見出し画像

【ショートショート】黒の継承


お前さえいなければ、あの人ともっと仲良くなれたのに
お前さえいなければ、あの人ともっと楽しい会話ができたのに
お前さえいなければ、あの人ともっと男女の仲になれたのに
   
お前さえいなければお前さえいなければお前さえいなければ
    
お前はいつまでそこにいるんだ
お前が目障りなんだよね

お前が生き続けるなら
私がお前をあの世へ葬ってあげる




「はい、カーーーーット!!」




「今日も迫真の演技だったね!念のためテイク2もやってもらったけど、どちらも完璧な「闇を背負う女」だったよ!」

「ええ、そうですか!?役柄にかなり感情移入しちゃって、いつものバラエティー番組のようなキャラが視聴者には一番しっくり来ませんかね?」

「いやいや、こんな怪演ができるとは知らなかったよ。バラエティー番組とのギャップがあり過ぎて、逆にファンが増えるんじゃないかな?」

「それならいいんですけどね!この演技で嫌いにならないか心配です!」



わたしはこの女芸能人を追っていた。

始めはグラビアアイドルだったが、バラエティー番組に出演すると完璧なスタイルと垢抜けたキャラがお茶の間の人気を誘い、瞬く間に売れっ子タレントの仲間入り。

その後、ドラマ出演のオファーを受け、今回は主人公の女の恋のライバルとして出演しているが、バラエティー番組のキャラとのギャップがあり過ぎるほどの怪演に度肝を抜かれている視聴者、いや、ドラマに関係する全ての人たちがいる。

それにしてもこのギャップの差は一体・・・。

演技にしてはできすぎていないか。
なにか彼女に他の人が知らない闇が隠されているかもしれない。

同性であるわたしはそう直感した。

週刊誌の記者をしているわたしは、彼女の私生活を暴くために尾行することにした。

今日でドラマの撮影がクランクアップし、彼女がマネージャーと話しこんでいるところを通りかかるフリをして会話に耳を傾ける。


「せっかくクランクアップしてこれから打ち上げあるのに、今日もカレシとデートするの!?」

「違う違う!女友達と食事の約束しているんだよ!カレシいないし!」


そう言って、彼女はタクシーを呼んで目的地に行くようだ。

わたしは近くに停めてあった自家用車に乗り込み、すぐにタクシーの後を追った。


撮影現場から車を走らせて約30分。
彼女はとある古びた2階建てのアパートの2階の部屋に入っていった。


彼女の「本当の自宅」は既に突き止めており、今入っていったアパートとは逆方向にある湾岸エリアのタワマンだ。

これはもしかしてスクープでは!?
男の匂いがプンプンする。


わたしはスクープ欲しさに我慢ができず、その部屋の前まで行ってみることにした。
彼女が入っていった202号室のドアの前に立ち、中の様子を探ろうとするが全く音が聞こえない。

ドアノブに手を伸ばしてみる。

すると鍵がかかっていなかった。


これは突撃してスクープ写真を撮って逃げるか!


最近は全くスクープが掴めない。
その焦りから、住居侵入で訴えられてもおかしくない状況を忘れ、室内に身体を滑り込ませた。


玄関に忍び込んだわたしは呆然とした。
アパートの規模からして、昔ながらの2Kタイプの部屋にようだが、なかは真っ暗だった。

直感的に嫌な予感がしてきた。


彼女はどこに?


心臓が張り裂けそうなほどバクバクしているが、それ以上に功名心が打ち勝っていた。

と、その時。



ベリベリベリベリ




何かを剥がしている音が真っ暗な部屋の向こうから聞こえてきた。


何の音?


恐怖心よりも好奇心が勝り、忍び足で部屋の中に入っていった。

部屋の中は漆黒の闇だった。

外はまだ夕方のはずだが、外からの光が全く入っておらず、どうやら窓には何か遮光物が取り付けられているようだ。


漆黒の闇に目が慣れてきた時、目の前の壁に貼ってあるものに気がついた。

それは何十枚にもなる写真だった。
しかし、暗闇で何の写真なのか、よく見えない。


その時、不意に後ろの闇から声がした。




オマエはいつまでそこにいるんだ
オマエが目障りなんだよね
オマエが生き続けるならワタシがオマエをあの世へ葬ってあげる





えっ?彼女の声じゃない!!
まるで老婆のような声・・・・



思った瞬間、何かで頭を殴られたようで、わたしの身体はそのまま深い闇の中へ沈んでいった。


・・・・・


ピンポーン


「宅配便でーす!!」


とあるマンションの一室。
届いた小包の差出人を確認し、とりあえず部屋のテーブルに置いた。


ああ、ついに来たか。


フーーーっと長い息を吐くと、つけていたテレビのチャンネルを変えた。


「次のニュースです。今日午前5時頃、東京都中野区にあるアパートの一室で火事があり、焼け跡から成人女性とみられる焼死体が見つかりました。」

「また、火事があった部屋には60代くらいの女性が倒れており意識不明の重体です。警察は事件と事故の両面で捜査する方針です。」




さてと・・・。
先ほどの小包を開け、中身を取り出してみた。


ドクドクと胸の鼓動を高鳴らせながら、小包の中にあった「それ」をゆっくりと付けてゆく。


そして、部屋の鏡の前でつぶやいた。




ついに私の番だ!!





「次は、芸能ニュース!!大人気ドラマ『おまえさえいなければ』でドラマ初挑戦で怪演を披露したあの人気タレントが、昨日クランクアップを迎えました〜!!」



(2,117文字)


今回のショートショートは以下のマガジンに収めています😌


次回の「よしまるショートショート劇場」は、1月4日(土)よる9:00に投稿します✨️





いいなと思ったら応援しよう!