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『学習する学校 子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する』第12章リーダーシップ【372】

 リーダーシップについては、ここ数十年で大きく役割が変化してきました。トップダウン型の強いリーダーシップから、共生型の広いリーダーシップに変化する中で、管理職者や教員に求められるリーダーシップとはどのようなものなのかが第12章に書かれています。その中で、大切だと思ったことをこの記事にまとめておきたいと思います。ここでは、共に理想とする学校を作り上げるためには、管理的で孤独なリーダーシップを脱却して、安心して対話ができ共に学び合うことができるような環境を共に作るための関与をどのようにできるようにしていくのかについて、色んな例を用いて述べられています。

管理から関与へ

 産業化時代の教育では、強力なリーダーシップのもとで進めていくことが必要とされていました。つまり、リーダーである校長の決定は絶対的なもので、同様を見せることなく常に正しくあることが示され、一方向の管理を重視します。しかし、この場合は本書で述べられているような組織学習において重要である対話や学びの場は限定されることになります。そのため、これからのリーダーシップの考え方として「管理から関与へ」の移行が重要だと考えられています。

エンゲージメント(関与)

 それでは、これまでとは異なるリーダーシップを発揮するためにはどのような考えをもちどのような行動をすることが求められるのでしょうか。

 まずは、複雑な状況に対して適応することと、そういった状況下では関係する人を集め、会話をファシリテートすることが必要だと書かれています。
 『リーダーシップとは何か!』の中では、リーダーシップに関する12の問いが紹介されています。そこでは、うまくいっていかない苦痛の状態について原因や内部の矛盾について深く考えること、周囲の人々がそれについてどう見ているのか、今の状況でどのような人々に影響があるのか、など複数の視点からに視野を向けられるようにいろんな問いかけがあります。
 これらの問いで大切にされているのは、「問題について向き合い、よく考える」ということです。感情的な反応で安易な判断をしてしまうと、根本的な部分は解決されないまま残ってしまいます。そのため、これからのリーダーシップというのは、白黒はっきりさせて何かを決定することではなく、問題についてみんなが共有できる自由な議論の場をつくることになります。

 また、教育長などの立場になると色んな仕事を抱えながら意思決定を進めていく必要が出てきます。しかし、そこで現場から遠ざかってしまうとどんどん本当に学校に必要なものが見えなくなってしまいます。そこで、なるべく現場に足を運んで、現場にいる色んな人の声を聞くことは優先して取り組まなければならないということも書かれていました。それがまさに「関与」であると考えることができます。

学習を導く

 私たちの中には、権威的な形式で物事が進められることに慣れているところがあります。誰かが決めたことをうまくこなし、それを評価されるというシステムです。求められていることを理解することができ、その通りに進めることで高い評価をもらうことができます。しかし、現在では大人な管理職者中心ではなく、学習者やコミュニティに属する人々を中心として考えていく必要があります。まず私たちは、権威中心から学習者中心に視点を変えなければいけないということを理解するところからスタートしなければいけないのです。

 学習者を中心とした場合は、不確定なものがいろいろと出てきます。しかし、「確信がもてないことがあって当然で、それゆえに探求し続け、驚きに出会うことも恐れず、未知との遭遇に喜びを感じる人間であることを期待する」という考えをもつことが重要であると書かれていました。不確実だからこそ、学びが深まると考え、それを受け入れられるようになった時、また私たちは真の学習にたどりつくのかもしれません。

リーダーシップとは何か

 先述したロナルド・ハイフェッツの『リーダーシップとは何か!』という本の中には、私たちが権威主義的なものを求めがちなところから、関係者が中心となって行動をするように変化するために必要なマインドセットがいくつも紹介されています。これまでの「こうすればよい」というような処方箋的な取り組みではなく、一人ひとりが考えて対話し関わり合いながら時間をかけて変化をさせていかなければいけません。そのため、それはとても難しいことであるということが理解でき、尚且つリーダーの役割について理解できるような内容になっていると紹介されていました。
 本書の紹介文の中で、「適応を要する問題とは、態度、行動、価値観における変革を求める難しい課題」であり、「リーダーは、権威的な答えを与えることではなく、コミュニティの人々全体に対して彼らの思い込みを再考するようにするように仕向ける厳しい問いを問いかけることで、適応を要する問題に対処できる」と考え、最終的には「リーダーが、適応を要する問題を認め、それを話し合うための環境を生み出し、この問題に対して注意を集中させ、人々がこうした問題に取り組むことを助ける(なぜ人々がその問題を避けるのかという理由)」ことが大切だと書かれています。この記事で一貫して書かれている、管理的な体制から関与する仕組みを作ることの重要性がここにも現れています。

