舞台 「たぶんこれ銀河鉄道の夜」 観劇レビュー 2023/04/01
公演タイトル:「たぶんこれ銀河鉄道の夜」
劇場:紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
劇団・企画:ニッポン放送
原作:宮沢賢治
脚本・演出・作曲:上田誠
出演:久保田紗友、田村真佑、鈴木仁、戸塚純貴、藤谷理子、石田剛太、土佐和成、中川晴樹、後藤剛範、加藤啓、槙尾ユウスケ、岩崎う大
公演期間:3/17〜4/2(東京)、4/8〜4/9(愛知)、4/11(高知)、4/15〜4/16(大阪)
上演時間:約2時間5分(途中休憩なし)
作品キーワード:音楽劇、コメディ、ファンタジー、社会風刺劇、笑える、泣ける、宮沢賢治
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆
ニッポン放送が企画・制作するオールナイトニッポン55周年記念公演。
今年は本多劇場で上演された『明るい夜に出かけて』(原作:佐藤多佳子/脚本・演出:ノゾエ征爾)と、『たぶんこれ銀河鉄道の夜』(原作:宮沢賢治/脚本・演出:上田誠)が上演され、私は後者のみを観劇。
劇団「ヨーロッパ企画」を主宰する上田誠さんが、宮沢賢治の代表作の一つである『銀河鉄道の夜』を音楽劇風にアレンジした作品となっている。
私自身、実は『銀河鉄道の夜』自体を読んだことがなく、事前情報なしで観劇に至った。
地方住みの美容師アシスタントをやっているナオ(久保田紗友)はなかなか容量が良くなくて、毎日職場の上司のナツキ(藤谷理子)に怒られたり、美容室の客にも待たせ過ぎだと怒られていた。
同じく美容室で働くナオの親友のレナ(田村真佑)は器用でナツキからも気に入られていた。
ナオはそんな日常に疲労困憊していて精神的に死んでいた。そしてムカついたことがあるとエアリプしてしまう始末。
しかしナオはいつのまにか、「銀河ステーション」と叫ぶ、銀河を走る鉄道(銀鉄)に乗り込んでいて、そこにはテレビで見たことがあって炎上した有名人やYouTuber、それからレナやナツキもいた。
銀鉄の車掌(槙尾ユウスケ)は、この列車に乗ったからにはゲームに参加してもらうと言い、乗客は早速ゲームを始めることになるのだが...という話。
今作を観劇して思った結論として、事前に『銀河鉄道の夜』を読んでおけばよかったという大きな悔いが残った。
事前にネットでは、『銀河鉄道の夜』を原作で読んでおいた方が良いと言われていたが、時間が取れなくて私はやむを得ず原作未読の事前情報なしで観劇した。
しかし、原作に登場する台詞をそのままラップ調にした音楽劇や、銀河鉄道に乗車するというのはどういうことなのか、『銀河鉄道の夜』に登場する登場人物たちは、原作の中でどういった立ち位置のキャラクターでラストどうなるのかを頭に入れておけば、もっと観劇に没入出来たと思うし、色々な解釈を楽しめたと思う。
全体的な舞台作品の印象としては、観劇を全くしたことがない方でも楽しめる工夫が凝らされていて、当パン(当日パンフレット)の丁寧な作品の手引や、観劇前の注意喚起を映像を使いながら丁寧に解説したり、作品の中身自体も現代的なテーマを扱っているので馴染みやすく、暗いシーンが全くないので終始明るく楽しいエンターテイメントである点が、観劇の裾野を広げている工夫に感じて素晴らしかった。
一方で、普段小難しい小劇場演劇や観劇慣れした方々にとっては、私を含めて物足りなく感じるかもしれない。良くも悪くも、映像を使って綺麗に作り込まれ過ぎてしまっていて、ピュアな作品過ぎてハマれなかった。
ただ、SNSによる誹謗中傷が問題となっている現代において、この作品は子供にもしっかりと伝わる、ある種教育的な舞台作品とも捉えられるので、そうやってSNS社会に対する新しい教育は大事だなと感じた。
久保田紗友さんを始め、乃木坂46の田村真佑さん、そしてヨーロッパ企画の劇団員さんなど、個性豊かで素晴らしい役者陣たちの演技には存分に楽しませて頂いた。
