【教育ニュース最前線vol.08】①山形大学長が国立大学の学費値上げ論争に一石②女性メンバー不在の教育委員会
①山形大学長が、地方国立大の立場から学費値上げ論争に一石
国大協が6月7日に、『国立大学協会声明 -我が国の輝ける未来のためにー 』を発表し、その厳しい財務状況を「もう限界です」と訴えたことは世間に大きな衝撃を与えました。
中教審大学分科会の「高等教育の在り方に関する特別部会」では、慶應義塾の伊藤塾長が国公立大の学費を年150万円に上げるべきと発言し、さらに東京大学でも来年度からの学費値上げを検討するという動きも加わり、国公立大の授業料値上げについての議論が大きな広がりを見せています。
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7月4日、山形大学・玉手学長は、この学費値上げ論争について、地方国立大の立場から、国立大学協会声明に関する学長所感 「高等教育の在り方について、いま議論すべきこと」を大学のHP上で発表しました。大いに注目を集めそうな所感です。
▼国立大学協会声明に関する学長所感 「高等教育の在り方について、いま議論すべきこと」(山形大学・7/4)
玉手学長は、
と述べ、
と、国立大の枠を超えて、公立大・私学や専修学校を含めた(公費からの)財政的サポートを提案しています。
今後の、国立大学費値上げの議論のみならず、間もなく中間まとめを発表することになっている中教審大学分科会の特別部会の審議にも一石を投じることになると思われます。
💡研究員はこう考える
▼もっと明確にすべき「大都市大学 vs 地方大学」の軸
山形大・玉手学長は、この所感で、「国立大学といってもすべて一緒くたにして語ってほしくない。大都市圏と地方の国立大はシチュエーションがかなり違う」ということを訴えたかったのでしょう。
つまり、とかく地方大の困窮が語られる場合、暗黙の了解として、地方大=私立大というイメージが多くの人にあるのではないか。
そして、国立大というと、もともと学費の面では私立に較べるとかなり低額ですので、多少の値上げをすると言っても無視できる範囲なのでは、と決め込んでいる方々への異議申し立て、ということですね。
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この玉手学長が発信したメッセージによって、学費の安い国立大学であっても、生活を切り詰め、ギリギリの状態で通っている学生が少なからず存在するという現実を改めて知らされるのです。
そして大切なのは、豊かでない家庭の子女こそ、機会の平等、つまりエクイティとしての高等教育進学の権利を保証するというのが社会の重要な責務ではないか、ということです。
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考えてみれば、こうした状況は、地方に限った話ではなく、大都市圏でも同じことが言えるはずで、むしろ、諸物価が高い傾向にある大都市圏の世帯は、むしろ家計的にはさらに苦しいのかもしれません。
ですから、学費をどうするかを議論する際に、前提とすべき基軸は、
国立大 VS 私立大
だけでなく、
大都市圏 VS 地方、 高所得世帯 VS 低所得世帯
の軸も加えなければいけないということになります。
▼地方国立大に課せられる重責
さて、玉手学長のコメントには、もう一つ注目すべき箇所があります。
「やまがた社会共創プラットフォーム」を通じた県内公私立大学との連携とあります。
中教審大学分科会の「高等教育の在り方に関する特別部会」の6月の会合では、国公私立の垣根を越えた連携や統合を考える際、各県や地区の国立大学が、それぞれの地域の公立大や私立大の取りまとめ役になるべきだ、との注目すべき意見が出席委員から出されていました。
文科省は、令和2年の段階で、中教審「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」に基づく「地域連携プラットフォームの推進」についてのメッセージを発信しており、すでに、全国にいくつかのプラットフォームが立ち上がり、動きだしていることを存知の方も多いでしょう。
▼文科省「地域連携プラットフォームの構築」
今回の提案は、さらに一歩踏み込んで、大学間の垣根を越えた“統合”におけるハブとしての役割を、それぞれの地域の地方国立大に課そうというわけです。
国立、公立、私立――設置の壁を乗り越えることは非常に難しいことであるということは、特別部会でもたびたび指摘されてはいますが、仮にそうなれば、地方大学にとってはまさに重責です。
この件については、今後の議論の行方をさらに注視していきたいと思いますが、
