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なぜ人類は豚骨ラーメンを好むように進化したのか #進化グルメ学 no.31


看板には店名がなく、骨組みのまま。

愚直』という店名と相まって「宣伝する気はないから知る人だけ来ればいい」というスタンスを採る無口で無骨なラーメン屋だが、SNSを介して見知らぬサピエンス間にもレピュテーションネットワークが張り巡らされているこの時代に良いものが知れ渡らないのは難しく、知る人ぞ知るを超えてトーキョーNo.1豚骨ラーメン店だとすっかり知れ渡ってしまっている。

板橋という地を動かないのもいい。「俺からは行かないから、食いたいならお前が出向いてこい」というローカルな立地だ。ローカルといっても東武沿線、川越街道沿いなので田舎でもないし僻地というわけでもない。東京23区のうち4つや5つの区でしか遊ばないつまらない連中を弾く立地というだけだ。お前らはその他18の区に目を向けろ!そこには無限の可能性がある────無限の可能性はないかもしれないが、『愚直』のような店に出会える有限の可能性を信じて探索に向かえば、思いがけないエンカウントがあるはずだ。処理流暢性バイアスに操られて、渋谷だの新宿だのの「いつもの」場所に向かうというのはよくない。「休みだしどっかいくかー」の回答がいつもそれというのはつまらない。



さて、『愚直』の出す豚骨ラーメンは、その名の通り馬鹿正直でまっすぐだ。変化球は投げられない。豪速球ストレート一本勝負。これぞ豚骨ラーメン界のお手本というべきだろう。

博多豚骨系によくある固茹での麺はなんと自家製だ。食感は弾力のある輪ゴムのようで、味は小麦感が強い。

スープはこってり感がなくクリーミー。豚骨ならドロドロがいいというやつもいるがそんなお前は本場福岡博多の豚骨ラーメンを食ったことがあるのか? シチューやポタージュのようにドロドロしたものはほとんどない。しっかり濾されたサラサラのスープ。『愚直』もそれを愚直に踏襲している。

だがけっして淡麗ではない。スープの味はまさに濃厚だ。喉越しにキレはない。一口啜るたびに、喉ちんこにスープがまとわりつく。油断して飲むとむせるほどの濃さ。だがさらりとしている。

白いスープの水面には脂胞がカプチーノように浮いている。骨髄液がクリーム状に泡立っているのだ。全粒粉のストレート麺をスープに絡めて持ち上げるたびに、オレの意識は太古へとタイムスリップすることになる。


なぜオレたち人類は、こんなにも豚骨ラーメンを愛する味覚を持っているのか? 

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