特に、ナオ役を務める久保田紗友さんのラストの演技は本当に印象に残る素晴らしいものを見させて頂いた。
観劇を全くしたことがない人、そして子供でも笑って、学んで、そして感動させられる舞台作品だと思うので、ぜひ予め宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を一読してから観劇に臨んて頂きたい。
↓宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
【鑑賞動機】
「ヨーロッパ企画」の上田誠さんの舞台作品は、『夜は短し歩けよ乙女』や『九十九龍城』などを観劇していて、どの作品もエンターテイメントとして非常に面白い作品ばかり上演するので、今作も上田さんが脚本・演出を手掛けるということで観劇することにした。
また、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』も有名ではありながら触れたことがなかったので、これを機に堪能しようと思った。
【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)
ストーリーに関しては、私が観劇して得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。
地方の美容室、美容師アシスタントのナオ(久保田紗友)はまだ新人で、なかなか容量を掴むことが出来ず、上司のナツキ(藤谷理子)にはよく叱られていた。また、なかなかカットを終わらせるのも遅かったナオは、多くの客を長い時間待たせてしまってクレームも来ていた。ナツキにはナオから、ホットペッパービューティーでも低評価コメントが来ているときつく叱られた。一方で、同じ美容室のアシスタントで親友のレナ(田村真佑)は、ナツキに気に入られていて、今度二人でフェスに行くことになった。
ナオは、近所で弁当を買って母親の元に帰ってきた。母は病気のようで、父が勤める自動車メーカーは大量リストラがあって大変なのだと語る。ナオは、母のために買ってきた弁当が、頼んだものと違うことに気がついて取り替えてもらうことにする。
ナオが外を歩いているとナツキに出会い、職場ではない場所で服にヘアピンを取り忘れていると注意される。その後、ナオは弁当を取り替えてもらうが、その時の店員の対応に苛立ちを覚える。そしてSNS(おそらくTwitter)でナオは、「言い方!」とエアリプを送る。
すると、再びナツキがやってきて今のエアリプはなんだと怒られる。ナツキは、ナオが店員に対して送った「言い方!」というエアリプを、ナツキがナオに対してヘアピンのことについて注意したことだと勘違いしたようである。
ここでオープニング音楽と共に、プロジェクションマッピングのように舞台装置に映像が投影される。そしてキャストが一人ひとり紹介される。
ナオは気がついたら列車の中にいた。その列車の中には、レナやナツキも乗車しており、その他YouTuberやスポーツ選手など、テレビで見たことがある人物たちも乗車していて一同は戸惑う。そこへ、「銀河ステーション」と叫びながら車掌(槙尾ユウスケ)がやってくる。車掌は、この列車は社会的に死んだ人たちが乗車する列車であり、今ここにいる人たちは皆そうであると説明する。しかし、最近は薬剤を手に入れれば簡単にこの列車に乗車出来てしまうので、そういった不正乗車客を暴くためにゲームをしてそういった乗客をこの列車から降ろしたいのだと言う。ということで、列車に乗った一同は車掌の課すゲームに参加することになる。
最初のゲームは、十字架に吊り下げられているパンを食べるというゲーム。皆、パンを食べるのに苦戦している中、アイスホッケー選手のタノウエ(後藤剛範)は途中で失格となる。他の乗客たちは、手を使ってパンをとっても問題ないということに気が付き、皆手でパンを掴んでゲームクリアとなる。
