記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

舞台 「また点滅に戻るだけ」 観劇レビュー 2023/05/19


写真引用元:ダウ90000 公式Twitter


公演タイトル:「また点滅に戻るだけ」
劇場:本多劇場
劇団・企画:ダウ90000
脚本・演出:蓮見翔
音楽:chelmico
出演:園田祥太、飯原僚也、上原佑太、道上珠妃、中島百依子、忽那文香、吉原怜那、蓮見翔
公演期間:5/17〜5/21(東京)
上演時間:約1時間50分(途中休憩なし)
作品キーワード:コメディ、コント、青春、ラブストーリー
個人満足度:★★★★★★★☆☆☆

https://twitter.com/daw90000


今やお笑い業界でも演劇業界でも非常に注目されている人気コントユニット「ダウ90000」の新作公演を観劇。
「ダウ90000」の公演は、2022年1月に上演された『ずっと正月』、2022年10月に上演された『いちおう捨てるけどとっておく』に続き、3度連続で公演を観劇している。
今回は、東京で最も有名な劇場のうちの一つである本多劇場で初めて「ダウ90000」が公演を打つということで、あの大きな劇場でどんなコント風演劇が繰り広げられるか楽しみにしながら観劇した。

物語は、埼玉県所沢市内にあるゲームセンターで巻き起こる、所沢出身の三十路手前の若者たちが久々に出会う青春コント風演劇となっている。
今作の中心人物は、中島百依子さんが演じるスギハラミオという芸能活動をしていた女性。
彼女は、様々なCMに出演している売れた女性。
ゲームセンター内にあるプリクラのモデルも務めていたりする。
しかし、恋愛禁止の芸能事務所に所属していた彼女は、男性とキスしている所をカメラに収められてしまい雑誌に掲載されるというスキャンダルに遭っていた。
ミオと実は6年間も付き合っていたアツシ(蓮見翔)とばったりゲームセンターで再会し気まずくなるミオ。
ところが、事態はそこのゲームセンターの常連や店員をも巻き込んで思わぬ展開へ向かうというコント風演劇である。

『ずっと正月』はとても好きで、『いちおう捨てるけどとっておく』があまり刺さらなかった筆者だったが、今作は存分に笑って楽しむことが出来た。
今作で一番圧倒されたのが、蓮見さんの考えるネタのボキャブラリーセンス。
一体どうやったらそんなボキャブラリーが出てくるんだよ!と良い意味で突っ込みたくなるくらい聞いたことなくて且つ面白い言葉が沢山飛び交っていて度肝を抜いた。
これは日々蓮見さんが色々なボキャブラリーを考えて考えて、相当な数のワードを溜め込んだ結果を脚本に入れ込んでいるなと感じて、非常に良く作り込まれたものに感じた。

ボキャブラリーという観点でもそうだが、脚本の設定に関しても、とにかく伏線の張り方が巧妙である上、今の若者にありそうな嫉妬や恋愛観も上手くコント風演劇に落とし込まれていて、20代でないと描けないであろうリアルさがあったため、私自身も色々と刺さる部分があって面白かった。
所沢という東京に近い地方という場所、三十路手前という年齢で久々に学生時代の同期に会うあのリアルな感じを良くぞここまで解像度高く脚本に落としたものだと素晴らしく感じて、感心しながら観劇していた。

その上実は、今作の脚本をしっかりと理解しようとするとかなり骨が折れるだろうというくらい、コメディの芝居だけれども脚本としての奥深さと緻密さが凄い。
それくらい設定が複雑で、ある意味で難解な脚本でもあると思う。
もちろん、全て理解する必要は全くないし、そうでなくても沢山笑えるのだが、実は配信で改めてもう一度視聴してみた所、驚くほど伏線が作品全体に張られていることに気が付いてびっくりした。
そのため、配信で2回以上楽しんでこそ今作をしっかり堪能出来たといえる作品に仕上がっていると思う。

ドラマの脚本を手がけたり、定期的にコントライブを開いたり、お笑いライブに多数出演して忙しい中で、こんなに脚本としてクオリティの高い演劇を作ってしまう蓮見さんと、それを演じる「ダウ90000」のメンバー全員に拍手喝采。
とんでもない才能の持ち主だと改めて感じた。
劇場観劇のチケットは売り切れてしまっているので、ぜひ配信で多くの方に観ていただきたい作品だと感じた。

