市内RPG 35 非情口から将棋盤
ぼくら、レベル10。勇者、戦士、魔法使い、僧侶の高校生パーティー。
エオンショッピングセンターの段ボール回収箱から続く段ジョンの地下4階に足を踏み入れたところだ。祭壇の奥に光る「非情口」の扉をくぐってきた。
地下4階は、体育館のようにただ広いだけの空間だった。高い天井には、オレンジのライトが灯っていて、そのおかげで何とか周りの様子がわかる。
「何だ、ここは?」剣道部で戦士ヤスがつぶやいた。
足下を見ると、石床には、まっすぐに引かれた溝が縦横に伸びている。
「、、、将棋盤だ」魔法使いヒラが言った。
「その通り、ここは将棋盤だ、勇者諸君」野太い声がした。
声のする方に目をやると、薄暗いオレンジのライトに五角形の駒が照らし出された。どうやら王将のようだ。その左右には、将棋の駒たちが並んでいる。
「ここから先へは進めぬぞ。そして、帰ることもできぬ」
そう王将が言ったとき、くぐってきた扉が閉まった。
僧侶カナが慌てて扉を開こうとしたが、びくともしなかった。
「ははあん、これは魔法使いの将棋というものだな」
魔法使いヒラがあごをなでながら言った。
「かの有名な魔法使いの映画で見たことあるよ。仲間が駒になってゲームをするんだ。あれは、たしかチェスだったけど・・・」
「その通り。どうする?勝負するか」
王将が言った。
「するさ!」
ヒラが答えた。
「将棋なんてやったことないよ」
ぼくはヒラに言ったが、ヒラは笑みを浮かべながら言った。
「大丈夫。最近、じいちゃんに勝ったから」
「いや、ヒラのじいちゃん、最近ぼけてきたって、、、」
ヤスが口をはさもうとしたとき、ヒラが鋭く叫んだ。
「戦士は飛車、僧侶は角行、勇者は、、、フ、フ、フ、フヒョウクション!」
ぼくの駒を伝えようとしたところで、ダンジョンのほこりを吸い込んでむせてしまったらしい。
ぼくとヤスとカナの身体が淡く光って、気が付くと、歩兵の駒の上に立っていた。足が動かない、、、ということは降りれない。後ろを見ると、ヤスが飛車の上に立っていた。カナは左手の奥に見える。どうやらぼくは、2七のマスにいる歩兵らしい。でも、この位置はまずくないか、、、。
「では、始めようか」
王将が言った。
「よし。行け、勇者。2六歩」
ヒラの声がした。ほら、まずはこの駒から動かすのが、定石だ。
「2五歩」
また、進む。
「2四歩」
相手の歩兵が目の前だ。これは駒を取られるぞと思った矢先、
「同歩」
王将が言った。駒とぼくは淡く光って、将棋盤の右手に移動していた。これは、敵駒になったことを意味する。
「ヒラー、だめじゃん。勇者を取られたら!」
ヒラに向かって叫んだ。勇者がよりにもよって1番に取られ、しかも敵駒になってしまうなんて。
「大丈夫。将棋に勇者なんて駒はないから。あとで取り返してみせるよ」
自信満々でヒラは言うのだが、本当に大丈夫なんだろうか。
対局は進んでいく。
飛車のヤスは「龍王」に、角行のカナは「龍馬」に、それぞれ成って、縦横無尽の活躍をしている。
勇者であるぼくの活躍はまだない。、、、、王将がぼくの駒である歩兵を使わない限り出番はないのだ。まさか、このまま終わるなんてことはないよね、、、、。
相手の王将は意外と素人、、、なのかなと思わせる采配ぶりだ。ヒラと互角みたいなところだから。
これならいけるか!?
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