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『まだ見ぬ科学のための科学技術コミュニケーション』(奥本素子・種村剛 著 共同文化社 2022)読書感想文

もはや私たちは科学技術なしでは生きられない。

とはいえ、科学技術との関わり方は人それぞれ違う。科学技術に対する感情や意見も人それぞれ違う。

例えば、「原子力発電は使わない方が良い?使った方が良い?」「新型コロナのワクチンは打った方が良い?打たない方が良い?」という質問への応答は人それぞれだろう。また、「科学技術って信頼できる?」「科学技術政策はどう進めたら良さそう?」といった質問への応答も人それぞれだろう。

「科学技術コミュニケーション」とは科学技術において、

意見が違う、もしくは関心の方向性が違う人びと同士のコミュニケーションの架け橋を作る

奥本素子・種村剛『まだ見ぬ科学のための科学技術コミュニケーション』共同文化社 (2022) p2

取り組みのことを指す。

本書の1章・2章では科学技術と社会の関係性、科学技術コミュニケーションの背景、求められる対話や協働などについて解説されている。3章~6章では、著者らが北海道大学科学技術コミュニケーター養成プログラムで実践してきた活動について書かれている。

取り上げられている演劇(3章)、討論劇(4章)、参加型展示(5章)、サイエンスカフェ(6章)は著者らが所属しているプログラム独自の活動であり、他の実践者にも大変参考となる内容になっている。

最終章である7章では、内容の整理だけでなく、科学技術コミュニケーションが抱える課題と可能性について議論されている。

以上のような内容構成なので、科学技術コミュニケーションの理論的背景を知りたい方も科学技術コミュニケーションの実践について知りたい方も勉強になる内容だと思う。

また、本書では全体を通して、多数の引用もされているので、科学技術コミュニケーションについて「さらに」勉強したいと思っている読者にも有益なものとなっていると感じた。

特に僕が印象に残ったことは、効果や意義がまとまりづらいという科学技術コミュニケーションの側面についても言及されていることだ。長年、科学技術コミュニケーションの教育・研究に向き合っている著者らの言葉なので、現実味があると感じた。

今後の科学技術コミュニケーションの展開について、改めて、考えさせてくれる一冊だった。

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