写真引用元:ステージナタリー ダウ90000 第5回 演劇公演「また点滅に戻るだけ」より。




【鑑賞動機】

今最も話題になっているコントユニット「ダウ90000」が、初めて本多劇場で演劇公演を行うから。前回の『いちおう捨てるけどとっておく』はたしかに自分のテイストにはハマらなかったけれど、『ずっと正月』は好きだったので、今回はどうなるかと思い観劇している自分もドキドキしていた。
劇場観劇チケットは、かなりの倍率だったらしいが、私は運良くも先行チケットで入手することが出来た。本多劇場という大きなキャパでもチケットが取りにくいという「ダウ90000」の人気の凄さを横目で見ながら、記念すべき「ダウ90000」の初めての本多劇場公演を堪能した。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇と配信で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

ゲームセンター。そこには2台のプリクラがあり、そのうちの一方に複数人女性がいる雰囲気である。そこへ、スーツを着たサラリーマン姿のゴトウ(園田祥太)がやってくる。ゴトウはもう一つのプリクラに男性一人で入っていく。
女性は3人いて、ミオ(中島百依子)とアズサ(吉原怜那)とチハル(道上珠妃)がプリクラから出てくる。そのプリクラの表面にデカデカと描かれているモデルはミオであり、ミオは自分がモデルとなっているプリクラから自身が出てきたことで、「私製造機」みたいだと言う。3人はそのままそのプリクラの加工用の部屋の方に入っていく。
一方ゴトウは、プリクラを一人で撮り終わって加工用の部屋へ入っていくが、何を思ったのか恥ずかしくなったのか、加工せずにそのままプリクラから立ち去る。
ミオ、アズサ、チハルはプリクラを加工し終わり、3人で談笑し合う。そしてそのまま、恋愛トークになる。ミオは、彼女たちの同級生のアツシと6年間も付き合っていたことが話題になる。しかしそれをスクープにされて、雑誌にキスした所を掲載されてスキャンダルに。恋愛禁止の芸能事務所に所属していたミオは、芸能活動から距離を置くことになってしまったと言う。アズサとチハルは、まさかアツシと付き合っていたことに驚く。そこから、同級生が学生時代に誰が誰と付き合っていて別れて、今は誰と付き合って結婚したかの話になる。地元だから、みんな地元に残る同級生同士と結婚していくんだねという話になる。
アズサも学生時代に付き合っていた彼氏とは別れていた。アズサは、そこからこのゲームセンターのプリクラのサブスクにずっと加入しっぱなしだったことに気がついて落ち込む。しばらくここのゲームセンターに来ていなかったのに、無駄にお金を払い続けいていたと、そしてそこからそういった無駄に払い続けていたサブスクがもう一つあることに気が付く。アズサは、いくら分損したか計算しようとするが、ミオの方が計算が速かった。アズサはネトフリもアマプラも解約したのにと悔しがる。アズサはそんなにお金がないのかと心配される。
女性3人は、もう一方のプリクラの加工用の部屋が、加工途中になっているのに気が付く。気になって3人は中に入ると、その加工中のものはゴトウのものであると気がつき驚く。そのまま、もう一方側のプリクラで3人はプリクラを撮り始める。

アツシ(蓮見翔)がゲームセンターへやってくる。どうやらゴトウに電話しているようで、ゴトウもすぐやってくるみたいである。ゴトウが、階段を上がった所に現れる。アツシとゴトウは久々に再会する。
ゴトウは誤って階段の上からメダルコインを下に落としてしまう。アツシは、ジャックポットかよと突っ込んで二人でメダルコインを拾い始める。
その姿を、プリクラから出てきたミオに発見される。アツシは元カノであるミオに、メダルコインを拾っている最中という一番格好悪いタイミングで再会する。アズサとチハルもプリクラから出てきて、アツシとゴトウを発見する。アツシは、ミオの芸能活動を色々とツッコミまくる。プリクラのモデルはどうやったらこうなれるの?とか、あの番組にはどうやったら出演できるの?とか。
ゴトウは、先ほどプリクラを撮っている最中に立ち去ってしまったから、自分のプリクラの忘れ物があるはずだと言う。女性たちは知らないと言う。ゴトウは、ゲームセンターの店員を呼び出す。緑の服を着たゲームセンターの店員(上原佑太)がやってくる。店員は、忘れ物が入った箱を差し出す。随分と面白い忘れ物箱だが、そこから皆はゴトウのプリクラを探そうとする。
ゴトウは忘れ物箱の中からイヤホンを見つけて、これは自分の忘れ物ではと興奮する。そこには、沢山のプリクラが入っていた。しかし、ゴトウのプリクラはつい先ほどの忘れ物であるはずなのに見つからなかった。