次のゲームは、化石掘り。乗客たちはお目当ての化石を掘るゲームに参加するが、美術家であったシブサワ(加藤啓)が今度は脱落してしまう。
次のゲームは、列車に鳥捕りがやってきて、サギを捕まえて欲しいというゲームが課せられる。一同は早速、サギを捕まえるゲームに参加する。しかし、国民生活センターに勤めていたマエバラ(中川晴樹)がサギを盗んでしまって脱落する。
サギを捕まえるゲームが終わると、列車の中からは灯台が見える。一同は興奮しながら眺めるが、スタートアップの社長の側近だったコスガ(石田剛太)が反則行為をして脱落となる。ゲームでない時間でも脱落することがあるのかと一同は構える。
また、YouTuberのざきしょー(鈴木仁)は、過去に自身が作成した動画が炎上したのだが、その背景を語り始める。
するとその隙きに、フナキ(土佐和成)が素性を明らかにし、自分こそが不正乗車していたことを自白して列車から去っていく。
再びゲームを再開し、渡り鳥たちが何を表していたのかを渡されたホワイトボードに書くゲームが開かれる。ナオは、ナツキに答えを教えたとしてゲームから脱落させられてしまう。
ナオは地上に戻り、そこでシゲフミ(戸塚純貴)に出会う。シゲフミはどうやらナオの次のゲームで脱落したらしい。シゲフミは、コンビニバイトをしていて、そこでいつもバイト上司から怒られていた。中華まんを仕込み過ぎたり、逆に仕込ませなさすぎたり。それに伴ってバイトテロを起こしてしまったようであった。
ナオとシゲフミは近未来の乗り物(名前を忘れた)に乗って、二人で銀河鉄道を追いかける。列車では、まだゲームが繰り広げられていて、そこに乱入してくるナオとシゲフミ。すると、車掌がゲーム脱落となって列車から去っていく。そして、ずっとヤザワ(岩崎う大)が田舎住まいの教師の素振りをしていたが、実は「銀河鉄道の夜」を書いた宮沢賢治であることを暴露し、この列車を占拠する。宮沢賢治は、「雨ニモマケズ」「風ニモマケズ」と唄ってみたり、「どっどどどどーど、どどーどどどー、これ風の音なんだぜ」と言ったりする。
列車からは再び灯台が見える。そしてYouTuberのざきしょーは、宮沢賢治と共に列車の中からYouTubeのライブ配信を始める。多くの人がこの動画を閲覧して沢山コメントが寄せられる。
宮沢賢治は、列車に残っているレナ、ナツキ、ざきしょー、そしてナオ、シゲフミたちと、業火を囲んで成仏させようと色々唱え始める。
しかし、先ほどのYouTube動画には沢山のアンチコメントが寄せられ、ざきしょーのYouTubeは再び炎上してしまう。
ナオは一人モノローグを語る。あの後、ナツキとレナはフェスに行ったが、その熱狂ぶりに雪崩が起きてしまい、レナはナツキを庇って雪崩で死んでしまう。ナツキからはそう言伝があった。
レナはそのまま銀河鉄道に乗って死の世界へ向かってしまった。ナオは、もうエアリプをしないことを決意して、これからの人生を頑張っていこうと誓い上演は終了する。
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を社会風刺を取り入れて、現代版の音楽劇としてアレンジした作品ということで、原作の『銀河鉄道の夜』に触れれば触れるほど、今作の魅力というのもひしひしと感じられて良かった。
ただ音楽劇としてアレンジしただけではなく、宮沢賢治という原作者本人も登場させて脚色することで、舞台上で描かれる世界で、すでに『銀河鉄道の夜』という作品が世に広まっていて、ファンタジーという認識があった上で、実際に銀鉄が登場するというファンタジーとリアリティを掛け合わされて作られていることで、『銀河鉄道の夜』という作品がより身近に感じられて好きだった。
