農家の息子のささやかな贅沢
「つむ、そろそろ赤くなってきたから、いいもの採りにいこうか?」
「いいもの?いく!」
お気に入りの黄色い長靴を履き、裏玄関から出る。ぼくと手をつなぎ、とことことビニールハウスへ。ブロッコリーやさつまいもの育苗をしているビニールハウス、その奥にいいものが育ってきている。
「ほら、見て、いちごだよ」
「わぁ、いちご!」
昨年、適当に植えたいちごはひと冬越えて、少しだけ生息圏を広げ元気に育っていた。いちごはけっこう強い植物なのだ。
茂みの前に座り込むつむぎ、草の根元を覗き込む。
「あったぁ!」
手を伸ばし、ぷちっぷちっといちごを収穫。宝物を手に入れ目が線になるほどのとびきりの笑顔でピース。
落とさないように、大事に大事に家まで運び、洗ったいちごのヘタを取る。
「だでぃとママもたべていいよー」
ぼくらにも分けてくれて、家族3人で採りたてのいちご。つむぎは最近、美味しいものこそ一緒に食べたいと思うようになったようだ。
これからしばらく、ビニールハウスの奥で真っ赤な宝物が採れるはず。農家の息子のささやかな贅沢がはじまった。
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