白い靴|#シロクマ文芸部
「白い靴を汚すために歩いてきた。」
そう話した少年の足もとは泥だらけだった。白かったはずの靴はどう見ても靴ではなくなっていた。
どこから来たのか訊ねても黙ったまま、ただ空を眺めてはため息をついていた。
「乗せてください。」
「その靴では、乗せることはできない。」
「どうしたら乗せてくれますか?この白い靴がいけないのですか?靴は脱ぎます。だから、乗せてください。」
「靴を履かずに乗せることはできない。」
「あの女の子は白い靴で乗っているではないですか。」
「あの子の靴と君の靴は違う。」
列車は風と混ざり合い、空へと消えた。
「ここではないどこか行き」の列車は、女の子を乗せてどこか遠くへ消えていった。追いかけることもできず、ただ消える列車を見送った。
列車に乗れなかったのは白い靴のせいだと思った。白い靴を汚そうと、泥だらけの道を選んで歩いた。白い靴は汚れていった。汚れていく白い靴はどんどん重くなった。
あれからどのくらい歩いただろう。
靴が重たくて、重たくて、次の一歩が踏み出せなくなった。
「白い靴を汚すために歩いてきた。」
見知らぬ人にはそう答えたけれど、どうして白い靴を汚さなければならなかったのか?汚す必要があったのか?もうわからなかった。わからないけれど、白い靴を汚すという目標のために苦しさを忘れ歩いてきた。
白い靴は靴には見えないほど十分に汚れた。目標を達成し、目標を失った。
立ち止まり、うずくまり泣いた。僕の白い靴は汚れてしまった。泥だらけの靴を撫でて泣いた。靴を撫でながら、あの女の子の白い靴を思い出していた。
あの子の靴と僕の靴は違った。
あの子は列車に乗れて僕は列車に乗れなかった。それは初めから決まっていたんだ。空を見つめて大きくため息をついた。
冬のため息は白かった。
ため息は青空に浮かぶ月に見えた。
月はだんだん大きくなり、思わず目を擦った。
あの日の列車とは別の列車が現れた。
「時がきました。さあ時間旅行へ出発しましょう。」
そう響いて列車のドアが開いた。
(おわり)
#シロクマ文芸部 に参加させていただきました。
楽しかったです!
ありがとうございました!!
心も体も忙しい日々です。昨日は京王線の乗り換えに苦戦して自己肯定感が下がりましたけれども…。5月病にはバナナがいいらしいので、バナナを食べて頑張ります。
読んで下さった方、本当にありがとうございます。
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