そして、考察でも触れるが、やはり一番興味深かったのが、銀鉄に乗ってくる人々が社会的に死にゆく人、つまり一度炎上したことがある人。たしかに炎上して今まで気づき上げてきた地位や名誉を失うことって、現代の社会で言ったらそれはニアイコール「死」でもあるなと改めて考えさせられた。
ゲームに脱落したことによって、社会復帰していくというのは凄く面白い仕掛けで、たしかに一度炎上したことがある人も、しっかりその炎上した理由と自分の行動に向き合えば、まだ肉体的には死んだ訳ではないので、まだまだ可能性は残っている。そう教えてくれる優しい物語だと感じられて、終演して原作の『銀河鉄道の夜』を反芻しながら改めて今作の素晴らしさを堪能出来た。
【世界観・演出】(※ネタバレあり)
ラップ調の音楽劇風に仕上がった『銀河鉄道の夜』ということで、誰もが楽しめるポップな演劇として楽しめる要素が多かった世界観、演出ではなかろうか。
舞台装置、映像、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番でみていく。
まずは舞台装置から。
ステージ上には巨大なアーチ型の舞台装置があって、そのアーチの空洞部分に銀鉄の列車が、列車のシーンでは登場する。列車の座席の舞台装置は茶色く高級感の漂う感じ。その列車の車窓からは映像で灯台のてっぺんが登場することもあった。
あとは、デスゲームが進行するときには、アーチ型の舞台装置の手前に十字架や化石など、ゲームによって登場する舞台装置が異なった。
印象に残った舞台装置はその他に、未来の乗り物のようなものが登場してナオとシゲフミが相乗りするが、とてもユニークでヨーロッパ企画らしかった。
全体的にヨーロッパ企画の上田さん演出の舞台とはいえど、エンタメに非常に振り切った感じの遊園地の乗り物のような舞台装置に見えて、子供が見たら誰もがワクワクするようなそういった感じの世界観が素敵だった。
次に映像について。
特に印象に残ったのは、オープニングのプロジェクションマッピング。近未来版のナイロン100℃みたいな感じで、一人ひとりキャストが登場する度に出演者の名前が映像で投影されて、しかもその文字のフォントがとても神秘的でファンタジックで好みだった。ナイロン100℃っぽいけれど、ナイロン100℃では絶対やらない近未来的な綺麗に作り込まれたテイストが凄くハマっていた。
あとは、ラップ調で原作『銀河鉄道の夜』の台詞を歌いながらのシーンで、ポップに歌詞が映像として表示される感じが、遊び心を感じられてとても好きだった。この映像こそ、2021年6月に上演された舞台『夜は短し歩けよ乙女』にも近しい演出になっている。
そして一瞬思い浮かべたのが、Eテレで昔放送されていた『にほんごであそぼ』という番組。あの番組も映像を上手く使って日本語をポップな感じで仕上げていて、小さな子供でも楽しめるような番組だったが、その番組と似たテイストで、日本語に対して親しみやすい印象を受けた。
次に舞台照明について。
序盤のモノローグのシーンでは、主にナオに白くスポットライトが当たっていて、なんとも銀河鉄道の夜らしい印象を受けた。その白いスポットライトには、ナオが感じている孤独も表現されているように思えた。美容師アシスタントの仕事は上手く行かず、上司のナツキには怒られてばかり、親友のレナは上手く行っている。そんな孤独と辛さを表現した照明に感じられて、それがファンタジーの世界とマッチしていた。
あとは列車が進行していることを表現する照明で、照明を流れるように照らしながら列車が進んでいるように見せかける演出も面白かった。
次に舞台音響について。
音響はなんと言っても、ラップ調の音楽劇のパート。これ作曲自体も上田誠さんが手がけられていると書かれていて驚き。上田さんの、この音楽のセンスを考えると、もちろん原作の『銀河鉄道の夜』がお好きなのだなというのは伝わってくるのだが、日本語の美しさをしっかりと理解されている方のようにも思えた。
