権力の働かせ方 - 誰か奴を止めろ
バイト生活が長いと、どうしても「使われる」側でものを考えるようになります。
相次ぐコスト削減で疲弊する配達などの現場作業で僕が経験した上司の指示というのは、僕だけでなく、同じ立場で働く者にとっても腹立たしいものであることが多かったです。
一見頭を使わない単純作業でも、大量の物の収納、分類、積み込み、配達などは「複雑系」であり、多くの作業員はこんな誰でもできる仕事をしてるけど・・と卑下するのですが、何をどうやったら早く済ませるかという方法は、理由ははっきり説明しにくいけど、こういった段取りでこうすると早くできるという経験知の集積です。
そこに、残業時間を2割減らすという秘めたる使命を持った新任の上司が来て、あれこれ指示をしてきます。しかし、大抵邪魔です。また、安全対策と称して、余計な確認作業を強いて来たりします。
安全対策と効率化は二律背反ですが、その二つがどの程度背反しているかに上司は大抵気付きません。斑には他の人より2割早い人もいれば2割遅い人もいるのに、一律に物量の数字だけ見て、この日は残業禁止!と言います。
遅い人が間に合わずに翌日に持ち越し、新規到着分との兼ね合いで却って業務が複雑化して遅い人がますます遅くなって焦って事故するとか、早い人が遅い人を手伝っても作業量が増えるだけで給料は変わらないという不公平が生じるのを思い付かずに「斑内助け合い」などと言い出して、合理的な報酬の裏付けもなく、ただでさえ不公平感の燻る作業効率の格差にさらに火を注ぎ、そこに臨時で大量の広告の配達が入ってさらに混乱してもそういった事情も考慮に入れず、反抗的な作業員を見て怒鳴り散らしたりするに至ったりもします。
2割残業時間を減らすために何ができるかに考えて答えを出せるのは作業員なのに、一律で自分の思いついた手順を強制したり、時間通りに出来ない班員のいる班長に説教していたりします。
そのうち、本当によく起こるのですが、右へ歩きながら左に走れと言うに等しいような、どちらかを満たせばどちらかは絶対満たせない指示が出ます。だんだん作業員の上司を見る目はどんよりと曇り、怒りが燻るようになります。
どうして下から上へという情報ルートがないんだろう、どうして言うことを聞かせる人事権と決裁権を持った話の通じないえらい人が入れ替わり立ち替わりやってきて、現場の実態を無視した的外れな指示をポンポンポンポン押し付けて来るんだろう。
目的は、うまく現場を効率化することだと思うのに、上司だから当然部下へ指示を出して、といったすごく単純でナイーブなモデルで考えている様が透けて見えてしまう。指示の結果混乱して起こった不具合は全部下に押し付ける癖に。
責任の裏付けのない権力ってほんまヤバいと思う。数字だけは達成しているらしいのですが、確実にまた、何か大事なものが無くなったという感じが残る。それが何かはうまく言語化できないんやけど、そういった微妙なものだからこそ、こうまでして次々とこぼれ落ちて行くのでしょう。
作業員はいつも顔を合わせているお客さんに迷惑を掛けたくないから、してはいけない省略をしたり、時間外作業をするようになる。下から上へは情報は流れない。100人近くいる作業員の苛立ち、怒りは凄まじく、ちょっと不穏なものを感じ出して、新しく来た上司はやがて、自分では直接指示を出さなくなり、そのすぐ下の管理者たちを叱責しだす。板挟みだ、まるで生け贄だとみんな思う。
たぶんこうやって、日本全国の「公」に対する一般民衆の信頼は失われて来たんだろうなあと思う。
下から上にもうまく情報が流れる組織運営って出来ないものだろうか。たまにそうなるような上司が来ることもあるが、それはその人にしかできない属人的なスキルで、次に違う人が来ると元の木阿弥に戻る。さらに上の上司から拝命した、もっと理不尽な使命を携えて。
例えば三権分立みたいな巧みな制度的仕組みで、こういったコミュニケーション不全ってどうにか出来へんのかなぁと思います。
一億玉砕火の玉とか、負けると考えるとは非国民めとか、耳障りの良いファンタジーが、引くに引けない戦いで人を殺し続けている。日本の戦時中の軍人って、すごくきれいで胸が躍るような文学的な文章を書くのですよね。でも、「それじゃないだろ」と思ってしまう。
数字とか、現実的制約を見ない「権力」っていやだなあ。ついついイラっと来て、データは?根拠は?それやるとこれ出来なくなるけどどうするのっ?ってほんっと声を大にして言いたくなるけど、そうすると血も涙もない人間に見えるのかなあ。
・・と、第二次大戦中のインパール作戦のドキュメンタリーを観ていて思いました。
(あ・・、それでカイゼンというアイデアが出てくるのでしょうか。でも原発事故は止められなかったのだから、現場主義と法規制との相性は良くないのかもしれません)
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