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【ショートショート】女性遍歴ウルトラクイズ
人事課長からの評価は上々だ。
オレは職場の同僚のアラ探しをしては、その都度人事課長へ密告していた。
そんなことで日々過ごしてきたある朝。
オレはいつもどおり出勤すると、ちょうど人事課長から電話があった。
「ちょっと来てくれるかい?」
オレはすぐに課長のデスクに向かうと、デスクで話せない内容なのか、近くの小部屋へ案内された。
「急で申し訳ないんだけど、明日から長野支社へ出張に行ってほしくてね」
課長の目の前には一冊のファイルが置かれてあった。
支社への密偵か
相手はどんなヤツなんだろう
と、心の中でワクワクすると同時に、全く別の感情も湧き上がった。
長野か・・・
長野と聞くと心に引っかかるものがあり、オレは喜びと困惑が入り交じったような表情になる。
「詳細はファイルに書いてあるとおりだから。よろしく頼むよ」
課長がそう言うと早々に自分のデスクへ戻っていった。
課長は以前同じ部署で働いていたときの元上司だ。
オレの密偵の才能に気づき、人事課長に就任してからはずっとこんな感じだ。上司の時に世話になったので課長には頭が上がらない。
オレは早速その場で受け取ったファイルを読み始めた。
次の日。
オレは東京から長野県にある支社へ向かった。
支社への訪問は明日で良いとのことだったので、今日は宿泊のみ。
長野駅に到着し改札口を出ると、
「お待ちしておりました」
突然見慣れぬ若い男が話しかけてきた。
「本社より本日の宿泊先に案内するよう仰せつかりました」
なんだ、長野支社の社員か
オレは安堵すると、その社員が乗ってきた車の後部座席へ乗り込んだ。
車は長野市の中心地からどんどん遠ざかっていき、山々が目と鼻の先に見えたあたりに差し掛かると、
「到着しました」
長野支社の社員であろう男が声をかけた。
オレはゆっくりと後部座席から降りると目を見開いた。
そこには、西洋式の城を思わせる豪華な建物がそびえ立っていた。
重厚な門をくぐると、スーツ姿の男が出迎えに来た。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
言われるままにロビーを突っ切り、エレベーターに乗るよう促された。
それにしても、なんて広さのホテルなんだ
こんな立派なホテルがあったなんて
エレベーターで最上階となる10階まで上がるとテラスが見えてきた。
その光景を見てオレは唖然とした。
テラスの先には雄大な長野盆地が見えたのだが、その絶景の手前には複数のテレビカメラが設置してあり、そのカメラの先にテーブルが4つ並んでおり、見知らぬ男3人がそれぞれのテーブルに立っていた。
テレビでよく見かけるクイズ番組のセットのようだ。
「すでにスタンバイしているので、早くそこの席に立ってください!」
テレビ局のディレクター風の男が、空いている席へ行くよう急かす。
な、なんなんだ、こいつら。
それにこのセットは?
何だか事態が掴めないままオレは空いている席に立つ。
すると、
「さあ、やってきました!『女性遍歴ウルトラクイズ』!!」
今度は司会者風の男がやってきて話し出した。
なんじゃそりゃ
「ニューヨークに行きたいかーっ!?」
司会者の掛け声とともに、クイズの挑戦者と思しき3人の男たちが一斉に「おー!!」と叫ぶ。
「では第1問!」
早速、司会者が問題を読み上げる。
「男が小学生の時、当時好きだった女の子の席にあった文房具入れから鉛筆を盗み出し、その子の温もりを感じながら素知らぬ顔で使ってい・・・」
ポーン!
オレの右隣の男がボタンを押す。
「さやかちゃん!」
ピポピポン!
「せいか~い!!」
司会者の絶叫が長野盆地に響き渡った。
「第2問! 男が中学生の時、学年一の美少女だった子が好きな飲み物があることを知り、ある朝その子に「これ一緒にシェアしよう」と言って間接キ・・・」
ポーン!
今度はオレの左隣の男がボタンを押す。
「牛乳!」
ピポピポン!
「だいせいか~い!!」
またしても司会者が絶叫した。
お、おい、これはどういうことだ?
オレは5問目が終わった時点で察した。
これ、全て過去のオレことだ
しかも人には言えない恥ずかしい過去ばかり
こんなこと、誰にも言っていないはずなのに
なんでこいつら知っているんだ
司会者や挑戦者、スタッフの顔を見ても知り合いの顔はどこにもなかった。
問題が出される度に、オレの表情がどんどん青ざめていく。
クイズはクライマックスを迎えていた。
オレ以外の挑戦者3人は3問ずつ正解しており、オレは1問も答えられていなかった。
いや、ただ呆然としていた。
「ついに最終問題!これに正解するとなんと10点獲得できます!」
司会者がさらにテンションが上がり、その場の空気が最高潮に達していた。
「では第10問! 令和○年×月△日午後10時頃、男は長野県長野市内のラブホテル『ニューヨーク』で当時25歳の女性と過ごした後、ホテルを出る際の車内で女性の首を絞めて殺害し、長野市内の山中に遺棄しました」
オレはみるみる全身という全身から汗が噴き出し、
足がガクガクと震えてきた。
ま、ま、ま、ま・・・!!
「女性殺害から10年が経過後、遺棄した現場でホテルの建設工事が始まったことでこの女性の白骨化した遺体が見つかりました。
男はそんなことは知りもせず、勤め先で社内密偵のような裏の業務をこなしており」
全て事実だ。
殺害した女とはカラダの関係だけのつもりだったが、女が本気になってしまったので、やむを得ず殺めてしまった。
オレは後悔の念に駆られつつも、それを忘れたいために社内密偵に没頭していた。
このホテルの場所。
見覚えがあると思っていたが、まさにここが遺棄した現場だった。
そしてオレは途中から気がついた。
淡々と話す司会者を始め、挑戦者やその場にいるスタッフまで、全員の冷たく鋭い視線が俺に容赦なく降り注いでいたことを。
そっか、みんな知っているんだな
オレはがっくりとうなだれた。
ボタンを押し、そして絞り出すように答えた。
「それは、、私です」
「罪を認めるということだな」
とある警察署内の取調室。
オレは連行される際に道中の記憶が飛んでいたらしい。
「・・・」
憔悴しきったオレの顔を見て、取り調べをしていた刑事が深く息を吐いた後、優しく微笑んだ。
「朝から何も食べていなかったな。かつ丼、食うか?」
(2,500 文字)
■今回のショートショートは以下のマガジンに収めています😌
■小説・ショートショート専門マガジンに参加中です✨️
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次回の「よしまるショートショート劇場」は、3月8日(土)よる9:00に投稿します✨️
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ここまで読んでいただきありがとうございました🍀