日本語ってミュージカルよりは音楽劇のようなポップなタッチの方が作品として合っていると感じていて、そこを上手く引き出しているような感じがあって凄くセンスを感じられた。上手く伝えられないが。ひらがな一つ一つに音が割り当てられていて、それが楽器を一つ一つ叩くような感じで軽いタッチで歌われる。それがラップ調の音楽劇と凄くあっていて、そこに『銀河鉄道の夜』の原作に登場する台詞が混ざって良きハーモニーを繰り広げていた。
最後にその他演出について。
これは映像の項目に書くべきだったかもしれないが、ざきしょーのYouTubeにアンチコメントが殺到した時の、あのスプラトゥーンのようにカラフルな絵の具がぶっかけられるかのように、映像で映し出される演出が目新しくて好きだった。これなら、誹謗中傷という社会テーマを作品上で扱ってもそこまで胸をえぐられない。凄くエンタメ的な刺激の優しいタッチなので安心して観ていられる。そして、しっかりとネット上の誹謗中傷を扱っているというのもわかりやすいので、素晴らしい演出手法だなと感じる。
【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)
ヨーロッパ企画の劇団員やかもめんたるのお二人など、コメディ舞台界隈では定番の役者に加えて、アイドルなど幅広い顔ぶれで楽しませて頂いた。
特に印象に残ったキャストについて触れていく。
まずは、主人公のナオ役を務めた久保田紗友さん。久保田さんの演技を観るのは今回が初めて。
エネルギー溢れるフレッシュで明るい演技が、今作のピュアな作風には非常に合っていて凄く元気がもらえた。
なんと言っても印象的だったのが、ラストのレナを思って涙を浮かべながらモノローグを語るシーン。生の舞台で女優さんが本当に涙を流しながら熱演している姿を観ると、こちらまで感動して涙をそそられてしまう。そんな姿が非常に素晴らしく素敵だった。
ナオというキャラクターは、日常生活が上手くいってなくてエアリプまでしてしまうような状況だが、凄く元気のある演技をされる方なので、あまり観ている側もネガティブな気持ちにならず、だからこそ明るい気持ちで観られるのだと思う。とにかく、彼女のキラキラとした存在感に劇中ずっと魅了された。
次に、レナ役を演じた乃木坂46の田村真佑さん。田村さんの演技を拝見するのも初めて。観客にどうりで男性陣がいつもより多い印象を持っていたが、乃木坂46の方が出演されているからかと納得。
ナオとは対照的でナツキともフェスに行っていて上手く行っている役柄だが、ナオとレナの二人のシーンが本当に良くて、列車の中でツーショットを撮っているシーンなどなど本当にファンサービスだとは思うが、そういったほのぼのするシーンがあるのは観客として微笑ましい。
個人的にはもう少し出番が欲しかったなというくらい思えた女優さんだったので、また舞台にも出演して欲しいしアイドルから女優へと成長していって欲しい。
個人的に今作で一番良かったと思えたのが、ナツキ役を演じたヨーロッパ企画所属の藤谷理子さん。
藤谷さんの芝居は、ヨーロッパ企画の公演だけでなく様々な舞台で観てきたが、今回演じているのはナツキという先輩上司役で、いつもとは一味違った印象で大人びていた。
上司ということで非常に貫禄があって、仕事が出来る感じのオーラがたまらない。非常に格好良さを感じた。
ヤザワ役と宮沢賢治役を演じた「かもめんたる」の岩崎う大さんも好きだった。
特にう大さんの宮沢賢治はやりたい放題やってて、沢山笑わせて頂いた。「雨ニモマケズ、風ニモマケズ」「どっどどどどーど、どどーどどどー、これ風の音なんだぜ」が特に好きだった。う大さんが宮沢賢治になった瞬間のエンジンのかかり方が半端なくて、舞台全体に勢いが増したのを感じる。割と他のキャストはテンプレな芝居が多かったかなという印象だったが、う大さんは役を遊び倒していて最高だった。
業火のシーンでも、グダグタな感じで喋る感じなのが、あれはどういった意味があったのだろう。台詞に緩急をつけてくる感じがやりたい放題あって好きだった。
