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【教育ニュース最前線】文理のエコロジー/大学生によるパレスチナ問題への意見表明

こんにちは!代ゼミ教育総研note、編集チームです。
今週も「教育のイマ」をお届けします☺

:::【教育ニュース最前線! 】:::

日々報じられる教育関連情報から、
教育業界への影響が大きいと思われる内容を、
代ゼミ教育総研 研究員が厳選してピックアップ。
それぞれの分析・私見を述べます。

今回のテーマは
「人生の中で学び続けること、学びと自己・社会がつながること」
です。

教育・学校・入試について関心がある方々の、
考えるヒントとなりましたら幸いです。

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🔽文理のエコロジー

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本日1つ目は、「文理」に関する興味深いインタビュー記事をご紹介します。

▼村上陽一郎さんに聞く、「文理」の過去・現在・未来(DISTANCE・5/17)

村上陽一郎氏は、1936 年生まれの科学史家・科学哲学者です。

東大、ICUなどで教授を務め、『近代科学と聖俗革命』(2002)において、近代科学の歴史を問い直し、科学を社会の大きな変化の枠組みの中で考察してきました。

さらに、東大の先端科学技術研究センターに移ったことをきっかけとして、科学技術と倫理という複雑な問題に取り組むことになりました。

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インタビュアーが村上氏に、そもそも「文理」とは何か、
大学やアカデミズムの現状と未来を尋ねています。

村上氏は「数学」について、このように言及します。

東大の大学院制度では、数学は理科の一部ではなく独立した学問領域として扱われ、数理科学研究科という独自の研究科が設置されています。

実際、数学は経済学や心理学、行動学でも欠かせないものであり、
現場では理科的なアプローチと文科的なアプローチはきれいに分かれて扱われているわけではありません

ところが、マーケットメカニズム優先の現代社会では、人文科学はイノベーションのために動員され、社会課題解決が金科玉条になってしまったと村上氏は指摘します。

そしてこのようにも言っています。

「社会・経済上のニーズに役に立たない研究は無価値とする風潮」
があると。

🎤 ・ 🎤 ・ 🎤

後半では、大学における教養教育の変遷、論文至上主義の弊害に触れ、本田宗一郎のような大学の外で生まれたイノベーターを例に挙げ、大学の研究とイノベーションの関係について問題提起します。

話は、大森荘蔵、夏目漱石、ジョン・ロックの「宗教的寛容」、帚木蓬生の「ネガティブ・ケイパビリティ」へと広がるのですが、結局のところ、

文理についての問題は、区別や融合ではなく「専門化の行き過ぎ」
だと言います。

そして、大学院生の減少により、専門家養成さえあやしくなっていると警鐘を鳴らしています。

 🎤 ・ 🎤 ・ 🎤

💡研究員はこう考える

▷文理分断からの脱却を目指す現状

従来の「文系/理系」の二項対立図式に異を唱える人は少なくありません。

内閣府の総合科学技術・イノベーション会議の政策パッケージにおいても「文理分断からの脱却」が提言されています。

<参考資料>
Society 5.0の実現に向けた 教育・人材育成に関する政策パッケージ(2022.6.2)

資料p.16によれば、高校の 2 / 3 が文理のコース分けを行っています。

内閣府の会議では「脱却」実現に向けたロードマップも示されていますが、人・資本・時間といった資源は不十分で条件が整わず、一部を除いてビジョンに向かっていないのが現実です。

▷大切なのは学びの自由度

他方、私は、村上氏が言うとおり、文理融合が強調されすぎることにも抵抗感があります

興味・関心の高い特定の分野をとことん探究する学びがあってもよいと思うからです。

そして、満遍なく全ての教科・科目をバランスよく学習するというのは、全ての高校生ができることではないと思っています。

大事なことは、学びの自由度と質を高め、
学校や個人の裁量を増やすことではないでしょうか。

したがって、私は、過積載(オーバーロード)を指摘されることもある学習指導要領の知識量の標準を下げ、思考・判断・表現の要素をより重視するのがよいと考えます。

それでは知識量を問う問題が易化し、大学入試において選抜機能を果たせないというのなら、暗記された知識以外で差がつくような試験を課せばよいと思います。

 ▽「カリキュラム・オーバーロード」とは?【知っておきたい教育用語】(みんなの教育技術by小学館)

  ▽関連記事


▷人生の中でそれぞれに学び続ける

高度経済成長期と異なり、「大学を出たら勉強は終わり」ではありません。

生涯学習社会です。
VUCAの時代にあっては、私たちは常に新しいことに遭遇し、学ぶ必要があります。

先生が、生徒の高校卒業までに教え込もうとしていた、否、説明しようとしていた知識を、各人がそれぞれの人生のどこかで学べる環境があればよいのではないでしょうか。

文理分断か文理融合か、ではなく、より伸び伸びと学び、
その上で、誰もがそれぞれに思考・判断・表現の力を身につけられる教育、さらにそれを発展させられる環境
望ましいと考えます。