そこへ突然、一人の女性が慌てながらゲームセンターの店員の元へやってくる。どうやらその女性は、このゲームセンターの常連さんらしく、店員が唯一仲良くしているお客さんであった。しかし店員はその女性の名前を知らなかった。
店員は必死で彼女の名前を当てようとするが当てられず、飯踏小麦(忽那文香)だと名乗る。飯踏は、ミオたちの同級生であり全然変わってないなと呟く。飯踏は店員と共にこの場を立ち去る。

ミオの同級生であるカイトもこのゲームセンターにもう時期やってくると連絡が入る。そしたら全員でプリクラ撮ろうと。
チハルは、今はカイトと付き合っていることをカミングアウトする。そこからチハルは、カイトとの馴れ初めを語る。カイトと大阪まで新感線でデートして、帰りはレンタカーで帰ってきて、途中にある公園に寄って、そこから見える新感線を見つめながら、彼らより良い旅しているねと告白されたのだと言う。
チハルたちは、店員がガチャガチャの前で何か怪しい行動をしているのを発見する。何をしているか尋ねると、プリクラで忘れ物箱に入っていたものをガチャガチャの景品として詰めているのだと言う。そのプリクラには、キスをした状態のものもあったりして、それらをガチャガチャの景品にしていて、一同は気持ち悪がる。

カイト(飯原僚也)が寝巻き姿のような格好でゲームセンターに現れる。揃ったので、みんなでプリクラを撮ろうとプリクラの撮影が始まる。ゲームセンターの店員は、そのミオのスキャンダルとなった雑誌を眺めている。そして、そこに写っている男性を指して、それはカイトであるようなことを言い始める。皆困惑する、なぜならずっとそこに映っていた男性はアツシだと思っていたからである。ミオがカイトと付き合っていたという事実は誰も知らないから。
この事実を、カイトとチハルに尋ねる。チハルは顔色を変える。まさかカイトがミオと付き合っていたなんてことを知らなかったから。チハルがカイトを追及すると、カイトはアツシとミオが付き合う前にミオと数ヶ月付き合っていたことを暴露する。チハルは激怒する。なぜならチハルは手垢が付いていない男性が好みだから。地元には、誰かと以前付き合ったことあるみたいな男性しか残っていないから、誰とも付き合った経験のない人が貴重だったからだと言う。

そこから、誰がミオのスキャンダルの画像を流出させたのかの犯人探しが始まる。ゴトウは犯人になりたがろうとするが、アツシから帰れとばかり言われて相手にされない。
アツシとミオは物凄いボキャブラリー豊富な会話で喧嘩し合う。カップヌードルミュージアムの話など。周囲の人間は、その喧嘩では聞いたことのないような多彩なボキャブラリーに感心する。
アツシはミオに所属芸能事務所の名前を尋ねる。「マックスバリュー」と答える。聞いたことあるようなないような名前。アツシは、ミオから発せられる言葉が皆オリジナルでないと言う。出演する仕事もスケジュールは埋まるかもしれないけれど、それをやってなんになる?ってものばかりじゃないかと。岐阜のマスコットキャラクターとか関係ないだろと。何させられてるんだよと叱りつける。
「猫よりかわいい 寿司よりまずい」という言葉も、ミオのオリジナルかと思ったら、カイトが元ネタだったと聞いて愕然とするアツシ。「自分製造機」も元ネタがカイトだと聞いて落ち込む。アツシがミオの面白い、良いと思ったものがことごとくオリジナルではなく、カイトの影響を受けていたことにがっかりする。

