『問はず語り』を和歌から読み解く2

和歌4 後深草院→作者

あまた年さすがに馴れし小夜衣重ねぬ袖に残る移り香

長年連れ添ってきた仲なので、ともに寝ることができなくても自然と私の袖にあなたの香りが移ってきたよ

実は、作者は4歳の時から院のもとで育てられていました。院は、作者が幼い頃から接しており、「あまた年さすがに馴れし」(長年連れ添ってきた仲)と自負していたのでしょう。作者と実兼との関係を知らず…。

この歌を贈る前日、院は作者に一緒に寝る(性行為…)よう誘いましたが、作者は頑なに拒否しました。院にとって残念な結果に終わりました。

このあたりから物語がエロティックなテイストを含むようになります。

院は玉砕した翌日、「あまた年さすがに…」の歌を弱者に贈りました。全く諦めていない院に対し、弱者は院に返事をせず、無視しました。

和歌5 実兼→作者

院からの頼りを無視した作者のもとに、今度は実兼から手紙が届きました。そこには、次の歌が読まれていました。

今よりや思消えなん一方(ひとかた)に煙のすゑのなびき果てなば

ああ、私はもう生きていられない。一方になびく煙のように、あなたが院の方へなびいてしまったならば。

俺のことを選んでくれないのなら、もう死んでやる!と、作者の気を引こうとしているのでしょうか。本当に死にたい思いだったのかもしれません。恋敵が時の権力者なのだからなおさら…

この自暴自棄な告白に対して作者はどう対応したのでしょうか。

和歌6 作者→実兼

知られじな思乱れて夕煙なびきもやらぬ下の心は

あなたは気づかないのですか?思い乱れながらも院になびかなかった私の本心を。

もう死んでやる!と言う実兼に対し、私のことを信じてよ!という感じでしょうか。

院に対しては無視をしておきながら、実兼には返事の歌を贈っている。そんな状況について作者「とは何事ぞ」(私もどういうつもりなんだか)と自嘲ぎみに思いました。

引用、参考文献
『とはずがたり たまきはる』新日本古典文学大系 岩波書店

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