』の場合は、それが平常運転なのである。要するに「もっと面白い記事があったら当初の余地絵など無視してそちらを載せる」「ページが足りなくなれば一部記事は翌月(以降)に繰り越す」のである。これも、おそらく文春時代からの花田編集長のやり方なのだろう、ためらいがない。

梶原麻衣子著『「“右翼”雑誌」の舞台裏』,p.25。

この発想のもと、校了間際まで編集作業が行われるほか、同誌では増刊号と銘打って特集テーマを組み、月刊の誌面とは異なる雑誌をリリースする場合もある。それ故、編集部では徹夜作業になることも多いとされ、小見出しにあげた「出版会の蟹工船」(勝谷誠彦氏のフレーズと本書内で指摘)とも言われるとのこと。

安倍政権と「右翼雑誌」

第2章では過去発行されてきた「諸君!」など右派系とされてきた雑誌の休刊など、論壇誌の変遷などが読者としての筆者自身の見解なども含めて記されています。

第3章は、『Will』『Hanada』において安倍政権がどのように取り上げられてきたのかが記されています。筆者は第2次安倍政権発足以降、両雑誌が「応援団化」したと指摘します。契機となったのは2010年代中盤に相次いで変化が起きた安保法制とそれに伴う法案審議。当時の民主党など野党が反対姿勢を示し、雑誌内でも度々取り上げられる朝日新聞(「右翼雑誌」からみれば敵のような存在か?)などが、安倍政権に対して批判的な姿勢を示す一方、これを擁護する存在として「右からも強く押し返」す存在になったと分析します。

右翼・対右翼、花田編集長との対談

第4章では「右翼雑誌批判」と向き合うこととして、『WiLL』や『Hanada』が「ヘイト本」扱いされることと、それに対して筆者が取り組んできたことや右翼団体からの抗議などを受けたことなどが書かれています。

第5章では今度は読者との向き合い方について書かれています。個人的に読んでいて印象的だったのが、筆者が書いた編集後記に対して暴力的な態度で電話をしてくる読者に対し、「話せばわかる」の精神で、30分ほど話して落ち着かせるシーン。最終的には「右翼のもんだけど、右翼のお姉さん、いる?」という電話が数ヶ月に一回かかってくるようになったらしい。右翼が右翼に電話する光景あまりにも面白すぎる。

第6章では『Hanada』編集長・花田紀凱氏との対談が記されています。

著作全体を通して感じるのは、筆者が花田紀凱氏を強くリスペクトしているという点ではないかと思います。第1章・第6章でも主張しているように、最初から「右翼雑誌」として作り込まれている訳ではなく、花田編集長自身が面白いものを書くという姿勢でいることが結果として「売れる雑誌」につながったこと、それ故に右派的な論調が結果として増えていると主張します。


朝日新聞は「右翼雑誌」をどう取り上げている?

この本の中では、安倍政権の実行してきた政策に対し「批判的な勢力」の代表格として、雑誌内でも度々取り上げられてきた「朝日新聞」の存在を指摘しています。

『WiLL』『Hanada』ともに、朝日新聞に対しては別冊として増刊号の位置づけで雑誌を発行しています。『WiLL』は、2014年に明らかとなった朝日新聞による従軍慰安婦問題発覚後、2014年11月号増刊号として『歴史の偽造!朝日新聞と「従軍慰安婦」』と題して発行。『Hanada』は、こちらも朝日新聞のスクープとして連日新聞掲載された森友学園に関する一連の報道発覚後に、『財務省「文書改竄」報道と朝日新聞 誤報・虚報全史』として、2018年4月に発売しました。

では、こうした批判を受ける朝日新聞は、『WiLL』や『Hanada』をどう捉えているのでしょうか。

朝日新聞に広告掲載がない

まずは記事の前に広告ですが、私自身朝日新聞の電子版会員ということもあり、直近3ヶ月分の新聞紙面を確認することができます。

『Hanada』『WiLL』ともに発売日付近に雑誌の表紙より派手な新聞広告を出稿しており、直近のところでは2025年3月号の広告が出されています。ところが朝日新聞には出稿されておらず、全国紙では産経新聞、読売新聞と日本経済新聞には掲載がありました。毎日新聞では今月号の掲載を確認することができませんでした。

少し前のものではありますが、『Hanada』のWEBサイト『Hanadaプラス』には、広告審査基準などによって伏せ字となった全国紙・地方紙の事例なども合わせて、全て記事にして出していたようです。

広告に関する『Hanada』の記事にも朝日新聞に出稿していたとの記載はないため、(憶測は避けるべきですが)おそらくこれより前の出稿は無かったものと考えられます。私自身、コロナ禍以降に読み始めたので覚えていませんが、載っていたような気でいたのですが、気のせいですね。