🔽大学生による意見表明

本日2つ目のテーマは、はイスラエルとパレスチナ問題。
社会科教員としての視点から考えてみたいと思います。

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国際基督教大学(ICU)の学生が 5 月 4 日、大学構内にて『パレスチナに涙を』という活動を行いました。

 ▼パレスチナ問題について発信する国際基督教大学の学生達「深刻なマターだとICU内で示したい」(NewSphere・5/16)

イスラエルとパレスチナ。

高校で、長く不幸な歴史を学びます。

ナチズムによるユダヤ人の虐殺。
1947 年のイスラエルの建国により土地を奪われたパレスチナ人。
武力闘争、中東戦争、インティファーダ、オスロ合意、和平調停の試みと失敗。

「天井のない監獄」とも呼ばれるガザ地区にパレスチナ人が住み、ハマスが支配しています。

2023 年 10 月 7 日、ハマスがイスラエルに奇襲攻撃をかけました。
以降、イスラエルがガザ地区への侵攻を進め、多くの死者が出ていると伝えられています。

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アメリカでは多くの大学でガザでの戦争に対する抗議の声が上がっています。

▼【解説】 米大学のガザ戦争抗議、学生らは何を求めているのか(BBC NEWS JAPAN・5/2)

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日本の大学におけるガザ関連抗議活動の例として、
青山学院大の「本読みデモ」
(パレスチナ関連の書籍を紹介し即時停戦を求める)、
東京大の「パレスチナ連帯キャンプ」(テントを張り泊まり込み)、
早稲田大の「スタンディングデモ」が
以下の記事で紹介されています。 

▼ガザ抗議デモ、日本の大学でも広がる 「学生から動かないと」(毎日・5/17)

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上智大学の曄道佳明学長は、人間の尊厳を傷つける行為は
「For Others , With Others」の教育精神に反するとして、武力行使による人権侵害に抗議し、即時停戦を求めています。

 ▽学長メッセージ ガザ地区の人道危機によせて(上智大学・5/28)

ただし、学生主体の団体「Sophians for Palestine」は
上智大学がイスラエルのテルアビブ大学との連携を続けることを踏まえ、
・イスラエルの行為をジェノサイドとして明確に非難すること
・ ウクライナ人学生へ提供した奨学金と同様の支援をパレスチナ人学生にも提供すること
・ 平和的な抗議運動に加害を行う学生を適切に処分すること
などを含む6項目を大学に要求しています。 

 ▼「大学はイスラエルによるジェノサイド非難を」 上智大で抗議デモ(毎日・5/30)


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💡研究員はこう考える

▷学びを自分の生き方にも、社会のあり方にもつなげる

ここは、私の国際政治に関する私見を述べる場ではありません。

ただ、日本の子どもたち、若者たちが、日本の政治や国際社会について関心を持ち、意見を表明し、対話をすることは大切だと思います。

そのためには、学校教育の中で、また、友との交流において、政治や社会の諸課題を自分事として捉え、生産的な議論を行う経験が必要です。

2015 年、公職選挙法等の一部改正に伴い選挙権年齢が引き下げられ、主権者教育の重要性がより高まりましたが、具体的な政治課題が教育現場で扱われているでしょうか。

 教育公務員が職務において政治的中立性を維持しなければならないのは当然のことですが、結果的に、現実の政党や政策について生徒が扱うことを回避する傾向がないでしょうか。

日本では「失われた 30 年」と言われ、経済や技術力に関する国際的なランキングが低下しています。人口減少も進み、日本の「危機」を指摘し、未来を危惧する声が一層高まっています。

他方、若者の政治や社会に対する当事者意識、主体性、変革への意欲は低いと言われています。

 ▽日本財団18歳意識調査結果 第62回テーマ「国や社会に対する意識(6カ国調査)」(4/3)

 「自分は大人だと思う」や「自分の行動で国や社会を変えられると思う」はともに 5 割を下回り、6 カ国中最下位です。

こうした状況下で何ができるのか。

私は、自分の考えを大事にし、他者との対話を通して、
それをアップデートしていく教育
を進めるべきだと思います。

知ったことについて、「あなたはどう思うか」と問うこと。
考えを表現し、他者の意見に耳を傾けること。
自分が学んだことを、社会における自分の生き方・あり方と結びつけ、
行動すること。

そうでなければ、知識は単なる自分一人の楽しみや進学するための手段に
留まります。

学びが自分の人生の生き方にも、社会のあり方にも
つながらないことになります。

しかし、学習指導要領の理念は
「よりよい学校教育を通じてよりよい社会をつくること」です。

若者が、学んで感じ考えたことを大切にすることから、
社会をよりよいものにする可能性が広がるのではないでしょうか。

社会や政治に対する当事者意識、主権者意識を高め、日本国憲法の理念で
ある民主主義の質を高めるために、教育現場に求められている役割は小さくないと思います。


よろしければ vol.05-2 もご覧ください📓6/10(月)公開予定!

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