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CES(Customer Effort Score)負の付加価値に着眼した顧客体験指標

CES(Customer Effort Score)とは? 顧客体験中の”負の付加価値”を数値化し、負担を軽減する指標

CES(Customer Effort Score)は、顧客が企業のサービスを利用する際の「負担の大きさ」を数値化する指標です。本レポートでは、CESの概要、NPS・CSATとの違い、測定に適した業種、具体的なアンケート設問例を詳しく解説。特に、セルフレジやモバイルオーダーが普及する中で、CESがどのように企業の競争力向上につながるかを成功事例と共に紹介します。顧客満足度向上のためのヒント”になれば幸いです。


1. CESの発祥と概要

CES(Customer Effort Score、顧客努力指標)は、2008年にCorporate Executive Board(CEB ※現ガートナー)によって提唱された指標です。この指標は、顧客が企業の提供する商品やサービスを利用する際に「どれだけの努力を要したか」を測定するものです。簡単に言えば、顧客がスムーズに目的を達成できたかどうかを数値化することで、企業が提供する顧客体験の改善点を見つけるためのツールとして活用されます。

例えば、あるECサイトで商品を購入しようとした際に、カートに入れるのが簡単だったか、決済手続きがスムーズだったか、返品の手続きが面倒でなかったかといったポイントを評価するのがCESです。

CESは、特にサポートや購入プロセスにおいて、顧客の負担を軽減することが企業の成功に直結すると考えられています。企業にとっては、「お客様がなるべく手間をかけずに利用できるかどうか」を把握し、最適化するための重要な指標となります。

2. 顧客体験指標としてのCES・NPS・CSATとの比較

顧客体験を測定するための指標としては、CESのほかにもNPS(Net Promoter Score)やCSAT(顧客満足度・Customer Satisfaction Score)があります。それぞれの違いを理解することで、どの場面でどの指標を使うべきかが分かります。

NPS(Net Promoter Score)は、顧客が企業やブランドをどれだけ他人に勧めるかを測る指標で、長期的なロイヤルティを評価します。
一方、CSAT(顧客満足度・Customer Satisfaction Score)は、特定のサービスや商品に対する満足度を短期的に測定します。

CESは、顧客がサービスを利用する際に感じる「負担」に注目し、その軽減が顧客体験の向上につながると考えられています。例えば、カスタマーサポートに問い合わせた際に、すぐに解決できたか、何度も問い合わせなくても済んだかなどがCESに関わるポイントです。

3. CESの特徴:「負の付加価値」を測る新しい視点

顧客は、商品やサービスを利用する際に次のような「負担(コスト)」を経験します。以下は主な例です。

  • 時間的コスト (待ち時間、手続きの煩雑さ)

  • 労力的コスト (手間、学習コスト)

  • 心理的コスト (不安、ストレス、選択の迷い)

従来の指標では、これらの負担はあまり考慮されていませんでした。しかし、CESはこの「負の付加価値」に着目し、企業が顧客の負担を減らすことで、満足度とロイヤルティを高められることを示しました。

例えば、ネット通販で注文した商品がすぐ届くかどうか、返品手続きがスムーズかどうかといったポイントが「負の付加価値」に影響します。

4. CESの測定に適した業種・業態

CESの測定が適している業種・業態は、顧客が「手間をかけたくない」と感じやすいサービスに該当します。

適している業種・業態

  • ECサイト・ネット通販(購入・返品の手間)

  • 金融機関・保険(手続きの煩雑さ)

  • カスタマーサポートセンター(問い合わせの負担)

  • 交通・旅行サービス(予約やキャンセルの手間)

  • 携帯キャリア・通信サービス(契約手続き、解約のしやすさ)

適していない業種・業態

  • 高級ブランド・ラグジュアリーサービス(顧客体験の一部としてプロセスを重視する)

  • エンターテインメント(映画館、ライブなど)(手間よりも感動体験が重視される)

  • アート・文化施設(サービスの「手間」よりも価値創造が重要)

5. CESのアンケート設問と回答例(ファッション業態)

CESの調査では、5~10段階ののリッカートスケールが使われますが、7段階を用いることが一般的です。以下は、ファッション買取・販売店での買取利用者を事例とした設問例です。

設問例(CESの測定)

「今回の買取手続きは簡単でしたか?」

  • [1] 非常に難しかった

  • [2] 難しかった

  • [3] やや難しかった

  • [4] 普通

  • [5] やや簡単だった

  • [6] 簡単だった

  • [7] 非常に簡単だった

設問例(その他の顧客体験)(5段階リッカートスケール)