列車の車掌役を演じた「かもめんたる」の槙尾ユウスケさんも好きだった。
「銀河ステーショーン」の掛け声が耳に残る。ちょっと鼻に触るデスゲーム進行MCといった感じ。そこがテレビ番組っぽく感じて、凄く舞台に馴染みのない方でも楽しめる工夫があったように思う。途中で「ネプリーグ」というキーワードが出てきたが、まさしくそういった類のテレビ番組を想起させられた。
最後に、タノウエというアイスホッケー選手などを演じた後藤剛範さん。後藤さんの芝居は先日『宝飾時計』で観劇したばかりだったが、というか2月末まで地方公演で走りきったばかりだというのに、もうこちらの舞台にも出演されていて驚く。
後藤さんはあの個性的な感じの後藤さんでしかできない芝居をなさっているからそれがいつもツボで、今回も楽しませてもらった。化石掘りの博士の演技も、アイスホッケー選手の演技も話し方が後藤さんそのまんまだから逆に面白かった。
【舞台の考察】(※ネタバレあり)
ここでは原作の『銀河鉄道の夜』との比較を踏まえながら、今回の『たぶんこれ銀河鉄道の夜』についてつらつらと感想を書いていく。
私は先述した通り、観劇後に原作『銀河鉄道の夜』に初めて触れて、事前に原作を読んでおくべきだったと後悔したが、改めて原作を踏まえて今作を俯瞰してみると、様々な箇所で原作を現代版に置き換える工夫がなされていることに気付かされる。
まず一番のテーマは、原作では肉体的に死にゆく人が乗る列車である点が、社会的に死んだ=炎上した有名人が乗車することによって、現代版の銀鉄に仕立てていることである。原作では、列車に乗車しているのはジョバンニ以外実際に死んでいく人たちで、ジョバンニは自分はまだ生きているから「死」という一方向に向かうだけでなく、あらゆる可能性を持って自由に向かうことが出来るということから、生きることの希望が見い出されている。一方で、今作では列車に乗っているのは肉体的に死にゆく人はほとんどおらず、多くの人たちに自由に生きることが出来る希望が託されている形となっている。
実際、デスゲームによって脱落した過去炎上経験者たちは、そこから社会復帰していくことになる。生きる希望というのをジョバンニという一人に絞って描くのではなく、より群像劇的にあらゆる立場の人にその希望が与えられていることを描くことで、よりジョバンニに起きた事象に対して普遍性を持たせているような気がする。
また、公演パンフレットを読んで気がついたのだが、デスゲームで脱落していく順番もミソで、過去炎上した内容が個人の名誉損失に留まる人は早めに脱落していっているようである。実際、アイスホッケー選手のタノウエは、自分の試合での反則行為が原因で炎上しているので自分ごと、美術家のシブサワや国民生活センターのマエバラも炎上理由が個人的にとどまっている。一方で、長めに乗車することになるYouTuberのざきしょーや、フェスでレナに身代わりになってもらってしまったナツキは、他人を巻き込んでいることになる。
原作と今作を対応させると、ナオはジョバンニ、レナはカンパネルラに対応し、ナツキはザネリに対応すると考えられる。原作ではカンパネルラはザネリを川から救ったまま、そのまま溺れて死んでしまう。今作では、レナがナツキをフェスの雪崩で庇った結果、レナが犠牲になってしまう。だからこそ、レナだけは一人「死」の方向にのみ向かう列車と共に遠く旅立ってしまう。
社会的地位を損失した人間だとしても、命を失っていない限りは、まだまだ自由に羽ばたける翼がある。ましてやナオのように孤独な若き女性にとってもなおさらである。だからこそ、最後はめげずに生きようと希望を見い出させてくれるラストになっている。
上田さんの現代版にアレンジした『銀河鉄道の夜』、なんとも素晴らしい部分に着地していると思う。
↓上田誠さん過去作品
↓藤谷理子さん過去出演作品
↓後藤剛範さん過去出演作品
↓岩崎う大さん、槙尾ユウスケさん過去出演作品