ガチャガチャの中に、ミオとカイトのキスしたプリクラが入っていた訳だが、ゲームセンターの店員は6年以上も前のプリクラはガチャガチャにはないという。つまり、ミオとカイトは最近プリクラでキスをしたことになる。
実は、ミオとアツシが別れたあと、再びミオとカイトで付き合った時期があった。チハルはさらに激怒する。
飯踏がやってきて、ミオにそろそろお母さんに電話しないとだと伝えて二人で何か話している。その間、ゲームセンターの店員は自分の生い立ちを語る。実は16年間ずっとここでゲームセンターの店員をやっていると。このゲームセンターは両親が建てたのだが、金がなくてタイルを自分たちで貼ったが、ずれてなって離婚したと。そこから両親はゲームセンターに現れず、ずっと店の番をしてきたのだと言う。
チハルは、そんなゲームセンターの店員に恋をする。この地域で手垢が付いていないと。プリクラを覗く癖をやめればいけると。

ミオの所属していた芸能事務所の社長がトラブルを起こしたというミオ。アツシは、なんでそういつのせいでミオの人生が左右されているんだよと怒る。
そしてスキャンダルの写真を流した犯人は、飯踏であることがわかる。とある企画で写真をこっそり送ってしまったのだと言う。
皆はプリクラを撮って帰る。ミオとアツシだけが残る。アツシは、ミオに恋愛OKな芸能事務所に入るように言う。下手くそとミオに言われる。ミオは、アツシとミオだけがいないプリクラが撮られたねと言う。証拠が残らない告白だと、そしてこれはオリジナルだと。アツシはミオが好きだと言う。ここで上演は終了する。

個人的にはラストがとても好きな終わり方でグッときた。この終わり方は全く無理がないどころか、今までの伏線も上手く回収するような形で凄くハートフルで、最後心がときめいた。こんな脚本をかける蓮見さんは、コメディ脚本家でもあるが非常にロマンチストでこういうのが観たかった、最高という感じだった。
途中のシナリオも、カイトとチハルのくだりだったり、ゲームセンターの店員の身の上話だったり、色々と無理がなくてちゃんと回収されている点が脚本として素晴らしかった。たしかにチハルみたいなドロドロしたコミュニティ恋愛嫌いな女子っているなと感じるし、学生時代に流行った「猫よりかわいい 寿司よりまずい」みたいな意味わかんないコミュニティ内で通じる話題ってあったなと思ったりと、色々と現実世界でも通じる内容が盛りだくさんで非常に親近感を抱ける作品で面白かった。そう感じられた点が、個人的には今作を好きになれた一番の要因かもしれない。
また伏線の張り方も巧妙で、配信で2度観ることで気づける要素も沢山あって見どころ満点で良かった。こちらに関しては考察パートで詳細を記載する。

写真引用元:ステージナタリー ダウ90000 第5回 演劇公演「また点滅に戻るだけ」より。


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

「ダウ90000」の初めての本多劇場公演ということで、360席のあの大きな劇場の、横も高さもあるステージを上手く活かした舞台美術と演出になっていて大満足だった。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていくことにする。

まずは舞台装置について。
今作の舞台設定はゲームセンターということで、本多劇場のステージ一面が大きなゲーセンと化していた。また、本多劇場という高さのあるステージを活かして、舞台装置も高さのあるものになっていた。
まず舞台装置の一階にあたるエリアなのだが、一番下手側には赤い重々しい扉が一つあって、そこはデハケとなっている。おそらくゲームセンターの外へと通じる扉なのだと思う。アツシやカイトはそこから登場する。その上手側の横には巨大なプリクラの機械が置かれていて、ミオがモデルをやっているという2台あるプリクラ機械の新しい方である。プリクラ機は、撮影用の部屋とデコレーションできる部屋とで分かれている。プリクラ機械の外側のデザインには、中島百依子さんが演じるミオのドアップでセクシーなショットが複数モデルとして使われていて、完全に中島さんをダウ90000のアイドル的な位置付けで作品作りをしてきた感じが、きっと若年層男性にはウケそうだなとも思った。中島さん自身は、ここまでドアップでプリクラのモデルとして起用されると恥ずかしい気持ちもするが、そこをやってのけるあたりがコメディ女優な感じもした。
一階の上手側には、もう一台のプリクラ機械と緑の店員さんが陣取っているゲームセンターのサービスカウンターがある。サービスカウンターは最も上手側に位置していて、その横にプリクラ機械、そしてステージ中央に上へと続く階段がある。上手側のプリクラ機械は設定上ミオがモデルを務めるプリクラよりも古い機械のようだが、そこで起用されているモデルが誰なのかは分からなかった。少なくとも「ダウ90000」のメンバーではなかった。こちらのプリクラ機械も、撮影用の部屋とデコレーション用の部屋に分かれている。
本多劇場のステージの高さを活かして、階段が2階に向かって伸びている。その階段の途中にはガチャガチャが複数台並んでいる。緑の服の店員がプリクラを景品に詰めているガチャガチャである。そして階段を登りきった所にスペースがあって、そこにも一つデハケが存在する。このデハケからは主に飯踏が出入りするので、メダルゲームエリアに通じていると考えられる。このスペースは、ゴトウが下の階にメダルコインをぶち撒けてしまう時に立っていたエリアである。
ゲームセンター全体のデザインも、全体的にクリーム色で、たしかに地方にありそうなやたらと広々としたゲームセンターという感じと古さがあって個人的には好きだった。

