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大人は何ができる?子どものSNS利用を各国の事例から考える【教育ニュース最前線vol.21】

【教育ニュース最前線vol.21】
日々報じられる教育関連情報から、教育業界への影響が大きいと思われる内容を、代ゼミ教育総研 研究員・編集チームが厳選してピックアップ。
それぞれの分析・私見を述べます。
教育・学校・入試について関心がある方々の、考えるヒントとなりましたら幸いです。



大人は何ができる?子どものSNS利用を各国の事例から考える

オーストラリアで、16歳未満のSNS利用を禁止する法案が可決されました。

1年後に施行されます。世界初のことです。

SNSには、Instagram、Facebook、X、TikTokが含まれます。YouTubeやメッセージアプリ、オンラインゲームなどの一部サービスは、規制対象から外れています。

▼オーストラリア、16歳未満のSNS利用禁止案可決 世界初(日経・11/28)


ノルウェーも、15歳未満のSNSの利用制限を検討しています。

インターネット上での依存やいじめなどの悪影響を懸念してのことです。

▼ノルウェー、15歳未満のSNS制限検討 親の同意必要に(日経・10/24 ※会員限定記事)


ブラジルでは、イーロン・マスク氏とブラジル最高判事の対立により、約1ヶ月、Xが全面的に停止されていました。フェイクニュースやヘイトスピーチの拡散防止のための措置です。

▼ブラジル「Xなき日常」1カ月 3割がメンタル改善(日経・10/4 ※会員限定記事)


アメリカでは、中国への情報漏洩の懸念などから、バイトダンスがアメリカでの事業を売却しなければ、TikTokのアプリを禁止する法律が4月に可決されました。

さらに、10月8日、13州とコロンビア特別区(首都ワシントン)の司法長官が、TikTokが中毒性のある機能によって、10代の若者のメンタルヘルスの危機を助長していると非難し、提訴しました。

▼アメリカ13州と首都がTikTok提訴、10代若者のメンタルヘルスに「大混乱」もたらしたと(BBC・10/10)


こども家庭庁の調査により、日本の子どもたちの利用状況がわかります。

▼令和5年度「青少年のインターネット利用環境実態調査」報告書(こども家庭庁)

スマホの保持は、小学生で70%に達し、高校生ではほぼ100%です。利用内容は、動画視聴とSNS(投稿、メッセージ交換)、検索、音楽が8割を超えています。

スマホのインターネット利用平均時間は185分です。学習、趣味・娯楽、コミュニケーションに大別すると、最も多いのは、趣味・娯楽です。


💡研究員はこう考える

▷皆さんは、保護者から、子どものスマホやインターネットの利用について相談を受けたら、何と答えますか?

私は、携帯電話で衝撃を受けた日のことを覚えています。

ソフトテニスの大会で、女子4人を引率し、夕食を食べにハンバーグ屋さんに入りました。

席に着くや否や、全員が携帯をいじり始めました。
4人は会話はしているのですが、顔は携帯を見たままです。

何が起きているのか、これはどういうことなのか、私は驚きました。

試合の待ち時間でも、携帯を見ていました。
私は、空間感覚がおかしくなり、プレーに悪影響がでるのではないかと思ってしまいました。

それから10数年経ちましたが、私もすっかりスマホに慣れました。自然にスマホを手にとり、お陰でコミュニケーションや検索、ニュースチェック、読書ができます。場所のガイドもしてもらいます。

ぼーっとして思いを巡らせたり、リフレクションしたり、調べる前に想像したり考えたりする時間の減少が気になりつつも、スマホを触ってしまいます。

思考が浅くなったように思います。
明確な目的がないまま、何かを見て、しかも、次々とサーフィンしがちです。
意志を持って何かをするよりも、「してしまう」という受動性に陥っているようにも思います。
他人の歩きスマホに少しイラつきながら、自分自身もスマホに頼り、主体性が削られていくようです。

私の小さな抵抗は、スマホを使わない時間帯を設けたり、利用時間を減らしたりするぐらいです。
小さなものです。

これは、私の場合です。

私とは異なり、スマホを活用しながら、ガンガン主体性を高め、情報をよい知識に変えながら、思考の質、生活の質を上げている人もいることでしょう。

▷そして、子どものインターネットと言っても、子どもによって、利用の仕方の最適解は異なるのだと思います。

私のような大人であれば、全てが自己責任です。

ネットサーフィンで時間を潰そうが、大事なことに集中できなかろうが、睡眠不足になろうが、スマホが害を与えるなら、その責任を取るのは私です。

しかし、子どもはそういうわけにはいきません。

3歳児に、スマホを自由に使わせることはないでしょう。フィルターをかけず、暴力的、あるいは性的な動画を見ても構わないとはしないでしょう。

私は、少なくとも、未成年、つまり18歳未満であれば、保護者が干渉してもよいと思います。

他のことと同様、自由か管理かという二分法は抽象的過ぎます。対話的にやりとりをし、注意するなり、制限するなりすればよいと思います。

▷家庭教育は、昔よりもずっと大変です。

昔であれば、大人から見て不適切なことはすぐにわかりました。

学校をサボる。酒やタバコに手を出す。
マンガを読んでいればわかる。Hな雑誌があれば見つかる。
長電話は明らかにわかる。
友達が誰かもわかる。文通の相手がわからなくても、文通をしていることはわかる。
好きなアイドルは部屋のポスターを見ればわかる。

今は全てがスマホの中にあり、何をしているのか、誰とコミュニケーションをとっているか、何に関心があるのかは、覗き込まなければわかりません。ずっと一緒にいなければわからないのです。

そんなことをされたら、私なら暴れます。

したがって、干渉の仕方も、管理と放任の間のバランスの取り方も、とても面倒でやりにくいのです。

スマホによって、親子関係が全く新しい舞台に移ってしまいました。


▷学びも同様です。

かつては、勝手に個別最適をやっていた。個性的に学んでいた。

今は、一人一台端末を持ち、先生にお膳立てをされた上で、学びを進めます。先生と生徒の関係がきめ細かくなったとも言えるし、神経を使わなければならなくなったとも言えます。

スマホを捨てるか、スマホとともに、新しい教育を行なっていくか。

どうやら、捨てるわけにはいかないようです。

そして、結局のところ、やるべきことは自己マネジメントの力を育むことです。子どもたちが、自立・自律し、社会の中で自分の人生に責任を持てるよう、教育をすることです。

教育は、与えつつ、引き出すことです。

YouTubeであれ、SNSであれ、適切に利用できる力、自分と社会をよりよくする力を身につけるよう、創意工夫するしかありません。

まずは、大人が率先垂範しましょう。

子どものスマホの使い方を望ましいものにしたいならば、大人がお手本になりましょう。

(参考書籍・参考記事)
▼アンデシュ・ハンセン『メンタル脳』新潮新書(2024)
 https://amzn.asia/d/11vKK1x
▼アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』新潮新書(2020)
 https://amzn.asia/d/6j0QBok
▼「スマホに子守りをさせないで」(日本小児科医)
 https://www.jpa-web.org/dcms_media/other/smh_leaflet.pdf
▼SNS使用時間が増えると正答率が低下傾向 学力調査、文科省は警鐘(朝日・7/29 ※有料記事)
 https://digital.asahi.com/articles/ASS7V1QHRS7VUTIL00SM.html


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