  1. 「買取価格の提示までの待ち時間は適切でしたか?」

    • [1] 長すぎる

    • [2] やや長い

    • [3] 普通

    • [4] やや短い

    • [5] 短すぎる

  2. 「スタッフの対応はわかりやすかったですか?」

    • [1] 非常にわかりにくい

    • [2] わかりにくい

    • [3] 普通

    • [4] わかりやすい

    • [5] 非常にわかりやすい

  3. 「店内の案内表示は分かりやすかったですか?」

    • [1] 非常に分かりにくい

    • [2] 分かりにくい

    • [3] 普通

    • [4] 分かりやすい

    • [5] 非常に分かりやすい

  4. 「支払い方法の選択肢は十分でしたか?」

    • [1] 非常に不十分

    • [2] 不十分

    • [3] 普通

    • [4] 十分

    • [5] 非常に十分

  5. 「返品・交換のルールは理解しやすかったですか?」

    • [1] 非常に分かりにくい

    • [2] 分かりにくい

    • [3] 普通

    • [4] 分かりやすい

    • [5] 非常に分かりやすい

  6. 「ウェブサイトの情報は分かりやすかったですか?」

    • [1] 非常に分かりにくい

    • [2] 分かりにくい

    • [3] 普通

    • [4] 分かりやすい

    • [5] 非常に分かりやすい

  7. 「買取価格の提示までの待ち時間は適切でしたか?」

  8. 「スタッフの対応はわかりやすかったですか?」

  9. 「店内の案内表示は分かりやすかったですか?」

  10. 「支払い方法の選択肢は十分でしたか?」

  11. 「返品・交換のルールは理解しやすかったですか?」

  12. 「ウェブサイトの情報は分かりやすかったですか?」

6. CESの重要性と今後の展望

CESの課題と今後の展望

近年、セルフレジの導入やECサイトの拡充が進み、顧客が自由に買い物できる環境が整いつつあります。しかし、これらの施策が必ずしも「顧客の負担を減らしている」とは言い切れません。むしろ、操作の手間や選択の負担が増え、結果として顧客がストレスを感じる場面も増えているのが現状です。

例えば、セルフレジは「レジ待ちの時間を短縮できる」「スムーズに決済できる」といったメリットがある一方で、バーコードの読み取りや支払い操作をすべて顧客が行う必要があり、特に高齢者や機械操作に慣れていない人にとっては大きな負担となっています。また、商品登録ミスや支払いエラーが発生すると、結局スタッフの助けを求めることになり、かえって時間がかかることもあります。こうした問題が影響し、セルフレジ導入後に収益が落ちた店舗もあると報告されています。

ECサイトでも同様に、「いつでもどこでも買える」という自由度がある一方で、膨大な商品から最適なものを選ぶ手間や、返品・再配達の負担が増えています。結果として、「店舗で直接買った方が楽だった」と感じる顧客も多いのが実情です。

こうした問題を解決するためには、**Customer Effort Score(CES)**の活用が重要です。例えば、セルフレジを利用した顧客に「この会計は簡単でしたか?」と質問し、スコアを収集することで、具体的な改善点を明確にすることができます。

今後、CESを活用して改善すべきポイントとして、以下のような取り組みが考えられます。セルフレジでは、スキャン不要の自動決済システムを導入することで、操作の手間を大幅に削減できます。また、有人サポート付きセルフレジを設置することで、困ったときにすぐにスタッフが対応できる環境を整えることも有効です。ECサイトでは、AIを活用したパーソナライズ推薦を導入し、顧客が短時間で最適な商品を見つけられる仕組みを作ることで、選択の負担を軽減できます。

企業は、NPS(顧客推奨度)やCSAT(顧客満足度)と並び、CESをKPIとして継続的に測定し、顧客の負担を最小限にすることを目指すべきです。単なる利便性向上ではなく、「ストレスなく、簡単に使える」ことがこれからのブランド価値となるでしょう。CESを意識した改善を進めることで、顧客との信頼関係を深め、長期的なロイヤルティの向上につなげることができます。

CESを活用した成功事例

  1. 大手ECサイトA社

    • 以前は購入手続きが煩雑で、カゴ落ち率(カートに商品を入れたまま購入を完了しない率)が高かった。

    • ワンクリック決済の導入により、購入完了までの手間を大幅に削減。

    • その結果、CESスコアが向上し、売上も10%以上増加。

  2. ファッション業態B社(買取・販売店)

    • 買取プロセスが煩雑で、査定待ち時間が長いことが顧客離れの要因だった。

    • スマホアプリで事前査定ができる仕組みを導入し、店頭での査定時間を短縮。

    • CES向上により、リピーター顧客が増加。

  3. 通信キャリアC社

    • 契約やプラン変更の手続きが複雑で、問い合わせが多かった。

    • チャットボットを活用し、自己解決できるFAQ機能を強化。

    • 顧客の負担が軽減され、NPS(推奨度)スコアも改善。

CESの未来:さらなる発展に向けて

今後、CESはさらなる進化を遂げる可能性があります。

  • AI・機械学習の活用:顧客の行動データを分析し、最適なタイミングでのサポートを提供。

  • 音声アシスタントの導入:問い合わせ対応や手続きを簡素化。

  • 統合デジタルプラットフォームの強化:EC・実店舗・カスタマーサポートのシームレスな連携。

企業がCESの概念を理解し、実際の改善策に落とし込むことで、顧客ロイヤルティを高め、長期的な成功へとつなげることができます。

まとめ

  • CESは、顧客が感じる「負担」を数値化し、企業が改善できる指標として有用。

  • NPS・CSATと比較すると、顧客の「手間」や「努力」にフォーカスしている。

  • EC、金融、カスタマーサポートなどの業態に特に適しており、顧客の負の付加価値を減らすことがロイヤルティ向上につながる。

  • 今後、AI・デジタル技術の発展とともにCESの活用がますます重要になっていく。

企業がCESを活用し、負担の少ない顧客体験を提供することが、今後の競争優位性の鍵となるでしょう。

2025年1月31日 よしざわ  りゅう
https://marketing-j.co.jp/


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