次に舞台照明について。
基本的にはゲームセンター内で起こる内容が展開されるので、劇中大きく照明が変化することはなかった。特に印象的だったのは、ゲームセンターらしく頭上にカラフルな横に長い棒のような光るライト。それと天井から吊り下げられていた丸いバルーンのようなカラフルな照明がゲームセンターらしくて好きだった。
あとは、客入れから開演するタイミングで一回暗転するのだが、そのときにプリクラだけ中から光が漏れていて凄くワクワクさせられた。ゲームセンターの中のようなガヤガヤする騒音を音響効果に使っているのだが、それも相まって開演するんだ!という興奮を引き立ててくれた。

次に舞台音響について。
やっぱりゲームセンターの中のあの様々なゲームの音が混在している感じの騒音と、プリクラの音声の再現度の高さが素晴らしかった。「ダウ90000」の作風の一つとして、舞台美術が非常に具象的で再現度が高いというのがある。凄くリアリティを追求している感じがあって、そこが蓮見さんが手がける脚本のリアリティさとも噛み合っていて好きである。今作でも、ゲームセンターの中で実際に流れてそうなガヤガヤした騒音が程よい音量で終始流れていて好きだった。また、プリクラの音声も凄くリアリティがあって、でもツッコミどころを入れられる余地もあって絶妙だった。

最後にその他の演出について。
初めての本多劇場公演ということで、ステージの高さを活かした演出がとても好きだった。例えば、ゴトウが2階からメダルコインをぶち撒けてしまうシーン。あれは絶対本多劇場のような高さのある劇場でないと出来ないネタだったので、私はこのシーンを観た序盤で本多劇場を存分に活かしているなと興奮させられた。ジャックポットという言葉を初めて知った、蓮見さんのボキャブラリーセンスが光った。それでいったら、巨大なプリクラ機械を舞台セットに仕込むというのも、大きなステージでやっと叶えられた演出かなと思う。中島さんがモデルとして起用されたプリクラ機械の存在感は半端ないし、客入れ中にあのインパクトある舞台セットを観て、これからどんな面白いことが起こるのだろうかとワクワクさせられた。
あとは蓮見さんのボキャブラリーセンスが光る内容だったという点も特筆すべき部分だと思う。絶対今作でしか聞かないであろうボキャブラリーにいくつお目にかかったであろうか。「ジャックポット」「カップヌードルミュージアム」などなど、他にも沢山あった。
さらに、ミオたちの同級生の間で流行った他のコミュニティの人間からしたら全く意味が分からない用語も飛び出してきて面白かった。「猫よりかわいい 寿司よりまずい」「自分製造機」などなど。そんな言葉はたしかに聞いたことがないけれど、仲の良い狭いコミュニティの中で流行った彼らしか分からないワードというのはたしかにあるなと思って、そこに対して共感してしまった。
またそういった、特定のコミュニティでしか分からない用語を上手く使って、伏線回収的にストーリーを展開させていく所も蓮見さんの脚本は上手いなと思った。アツシがずっとミオのオリジナルだと思っていたセンスのあるワードが、実はカイトがオリジナルだと知って愕然としたり、そのショックにはミオは他の男性とも付き合っていたという事実を突きつけられることになったり。「私製造機」という言葉を序盤でミオが使っていた所も伏線だったのだなと、後から配信で理解を深められる作りになっている点も素晴らしかった。
また配信で見返すと、序盤から前半にかけて要所要所で後々伏線として回収されるんだと気がついたシーンもあって、配信による2回目以降でも新たな発見があって十分楽しめる作品に仕上がっていた。例えば、チハルだけこのゲームセンターからメルマガが送られていたという事実が後半で登場するが、実は序盤でもチハルがそのことについて言及していて、そのときは対して話題にならずに終わっていたシーンがあった。

