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日本語レベルの異なる子たちの「協働学習」を考える【293】

 今日はEduble学習教室の日本語クラスで行っている授業で工夫していることを記録しておきます。年齢が近くても子どもたちの日本語を扱う能力が異なるので、授業づくりは工夫が必要です。私は日本語能力の違いは個性の一つと考えて、日本語の得意不得意に関わらず、子どもたちが一緒に楽しく学べる空間づくりを大切にしています。

子どもたちの日本語力は様々

 海外生活をしている子たちは、日本語に触れる環境がそれぞれ異なります。家庭言語が日本語の場合は、会話力が十分に備わっていることが多いです。しかし、国際結婚の家庭だと英語あるいは複数の言語が家庭で使われていることがあり、日本語は父親もしくは母親に限られます。その場合、夫婦が話している言語で子どもも話そうとするので、そもそもの日本語に触れる機会はより限定的になります。

 そのため、教室のレッスンを受ける場合、必然的に日本語の能力に差が出ています。しかし、それは本人たちの能力でもなんでもなく、ただ日本語に触れる機会に差があるだけなのです。

日本語力の差に優劣をつけない配慮

 日本語レッスンを受けにくる子どもたちは、既に持っている日本語能力の差を自然と感じてしまうことになりますが、そこに日本語力の差があって当然だという姿勢をこちらが持っておくことが必要です。子どもによっては、日本語がうまく話せない子がいることがまだ理解できておらず、「なんで英語喋ってるの?ここは日本語を話すところだよ」と言ったりすることもあります。私の考えとしては、もちろん日本語が話せるようになって読み書きの力に繋げていくことが今後の目標になりますが、教室の中でその子が使える言語を禁止することは、その子のアイデンティティを一部否定することになります。そんな時は、子どもが多様性を理解する入り口として「みんなお家で話す言葉も違うし、日本語以外にも話せる言語があるから、日本語はそれぞれのペースでできるようになっていくんだよ」と伝えています。

 日本語だけで子どもを見ようとすると差があるように感じられますが、日本語が強くて英語が少し話せる子、オランダ語はたくさん話せるけれど日本語は少しだけ話せる子、オランダ語・英語と日本語に加えてもう1言語とも話す子たちをみると、トータルで見ればみんな一緒だと考えてもらうようにしています。みんなそれぞれ生まれ育った環境に適応するように言語が発達しているのです。

 私が教室のレッスンで大切にしていることの一つとして、日本語に触れる機会が少ない子たちが「居ずらい」と感じる空間を作らないことです。
 また、子どもたちは言葉が通じなくても一緒に遊ぶことが好きです。それは、高校教諭だった頃は全く気づくことはありませんでしたが、日本語のレッスンをするようになってから気づいたことでした。

 だから授業の中では、自然と日本語に触れる機会を作れるように、読み書きのレッスン以外にも、好きなもので一緒遊んだり、言語の出来不出来にあまり左右されないワークを一緒に楽しむ時間を大切にしています。「この空間では日本語を向上させなければいけない」という他者からのプレッシャーを感じることなく、「もっと日本語を話せるようになってお友達とつながりたい」と子どもの内側から動機づけが行われるように環境設定をするように心がけています。

グループワークで楽しく学ぼう!

 就学前の子たちや小学校低学年の子どもたちの日本語レッスンをするようになってから3年が経過して、教材以外にも授業のワークや学び方にも配慮できるようになってきました。もちろん子どもたちの性格や日本語能力はそれぞれ違うため、レッスンにくる子どもたちの組み合わせによって学び方は変わるので定型的なものはありませんが、いくつかのパターンを使い分けてワークに取り組むようにしています。

 今回は、プレクラスのペアワークでひらがなカードの簡単なカルタ遊びをしました。

ひらがなを50音に並べるワーク
二人で答え合わせをしながら取り組みます
並べたカードをかるた形式で取るワーク
一人の子が単語を言いながら文字カードを取ります

 ひらがなカードを一緒に並べたり、かるた遊びをする時に、日本語力が高い子が出題者側に回ってヒントを与えながら、日本語の文字があまり分からない子に問題を出していきます。出題者側は「どうやったら相手に伝わるのか」を考えつつ、出題側になるとひらがなを読める以外にヒントを与えたり、教える立場としての喜びも感じることができます。また、その子自身も最近できるようになったひらがなを復習することができ、アウトプットとしての学習で文字理解がより深まります。そして、教わる子たちも大人とやるよりお友達と遊びながら学ぶ方が楽しんで取り組んでいます。

 このように日本語力の差をうまく利用することで、学習を充実させることもできるのです。そして一緒にワークをした後は、その子と関わった経験を活かして一緒に遊んだり、その後の会話も促さずとも自然と少しずつ増えていきます。

個別スキルへの配慮も忘れずに

 ペアワークの学習の他に、個人の能力に合わせた個別のワークも行います。それはひらがな初心者の子たちと文字を書いたり、ひらがなを使った言葉を確認したり、ある程度読める子には語彙力をたくさんつけるための言葉を読むトレーニングやイラストを見てその様子を説明するトレーニング、教科書の読みができる子たちには音読や漢字の読み方の確認をします。

 ここでも面白いと思うのは、私はそれぞれのワークが終わったら遊んでても良いとしているのですが、自分のワークが終わった後も他の子たちがやっている違うレベルのワークを一生懸命見ていることです。私はこの時も彼らは日本語を見て学んでいると思います。ひらがなレベルの子が、漢字の勉強をしている子の様子を観察したり、日本語の学習が進んでいる子がまだひらがなを始めたばかりの子のところに行ってヒントをあげたりしている様子を見ていると、多様なレベルで学習をすることも子どもたちにとっては良い機会になっていると思います。

 このように、個別のレベルに合わせた日本語のスキルを伸ばしつつ、先程のような協働する力をつけるアクティビティなど、いろんな日本語の刺激を加えることを大切にしています。そして、何よりも日本というルーツを持つ子たちが、一緒に遊んだりお話しすることを、私も含めてこれからも楽しんでいきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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