多様性を武器にできる学校に

 現代のようなグローバル化した社会を生きる中で、多様性についての理解を誤ってしまうのはよりよい発展という意味でもマイナスになってしまいます。
 本書では、「多様性はすべての人の学習に寄与する豊かな大資産」と考え、「多様性の幅が広いほど生態系は強化されていく」という観点で多様性をいかした学校システムの重要性について述べています。その方が変化への対応が柔軟に行えるからだと考えられています。そのために、学校内部だけではなくいろんな立場の人が共に集まって話せる場が必要だということなのです。

 本書では、「子どもたちが学ぶ多くのことは、教えられて学べるものではなく、生きることを通して得られる経験」だと書かれています。確かに、多様性を学ぶためには、教科書や言葉で教えて身につけるというのは難しいことです。学校や生活環境に多様性というものを経験できるかどうかで、その子が多様性というものを身につけられるかどうかは変わってきます。

神経可塑性分野の原理を理解する

 神経可塑性とは、個人の経験に応じて脳の機能や構造が変化することを示します。読解が苦手な生徒がいてもその過程でつまずいている部分を強化する刺激を与えていくことで克服できることなどが書かれています。

 このように、学校という組織においても、個々人が意識的に行動することを通して新しい神経ネットワークが形成され脳回路が変化するように、私たちも大きなシステムの中で活発に動くことで、全体に影響をもたらすことができると考えられます。ここでは、教員だけでなく学食の担当者の視点なども取り入れることで、貧困家庭の子どもへの配膳の仕組みが改善され、他の子に見つかりにくくなって、食事をとりやすくなったということで、そのため学習に集中しやすくなったという大きな効果があったことがわかっています。このように、学校という組織に関わる人たちが関与することで、総合的な環境の整備が進み、結果的に子どもたちの学力が向上する流れになるということがわかります。

応急処置から根本的な解決へ

 私たちは問題に対処する時に、よく考えずに行動を起こす場合「失敗する応急処置」をとってしまいがちです。その例として、テストの成績を競争の道具に使って、報酬と懲罰によってそのシステムに無理やり組み込ませるというのがあります。これは結果的に、短期的にはテストのスコアが上がっても、その後の留年や退学率が向上することから、根本的な部分は解決できていないことがこれまで本書で紹介されていた例からもわかります。

 根本的な解決にアプローチするためには、リーダーが「他の人と共に学ぶこと、人々のために働き、人々の事を思いやること、子どもと大人の両方にとって最善の学習環境を確保する」ように動くことが大切だと述べられています。そのためのマインドセットがこの章に限らず、本書に全般的に書かれています。
 分からないことを分からないと自覚し、「お互いの強みや経験に依存し合い、多くの方向からシステムを見」て、複眼的な視点から決定を下せるようにすることが求められています。そして、お互いが尊重し合う関係を築くためのスキル(思慮深く、生産的な対話をする)を身につける方法を学ぶことが重要です。

まとめ:クラス人数に関するヒント

 高校教員の時に、28人クラスの担任をしたことがありました。個人の状況がとても把握しやすく、懇談や生徒とのコミュニケーションもとても密にできたという記憶があります。その後、新しい学校に赴任して1クラス40人のクラスを担当しましたが、一人ひとりの情報を把握するのがとても難しかったように思います。授業においても、個人の成果物や授業中の取り組みの観察などの質も大きく異なったので、個人へのアプローチも大きく異なっていました。
 本書でも、人数について24人というマジックナンバーがあるという記述がありました。それを超えると教育が十分に与えられないと考えられています。以前読んだ『教育の効果』には、小規模学級にはあまり効果がないとされていましたが、学び方や生徒との関わりを教員がそれに適応させることで高い効果が得られるのではないでしょうか。このように、実践と研究を往復することで教員も学習者としてのスキルを高めていくことができます。

<参考文献>
・ピーター・M・センゲ他著、リヒテルズ直子訳『学習する学校 子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する』(英治出版、2014)

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