写真引用元:ステージナタリー ダウ90000 第5回 演劇公演「また点滅に戻るだけ」より。


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

本当に蓮見さんは「ダウ90000」のメンバーのキャラクターの活かし方が上手いなとつくづく感心させられるレベルで、みんなハマり役で素晴らしかった。
今作で特に印象に残った役者について言及していく。

まずは、ミオ役を演じた中島百依子さん。中島さんは「ダウ90000」の中の女性陣の中で一番アイドル、モデルに近い立ち位置だと、男性人気も一番高いだろうなと思っていたが、今作ではそこを全面的に活かしたような作品になっていて、「ダウ90000」の男性ファンサービス的な内容だった。
ミオのキャラクター設定としては、芸能事務所に母親が応募して受かってしまい、23歳のときから芸能活動を始め、プリクラのモデルになったり、その他様々なCMやドラマで活躍する芸能人の役。周りに流されやすくてあまり自分の意志でこれがやりたいというのがないようなキャラクター設定だった。たしかに売れているアイドルやモデルでそういった女性は沢山いそうな気がする。
私が最もグッときたポイントはラストシーン。あの告白の仕方、あのオリジナルだよという告白の仕方がもう絶妙すぎて完璧だと感じた。シチュエーションとしてもとても好きなのだけれど、あれを少し照れくさそうに言う感じが凄く甘酸っぱくて好きだった。これは「ダウ90000」の公演史上最もグッとくるラストだったように私は感じた。こういうオチを「ダウ90000」には期待していたし、それを完璧にやってくれて私は大満足だった。
そして今作を皮切りに、中島さんの人気はさらに高まるんだろうなと感じた。

次に、アツシ役を演じた蓮見翔さん。
今作のアツシ役の蓮見さんはキャラクターとしてとても好きだった。蓮見さんは今までの過去作品を観ていても、渋々というか嫌々というかそんなテンションで敢えてツッコミ役をやるのだが、その感じが今作ではピカイチハマっていた。
こういう感じの役を上手く熟すのって、俳優としてしっかり演技を積んできた人間では出せないような演技なような気がしていて、ある種コントから上がってきた役者だからこその色があって私は好きだった(もちろん褒めている)。
あとは、アツシとミオの掛け合いが本当に好きだった。あの異色なボキャブラリーが飛び交う喧嘩は、喧嘩なのだけれど聞いていて楽しい。というか、蓮見さんと中島さんの言葉のキャッチボールがこんなにも相性が良かったのかと思わされた。喧嘩もそうだが、ラストのあの下手くそな告白も甘酸っぱくて良かった。なんか凄くずるいなあと感じながら見入っていた。あっぱれだった。

次に、チハル役を演じていた道上珠妃さん。
今作ではそこまで道上さんの出番は多くはなかったが、個人的に刺さったのは手垢のついていない男性と付き合いたがるところ。これ私の周囲にもいるので凄くリアリティがあって印象に残った。
狭いコミュニティにいると、どうしてもそのコミュニティの中でドロドロと付き合って結婚していくってのは割と定番だったりする。同じコミュニティに所属していれば、当然価値観が合いやすいので、大人になってからでも結婚に至ることは往々にしてある。でも敢えてそれを嫌がる、プライドの高さみたいなのって凄く分かるしリアルだなと思いながら見ていた。
また、カイトがミオと付き合っていたことがバレたときのチハルのアクセルの踏み方が凄まじくて好きだった。それまでは比較的穏やかだったチハルが、まるで彼女の地雷を踏んだかのように、カイトが隠していた事実を知って激怒するあたりは面白かった。そして最終的には緑色のゲームセンターの店員を好きになるあたりが、残酷にも思えてきて個人的に大好物なシナリオだった。
手垢がついていなければそれで良い、残酷だけれど凄く納得感のある恋愛観、そんなちょっと残酷だけれどキャラクターとして惹かれてしまう役を上手く演じきってしまう道上さんの素晴らしさ、そしてそういった配役をした蓮見さんに拍手喝采。