いずれにせよ、地方国立大は、学費の在り方にしろ、大学間の連携・統合にしろ、これからの重要なキースト―ンになることは間違いありません。
②女性メンバー不在の教育委員会
文部科学省は、「教育委員会の現状に関する調査」(令和4年度間)の結果を発表しました。
全都道府県・指定都市の67の教育委員会、及び、市町村等の1,718の教育委員会に対する調査です。
▼教育委員会の現状に関する調査 (令和4年度間)(文科省)
https://www.mext.go.jp/content/20240619-mex_syoto01-000036638_2.pdf
本調査では、総合的な教育「大綱」の策定、総合教育会議(開催、内容、取組など)、教育長・教育委員等、学校裁量(予算、学校管理規則など)について、調査結果がまとめられています。
なお、教育委員会の役割と責任は「地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下、地教行法)に定められています。
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女性の教育委員が選任されていない自治体が、市町村等で31(1.8%)、うち9においては、選任の予定がないことを問題視した記事がありました。
なぜなら、地教行法において、「教育委員の性別に著しい偏りが生じないように配慮すべき」とされており、また「第5次男女共同参画基本計画〜すべての女性が輝く令和の社会へ〜」において、「都道府県及び市町村の教育委員会のうち、女性の教育委員のいない教育委員会の数を2025年までに0とする」とされているからです。
▼女性メンバーのいない教育委員会、全国に31 文科省調べ(先端教育・6/25)
💡研究員はこう考える
まずは様々な男女格差を一緒に確認していきましょう。
▼ジェンダー・ギャップ指数
日本における女性の社会参加率が先進国の中でも低いことは、教育委員会に限ったことではありません。
内閣府男女共同参画局は、世界経済フォーラムが発表するジェンダー・ギャップ指数において、日本の順位が118位(2024年 146ヵ国中)であったと述べています。
▼男女共同参画に関する国際的な指数(男女共同参画局)
「教育(就学率等)」「健康(健康寿命等)」の値は世界トップクラスですが、「政治参画」「経済参画」が足を引っ張っています。
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▼夫婦別姓
また、大きなテーマとして「夫婦別姓」があります。海外で認めていない国はありません。
民法では第750条で「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定めて夫婦同姓を義務付けており、婚姻後もそれぞれが婚姻前の姓を称することを希望する夫婦の婚姻を認めていません。
「夫婦別姓」については、見解の対立が解消されません。
賛成派は、憲法第13条の自己決定権として保障される「婚姻の自由」、第14条の「法の下の平等」、第24条の「・・・夫婦は同等の権利を有する」「・・・両性の本質的平等に立脚して」に反すると主張します。
国連女性差別撤廃委員会の勧告も何度も受けています。
経団連も新たな制度の早期実現を求める提言をしています。
特に若者からは「選択的夫婦別姓」を望む大きな声が上がっています。
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▼進学の差
男女格差については、進学においても、大きな話題になっています。
詳しくは下記記事もご参照ください。
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▼教育委員会の現状を考える
様々な考えがあることは百も承知の上で私見を述べるならば、男女の性別、あるいは、LGBTQ+の違いで、区別する考えと制度は正しいのでしょうか。
性急に、伝統を変える必要も、右へ倣えをすることもありません。
しかし、権利や機会は「人間」に対して与えられるべきであり、特定の「性」ではありません。
不平等になっているところは、様々な分野で是正し、誰もが自分の意志で選択できるような社会が望ましいと思います。
教育委員会もまたしかりです。
教育委員会に女性の意見が反映されにくい環境のままであれば、それはそのまま学校現場の環境にもつながり、不平等の是正への道のりは険しいものとなってしまうでしょう。
教育委員になりたい人間、適性のある人間が、性別に関係なく教育委員になることのできる環境整備(働き方改革や待遇改善)を進めるべき時ではないでしょうか。
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