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短篇

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noteの企画に参加した作品をあつめました。 #シロクマ文芸部  さんは毎週お題が出るのがとっても楽しい。 ピリカさんの企画はnoterの憧れ。
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#短編小説

プレコグ #シロクマ文芸部

 読む時間だ、という声とともに、耳障りな音を立てて格子のはまったドアが開く音がした。外界と隔絶され、拘束服を着た僕にとっては、ドアの向こうからやってくるものは空気すら新鮮だった。思わず勢いよく鼻から息を吸いこむ。口輪の嫌な匂いまで一緒に吸い込んでしまったが、それでも鮮度の高い空気は良かった。  係員に両脇を抱えられ、いつもの部屋に歩かされるが、目隠しをされているのでどこなのかわからない。おそらくは地下室。  部屋に入って座らされ、厳重に扉が閉まった後で目隠しが外されると、部

縁は異なもの味なもの #シロクマ文芸部

これまでのおはなし  愛は犬棒かるたで深まっていく――。  S校文芸部部長大牧は、新学期の図書準備室で机の上に「いろはかるた」を並べていた。  「犬も歩けば棒にあたる。論より証拠。花より団子・・・」  そのとき、急に扉があいた。ちなみに準備室の扉は片側開き戸タイプのドアである。他の教室の窓つきの引き戸タイプと違うので、文芸部法度には「入室の際はノックをすること」とある。  「ああっと部長。失礼しました」  中学3年の八代大和だ。身長が伸び始めたところで制服が追い付いていな

得手に帆を揚げる #シロクマ文芸部

 文化祭のポスターを作っていたS校文芸部、鬼の副(部)長は物憂く顔をあげた。窓の外では酷暑と呼ばれた夏が未だ猛威を振るっているが、図書室と部室である図書準備室の中は快適だ。  貴重な夏休みの最後の一日を惜しみまくったのか、暑すぎて外に出る気がしなかったのか、呼びかけても部員は誰も登校せず、部長は受験前最後のデートだからとさも当然のようにディズニーシーに出かけて行った。  シーかよ――。  まあいい。自分は夏休み最後の一日まで宿題の終わらない彼女から愚痴を聞かされただけだが

ヒマワリ畑 #シロクマ文芸部

 ヒマワリへイトクラブに所属している。  その名の通り、ヒマワリを嫌いだという人の集まりだ。  まさかそんな人がいるはずがないと思っている人が多いが、本当にある。  どんな活動をするか、といえば、ヒマワリをヘイトするだけだ。  ヒマワリが嫌いだと公言するだけでよい。  しかし残念なことだが、ヒマワリを嫌う人は少ない。そして嫌いだという人を嫌う人も多い。ヒマワリは夏の風物詩だし、今は特に平和の象徴としての役割も担っている。ヒマワリを擁護する声の高らかな中で、嫌悪しているなどと

歩く教室 #シロクマ文芸部

 『TADA 歩く教室』という看板が見えた。  ネットで検索して探し当てた「歩く教室」。講師は有名なモデル、惟文華。ふーみんという愛称で知られ、YouTubeやInstagram、TikTokなどで驚くべきフォロワー数を誇っている。  モデルとしても現役で、かつてはパリコレでランウェイを歩いたこともある。女優としても活躍中だ。当然、「歩く教室」は人気が沸騰、おいそれとはレッスンを受けられない。  モデルを目指している紗綾は、抽選に何度もチャレンジしてようやくレッスンチケット

煎り豆に花が咲く #シロクマ文芸部

 文芸部長の口癖は「文芸部たるもの恋愛せよ」だ。  がしかし、部長に恋の気配は微塵もない。  S校は中高一貫の男子校で文芸部には当然男子しかいない。中高一貫男子校は進学校であることが多い。S校も例に漏れない。  中学受験前はオープンキャンパスで「S校の好きなところは?」「男子だけで楽しいところです」「S校の嫌いなところは?」「女子がいないことです!マジで!」という高校生の嘆きを耳にしながらも、説明の前半部しか耳に残らない謎の小学生男子理論で「女子なんていないほうがいい。男子校

Son alibi

 小学校のころ、僕たちの教室には机がひとつ多かった。  学年のどの教室にもその机があった。その机があることで、グループ分けをすると2人のグループが18、3人のグループが12、4人のグループが9、6人のグループが6個できた。  僕たちはそのころ、約数とか素因数分解なんて全く知らなかったけれど、その机があると便利だなと思っていた。実際の人数は、ひとり余ったり足りなかったりでどこかの班に合流するのだけれど、僕たちはいつもその机に座るはずだった子は普段はいなくても仲間だと思っていた

昨日の私

 消えた鍵を探している、今まさに。  最近の犯罪は巧妙だという。スマホで鍵を撮影して合鍵を作った同僚が一人暮らしの女性の部屋に侵入した事件のニュースを見たばかりだ。スマホを無くしただけなのにという映画も頭をよぎる。背中がぞわりとして嫌な想像ばかりしてしまう。  確かに酔っていた。酔っていたが一次会の会計時にはあった。  にやにや笑いながらスマホを探した時にバッグの中で指に触れたのだから間違いない。それになにより今自分が部屋にいるのだから、鍵がない理由が全く分からない。スペア

神隠し #シロクマ文芸部

 銀河売りだよ銀河売り銀河はいらんかね。  店先で棒手振が声を張り上げたんでございます。へぇ、なんとも奇天烈な棒手振りでして、担いだ天秤棒なんか荷が入ってねぇんじゃねぇか、ってくらいに軽そうに右に左に揺れてるんで。身なりもそんじょそこらじゃ見ねぇ面妖な形だ。あっしはすぐに見抜いたんだ、こいつは怪しいもんにちげぇねぇ、御用だお縄だッてんですぐに番頭さんに言って番頭さんが小僧に親分さんを呼びに行かせたんで。はあ。あっしは職人でございやす。へぇ、そこの伊勢屋の三軒ばかり隣の小間物問