心はどこへ消えた?【読書のきろく】
読みたくて地域の人に借りてから、ずいぶん経ってしまいました。ようやく読み終えたこの本は、ひとことで言うなら「心の在処(ありか)を見つけるために伴走してくれる本」。
著者は、臨床心理学者の東畑開人さん。僕が東畑さんの著書を読むのは、『居るのはつらいよ』に続く2冊目です。
今回の本は、2020年5月から2021年4月にかけて週刊誌で連載されたエッセイをまとめたもの。ちょうど、新型コロナウイルスによって僕たちの生活が激変した時期にあたります。社会の中で他人とのつながりが分断され、不安な日々を送り、そしてまた社会生活が再開していく過程で、誰もが生き方だったり大切にしたいものについて考えたと思います。
エッセイが連載されていた時のタイトルは、『心はつらいよ』だったそうです。確かに、重苦しい雰囲気が充満して、明るいニュースは少なかったですね。大きな変化に振り回されながら、個人の事情は後回しになって、みんなで何とか乗り越えなければという時期でした。
だけど、一人一人に生活があって何かを感じながら生きてきたはず。
その時、心はどうなっていたのか。
毎週書き続けられたエッセイには、著者から見た社会の様子や、カウンセリングルームでのクライアントとのやり取りが綴られており、悶々とした日々の中に確かに存在していた一人一人の物語を拾い上げています。(当然、カウンセリング中に語られたエピソードは、そのまま描写されることはなく、エッセンスをもとにした創作として書かれています)
共感してくすっと笑えたり、ちょっと切なくなったりしたのは、文章の巧みさがあるのはもちろんだけど、そこに生身の人間がいるのを感じられたからだと思います。誰かが感じたことが、カウンセリングルームで言語化されて浮かび上がり、それが文章となって読者に届いたときに僕らの心が動く。
序文の中で、「心は否定の後に現れる」と書かれています。すごく大事なことだと思ったので、引用して紹介させてもらいます。
そして終盤で、「心を見ることができるのは心だけ」と語っています。誰かと会って、その人と何らかのコミュニケーションがあり、そこで感じたことを伝え合うことで、自分の心の気づくことができるのです。
ある程度の人生経験があれば、内面的な対話で自分と向き合うことはできるでしょう。でも、それだけでは生きられない生き方をしているのが、僕たち人間なんだと思います。
本の中でもそういった場面が出てきますが、オンラインでも会議や相談ができるけどやっぱり久しぶりに対面で会うとホッとするのは、多くの人が体感したことではないでしょうか。
人と人が会うと感じる「人間」の力や、「場」の力。それらを大切にしながら「心の在処」を見つけだし、自分の心も、相手の心も大切にしたくなる。
そんな一冊でした。
おおもとのエッセイが書かれたのは、コロナ禍に突入した混乱期。
本が出版されたのは、それぞれの落ち着き方を見出せるようになってきた2021年9月。
2022年も後半になってこれからどうするかを考える時期の、今読んでもとっても面白いと思います。
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