「普通」とは何か?資本主義社会で「世界の部品」となった私たち〜村田沙耶香『コンビニ人間』より[410]
2020年にIBDP日本語Aのチューターサポートをスタートしてから、私自身も文学作品が描くそれぞれの世界観や作者からのメッセージに魅了されています。それまで実用的な書籍しか読んでこなかった私ですが、文学の魅力に触れてから、仕事として読むこともありますが、そもそも文学作品をもっと読みたい!という気持ちになっています。
今回記録しているのは、2016年に芥川賞を受賞した村田沙耶香さんの『コンビニ人間』です。きっかけは、文学作品を読んで自分なりに感じたことや表現についての工夫などを分析してみたいと思っていてふと目に入った作品がこちらでした。
そしてこの説明を目にして、現代社会の中に生きる人のストーリーを読んでみたいと思いました。
「普通」と「普通じゃない」
本作品についての解説や紹介文などを読むと、「普通」とされる考え方や生き方などについて改めて考えさせられます。私たちが思う「普通」というのは何だろう、普通じゃないのは不幸なのか?ということについて考える機会を与えてくれます。
「大学を出たら『普通』就職する」「女性は『普通』結婚して子供を産む」などという誰が決めたのかもわからない「普通」というものが人の生き方の多様性を奪っているようにも感じました。本人はそれで良いと思っていることも、見えない境界線が引かれ、多数の人と違うだけでそのことが否定されたり、無理やり多数の人と同じようにすることを求められていく中で、自分というものが奪われていくということが作品の中で描かれています。
かつて社会学関係の書籍で読んだことですが、人間はある一定の「行動基準や指針」のようなものがないと判断できないことがあるそうで、そういった基準みたいなものが全員に当てはまらないといけないという考えに勝手に拡大しているようにも感じました。
「こうした方が良い」という規範に埋もれてしまった「本当に自分がしたいこと」を見つける大切さを改めて感じさせてくれた本作品に感謝です!
文学分析のためのヒント
文字だけの表現で、読み手にリアルな世界観を伝えられる作品は本当に素晴らしいと感じています。ドラマやアニメの良さもありますが、自分のペースで気になるところは読み返してみたり、登場人物や風景などを文字の表現を頼りに想像するところも非常に面白いです。本作品もストーリーの中に入り込めるような非常に自然体の文章で読みやすく、後半からはストーリーの展開が気になり、あっという間に読み終えてしまうという感じです。
今後授業で扱う際は、そのための表現の工夫などを詳しく生徒たちと分析してみたいです。IBDP日本語Aでなくても、継承語としての日本語の授業でも取り入れたい作品です。
ちなみに私は元々社会科の教員なので、こういったイデオロギーとの結びつきについても考えることはとても面白いです。記事で書かれているように、私たち個人が、作品で表現されている「世界の部品」「正常な部品」というのが資本主義と大きく関係しているということが分かります。
村田沙耶香さんを知るために
村田沙耶香さんの作品を読んだの初めてだったので、作品への想いや村田さんの考えを知るための記事や動画のリンクを記しておきます。