今は飲食業界にいないけど「いつか自分の飲食店を開きたい!」と思っている方へ【2024年版】
過去バズった記事の2024年版です。
2年経って経験したことを踏まえた実用的な内容にアップデートしています。
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こんにちは、吉田柾長です。
私はこれまで主に飲食業界でキャリアを積んできました。
独立後は生き残るために「飲食店といえば吉田」という第一想起を獲得するため手を尽くし、それなりにメディア掲載もされ、たくさんの「飲食店を開きたい」という相談をいただいてきました。
その動機は「収入を上げるため」ではなく、「楽しい人生を送るため」といった自己実現的なインサイトが大半です。
コロナ禍前後で市場に大きな変化があっても出店希望者は減る気配がありませんでした。
「人間が幸せを求めるような、普遍的な欲求によるもの…?」と考えるに至ります。
そこで2年前にnoteを書いたところ、SNSで大変拡散されまして、知人以外からの本格的な相談も受けることになっていきます。
しかし、実はこの記事はサクッと書いて勢いで公開したものでした。
拡散が始まったタイミングでは怖かったです…。
少々心残りがあり、ちゃんとした内容にアップデートして2024年版として公開し直したいと思います。
ちなみに私への相談では、約90%の方に対して「やめた方が良いと思う」という結論に至りました。
それでもやりたい方は全力で応援して情報提供も惜しみませんが、基本スタンスとしては未経験の出店はネガティブなフィードバックになることが多いです。
その上で、オススメしてきた通常出店以外の選択肢を「②出店希望者に提案したい3つの選択肢」にまとめています。
では本編
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①出店希望者が絶えない理由は飲食店の4特性
「いつか自分の飲食店を開きたい!」と思っている方にも本気度や進捗、動機は様々です。
ただ何度も相談に乗る中で、いくつかの共通点を発見しました。
今回は共通点を生み出す原因に着目して解説します。
◆飲食店の “多様性” と “実現性” が出店者希望者を量産する
そもそも世の中にはこんなにもたくさんのビジネスに溢れていて、しかも飲食店は大変というイメージを持っているにもかかわらず、多くの方が「いつか自分の飲食店を開きたい!」と出店を志します。
その動機は千差万別です。
それでも飲食店の業態×体験価値×規模×エリアは多様で、この多様性により理想的な店舗像をイメージしやすくなるわけです。
そして「出店したい」需要があれば「出店を助ける」供給が起こります。
そして何より、背中を押してくれる“自称プロ”が世の中に溢れています。
特に着目すべきは、出店済み店舗が収益に困ると出店希望者のコンサルに走ることです。
そういった店舗は「たくさん稼げて充実している楽しい今」を発信していて、案件化する目的で出店させる方向に持っていきます。
私に相談が来る時点それなりに出店準備が進んでいる方は、口を揃えて「実際に店舗を成功させた人にサポートしてもらっている」と言います。
これからの時代の飲食店マネジメント協会会員の方々など、支援事業で生計を立てているプロであれば良いのですが、未経験から1店舗出店しただけの方がコンサルをやっているケースも散見されます。
生き残るために必死だから、コンサル案件を狙うしかないのです。
この話は根深いですが、本題とずれていくので今回は割愛。
言えないことも多いので直接聞いてもらえると。
◆”不確定性“が低解像度の表面的な収支計画を生み出す
※このポイントは特に重要なので厚めに書きます
飲食店は誰の日常にも身近にあって、誰しもそれなりに高い顧客解像度を持っています。
そして自己実現的な出店希望者は、ペルソナが自分であることが非常に多いです。
そうなると業態やエリア、価格帯、体験価値など検討すべき諸々の要素がスムーズに決まっていきます。
「自分がお客様なら、こうあってほしいと思う」という圧倒的な軸があるため、定めたターゲットに対して設定したベネフィットを大外しするケースはむしろ見たことがありません。
しかしここで問題なのは収支計画に対する解像度の低さです。
下記は実際にあった相談です。