それ以外の、ゴトウを演じた園田祥太さん、アズサを演じた吉原怜那さん、カイトを演じた飯原僚也さん、ゲームセンターの店員を演じた上原佑太さん、飯踏小麦を演じた忽那文香さんも皆素晴らしかった。飯踏の役だけ、凄く特殊で面白いキャラクターだったけれど、あまり作品に絡んできていない感じが終盤までしていて、たしかに最終的にはミオのスキャンダルを流出させた犯人だったが、なんか中途半端なポジションな感じがした。けれど、それ以外の部分で満足度がとても高かったのでほとんど気にならなかった。次回作以降では、忽那さんのキャラクターをメインに活かした作品を蓮見さんに作って欲しいと思った。

写真引用元:ステージナタリー ダウ90000 第5回 演劇公演「また点滅に戻るだけ」より。


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

先述した通り、『ずっと正月』は好きだったけれど、『いちおう捨てるけどとっておく』はあまり刺さらなかったので、今作は自分にハマるのかどうか恐る恐る観劇していた。しかし、そんな心配をするのは杞憂だったと思うくらい楽しむことが出来た。
そして今作は脚本の作り込みが半端なくて、おそらく多くの観客は一度の観劇だけでは物語の細部までを十分に理解出来ないのではないだろうかと思う。それくらい、伏線も沢山張られていたし、劇中に登場する設定も複雑だった。
ここでは、今作のストーリーを分かる範囲で解説しつつ(間違っていたらすみません)、私が今作を観劇して感じたレビューをしていこうと思う。

ミオ、アツシ、カイト、ゴトウ、アズサ、チハル、飯踏は埼玉県所沢市が地元の同級生の集まりだった。彼らの1個上の学年は、皆男女間で付き合ったり別れたりしながら、結局地元に残った同級生同士で結婚している人が多いらしく、そんな狭いコミュニティ内でくっついていく先輩方に嫌悪感を示していた。しかし、結果的には彼らも1個上の先輩たちと同じように狭いコミュニティ内で付き合ったりしていた。
学生時代、アツシとミオは付き合っていた。アツシは、ミオが言った「自分製造機」や「猫よりかわいい 寿司よりまずい」という独特なフレーズが好きで、クラス内で流行っていてみんな知っていた。プリクラを撮るときも、この謎のフレーズを書き込んでいた。
アツシはずっとこの独特のフレーズはミオが考えたオリジナルだと思っていた。ところが違った。ミオはアツシと付き合う前にカイトと付き合っていた。カイトはミオと大阪まで旅行に行って、帰りはレンタカーで帰ってきて、そしてその道中の公園で新幹線が走っていくのを見ながら、自分たちは彼らよりも良い旅行をしていると告白していた。そのカイトと付き合っていた期間に、ミオはカイトから「自分製造機」と「猫よりかわいい 寿司よりまずい」を教え込まれていた。つまり、クラスで流行ったこれらの元ネタはカイトのオリジナルだった。

ミオとアツシが東京に出てからも二人は付き合い、同棲もしていたようである。ミオは一浪して23歳で新卒で就職しようとするが、母親がミオのことが可愛いからという理由で芸能界のオーディションに応募して受かってしまい、そのまま芸能事務所に所属して芸能活動をする。ミオは、プリクラのモデルになったり、CMやドラマ、岐阜のマスコットキャラクターの中の人になったりと幅広い芸能活動の仕事をする。
しかしアツシは、そんなミオの自分が望んでないような仕事を沢山こなしてスケジュールが埋まっている姿をみて穏やかではいられなかった。だから劇中でもずっとその芸能活動での仕事に関連して口喧嘩をしていた。アツシとしては、ミオに自分を持って欲しかった。誰かに言われたからとかそうではなくて、自分を出して欲しかった。
だから6年も付き合ったけれどミオとアツシは別れてしまったのだと思う。