『WiLL』

続いて朝日新聞において各月刊誌がどのように取り上げられてきたのかを見ていきます。なお、今回は2020年以降、朝日新聞デジタルで検索可能な記事のみ遡る形としました。対安倍政権という意味ではそちらの分析も必要かと思いますので、別の形で分析できればと思っておりますが、今回はあくまでも2020年以降ということでお許しください。

2020年2月6日に掲載された記事では、慰安婦報道に関する訴訟の様子で、櫻井よしこ氏が『WiLL』に掲載した論文が記事内で取り上げられています。一方、これはあくまでもストレートニュースとして取り上げられているのみです。

次いで、2021年の裁判の記事に朝日新聞の記事が出てきます。フリージャーナリスト・安田純平氏が『WiLL』の記事によって名誉を毀損されたとしてワック社を訴えた裁判の様子が記事になっています。この記事では安田氏・ワック社のコメントが紹介されています。

記事そのものが取り上げられた事例としては、2022年に発行された同誌において掲載された、秋田県・佐竹知事が記した核政策・憲法9条に関する記事。これに対し共産党が撤回を要求したとするニュースが掲載されました。

『WiLL』の記事が取り上げられたニュースの中で、最も長い朝日記事となったのは、杉田水脈氏の発言を取り上げた記事。2023年に杉田氏がアイヌ民族に対して差別的な発言をし、それに対する政府・自民党の対応が分析された記事の中で『WiLL』記事が紹介されました。

9日には月刊誌「WiLL」の動画に出演。24年度予算の概算要求で、アイヌ政策関連予算が66億円計上されていることに触れたうえで、公金が投入された事業で会計の不正などがあるとの認識を示し、「公金チューチュー」と揶揄(やゆ)した。

朝日新聞デジタル「アイヌ女性「もう黙らない」 杉田水脈氏の差別投稿に同調658件」,2023年11月17日。
https://digital.asahi.com/articles/ASRCJ6WP9RCJUTIL00B.html?iref=pc_ss_date_article


『Hanada』

続いて『Hanada』の記事がどのように朝日新聞で取り上げられてきたかです。

まず、朝日新聞がかつて運営をしていた『論座』に、『Hanada』の記事が大きく取り上げられていました。ジャーナリスト・斎藤貴男氏の記事で、れいわ新選組の山本太郎氏の主張する消費税ゼロに対し、『Hanada』が批判的な記事を書いたとする論座記事。

朝日新聞の中で取り上げられた記事としては2020年7月22日、安倍首相へのインタビューの中で、菅官房長官(いずれも当時)が「ポスト安倍」の有力な候補者として名前を挙げたとする記事。この約2ヶ月後、菅氏が首相に就任。

ついで2021年5月には、今度は「ポスト菅」として、茂木敏充氏、加藤勝信氏、下村博文氏、岸田文雄氏の名前をあげた記事が大きく取り上げられました。この記事は朝日新聞だけではなく、他の新聞でも大きく取り上げられることになり、安倍氏の政界への影響力などが指摘されました。


朝日新聞は「右翼雑誌」を見るか?

朝日新聞は安倍政権に批判的なスタンスを取っていたことは今回取り上げた著作でも紹介しましたが、そうしたスタンスは「右翼雑誌」の域を超えて広く認識されていると考えられます。一方の朝日新聞が右派的な主張をする人物の主張を掲載していないかは微妙なところでもあります。

ほぼ2ヶ月に1回程度掲載される佐伯啓思氏の「異論のススメスペシャル」の連載内では、佐伯啓思氏について「保守の立場から様々な事象を論じる」と紹介をしています。

あまり個人の偏見を含んだ見方を載せたくはありませんが、朝日新聞の紙面において、『Hanada』『WiLL』に登場する論者の意見が登場することは少ないように思われます。そうした意味では、朝日新聞は右翼雑誌を見ていないとも取れるかもしれません。

一方、「右翼雑誌」を無きものとして見ている訳でもないことは、過去の記事を検索すると明らかでもあります。朝日新聞の中で「右翼雑誌」がよく取り上げられた雑誌として、毎月論壇委員が紹介する注目されるべき論文の企画があります。

また、最近では国政政党として注目を集めた日本保守党に関連する記事でも『Hanada』の記事が取り上げられた事例もあります。

ですから、「右翼雑誌」が朝日新聞を批判している時、朝日新聞もまた「右翼雑誌」を見ているとも言えるかもしれません。一方、その主張に対しては朝日新聞も過度に取り上げることはせず、静観の姿勢を示していると考えられます。


編集後記:新聞も雑誌も影響力が低下する世の中で

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