『伊豆の舞妓』:ピリカ文庫/創作大賞
目に見えぬはずの歪みを闇に感じる程の生ぬるい風を受けながら、私は旅宿の二階部屋にて窓の格子に寄りかかり目を凝らしていた。時折聞こえる蛙の声が薄暗い部屋にこだまする。時刻は後小一時間ほどで午前零時を回る。傾く朧月に目を配り、浴衣を鼓動で揺らす。何処までも続く闇の中にほんのりと菖蒲の彩が浮かび上がると、カラカラと鳴り響いていた蛙の声が一瞬にして消えた。私は息を殺し、ごくりと咽を鳴らす。次第に大きくなる彩が旅館を灯す電燈に照らされ、初めて和傘の形がくっきりと闇に咲く。その刹那、傘の