しかし、ミオはアツシと別れた直後、カイトと復縁していた。ミオとカイトは頻繁にこのゲームセンターに来てプリクラを撮っていた。だからゲームセンターの店員は、ミオとカイトが付き合っているものだと思い込んでいた。それが劇中で暴かれることになる。
そして、そのミオとカイトのキスしながらのプリクラがミオと仲が良かった飯踏によって流出される。それが雑誌に取り上げられてスキャンダルとなり、ミオは恋愛禁止の芸能事務所「マックスバリュー」から離れることになる。

一方、カイトがミオと付き合っていたことを全く知らなかったチハルは、カイトのことを手垢が付いていない(同級生と過去誰とも付き合っていない)と思い込んで付き合う。その馴れ初めは、カイトがミオと学生時代に付き合っていたプロセスと全く同じで、大阪へ旅行へ行って帰りの公園で告白の流れだった。チハルはカイトが2度もミオと付き合っていたことを知って激怒する。
しかし、ゲームセンターを両親がいなくなってから11年間もずっと運営してきた緑色の服の店員は、この地域に住みながら手垢が付いていなかったことから、チハルは彼に惚れる。チハルは11年間もずっとゲームセンターからメルマガが届いていたのもプラスに働いたのかもしれない。

今作の物語を整理するとざっとこんな感じだが、改めて考えてみるとゴトウは劇中よく登場していたのに、全くこのストーリーに絡んでこなくて笑った。ゴトウなんて手垢がついていないのに、チハルはそちらには全く目をくれないあたりも残酷で好きだった。それは犯人になりたがる理由もよく分かる。
アズサは、ネトフリとアマプラを解約してしまうくらい金に困っているのに、BMW乗っているというくだりがどう回収されたのかがよく分からなかった。多分、私が見落としているポイントがあるのかもしれない。

今作を観劇して私が感じたのは、まず一つ目として、20代の脚本家だからこそ書ける、若者のリアルな日常がそこには描かれていて、その物語の再現性の高さに素晴らしさを感じた。もちろん舞台美術の具象性もそうなのだが、私が特に賞賛したいのは若者が感じる恋愛観などの感情面の部分である。
恋愛観という点でいうと、狭いコミュニティの中で結果的に結婚していくという妥協をしたくないという気持ちである。チハルがまさにそうである。この感情は三十路手前の私には痛いほど共感できる。たしかに旧来のコミュニティ内で付き合って結婚していくってどこかダサい。学生時代からずっと付き合っているならまだしも、結果的に出会いがなくて旧来のコミュニティに戻ってくるみたいな感覚があってダサく感じる。しかし、実際のところ価値観も合うだろうし付き合いやすいとは思う。でもそこに甘んじたくないというプライドは凄く分かる。なんか三十路手前で慌てて結婚したみたいになるし。

もう一つは、ミオのような売れた存在に対する嫉妬心である。こちらに関してはアツシの心情から痛いほどよく伝わってくる。
売れて有名になりたいという野望は、一生懸命になれる物事がある若者だったら一度はあるものだろう。しかし、ミオを見ているとたしかに売れっ子ではあるが、本当に自分がしたいのかしたくないのか分からないことに振り回されてスケジュールだけが埋まっている状況になっている。それは果たして楽しいだろうかと疑問に感じられる。だからこそ、アツシは売れてますます自分が無くなってしまったミオに対して腹立たしかったのかもしれない。
たしかに実際問題、売れっ子のアイドルは色々なCMや宣材に使われてロボット化していく感じもある。そうやって次第に芸能事務所にこき使われていく。それではやりたいことをやって夢を叶えた方が良いではないかと。きっとこれは蓮見さん自身も今の活動について色々考えていることを作品に反映したんじゃないかとさえ思えた。その点についても、脚本としての奥行きを感じられて素晴らしかった。

テレビプロデューサーの佐久間さんも絶賛し、多くの著名人が見に来ては褒める「ダウ90000」の演劇作品。観劇好きの私も「ダウ90000」の演劇ユニットとしての実力は本物だと改めて再認識させてくれた一作だった。しかも客層も非常に若くて、若い人が本多劇場に足を踏み入れて演劇を観ているという状態を上手く作り出している点でも素晴らしいと感じている。
令和の時代、こうやって演劇を盛り上げてくれるスターが小劇場から登場してくれて嬉しく思う。今後も「ダウ90000」の活躍に期待していこうと思う。


↓ダウ90000過去作品


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集