物件の契約も終わって出店直前に「ちょっと不安な点があるので見てほしい」と連絡をもらいました。
これは本当によくあるケースです。
業界未経験者が出店する場合の売上もこんな水準で、むしろ売上目標感を下方修正せずに済んだ相談ではありました。
ただ費用面は壊滅的。
多くの方が一般的な飲食店の原価構造を参考に計画立案します。
コンセプトや体験価値は緻密に検討されていても、「飲食店は大体こうなんでしょ」という外部の情報を頼りにした意思決定がされるわけです。
ダメなんだけど、正直これは仕方ない。
そもそも未経験者が費用をイメージするのは至難の業です。
物件や工事、人材確保やリリースなど、後戻りできない状況になってから費用が判明していくことになります。
もう少し費目の解像度を挙げて、計画段階から細かく試算しておくべきです。
次に、仕方ないと言えない大きな問題として、コストの大半を売上に対する割合で試算していること。
費目によっては変動費の変動範囲が限定的で、売上水準が低ければ実質固定費になるようなパターンの計画も立てておくべきです。
月間売上が想定より低いことがわかっても、ピーク帯が偏っている場合は瞬間最大風速に耐えられる一定のリソース(食材費や人件費)を事前に用意しておく必要があるかもしれません。
手取り金額だって生きるために必要な水準以下にはできないし、雑費に含まれる諸々の利用料金は年間契約ですぐに変動できない。
もちろん店舗規模の近い同業態の情報がある場合、コストに詳しいアドバイザーがいる場合など、計画段階でも細かく設定できていることはあります。
しかし、プロでも難しいのが売上の想定です。
FCなどで同業態&同商品&類似エリア(=類似ターゲット)の情報がある場合は大きく外れませんが、多くの出店希望者が「好きな場所で好きなテーマのお店をやりたい」ので、参考情報が非常に乏しくなります。
そもそも、飲食業界はアナログな側面が多く、諸変数が定量化されていないブラックボックスの状態です。
参考情報が豊富なチェーンやFCでなければ、プロでも経験に基づいた感覚に頼る出店ばかりです。
市場調査である程度の精度まで上げられますが、有名なコンサル会社でも出店経験豊富なプロでも数字を外す話はよく聞きます。
未経験者が新しい形態にチャレンジする上では、なおさら博打のような出店になります。
そうなると、数字の精度を高められないので、売上は費用を元に数字合わせされることになります。
「費用は〜円くらいなので、売上は◯◯円に設定」
「費用は〜%くらいなので、利益を××円にするため売上目標は◯◯円に設定」
数字遊びみたいなシミュレーションになってしまい、多少の不安要素はあっても一旦「努力目標」としての売上計画が立てられてしまいます。
そして、どんな背景、どんな精度でも数字が立ってしまうと「やるしかない」「これを実現する」という覚悟が生まれ、ハリボテ収支計画でも見直されない(見直せない)事態に陥ります。
じゃあどうすれば良いか、という点については「②出店希望者に提案したい3つの選択肢」間借り出店して収支を検証することを推奨します。
一般的な新規事業でも調査だけではなく検証の工程があります。
同じように出店でも検証の工程を踏んで慎重に進めるべきです。
後述します。
◆自己実現を叶える “熱狂性” が不確定要素を無視させる
これは解説せずとも伝わるのではないでしょうか。
前述の収支計画に対する不安要素は、実はご自身で理解されていることがほとんどでした。
プロも含めて皆さん確信があるわけではない。
でもなぜその状態で出店が起こり続けるかというと自分のお店を持つことが自己実現につながるからです。
「リスクがあっても好きなことに挑戦したい」
「生きるためにお金を稼ぐ人生はもう嫌だ」
「残りの人生は自分のために使いたい」
「好きなことをして生きないと幸せになれない」
至極真っ当だと思います。
私も同じモチベーションで独立したし、今後もそんな時間の使い方をしたい。
ただし、自己実現につながるためのお店が悲惨な結果になる展開を何度も見てきました。
そうならないために、出店に踏み切る前にできることがあります。
ここからは具体的な選択肢について解説していきたいと思います。
②出店希望者に提案したい3つの選択肢
ここまで業界未経験者の出店についてネガティブな側面を中心にお伝えしてきました。
ただ、私は飲食店が大好きで、自己実現のために飲食業に挑戦する方も大好きです。
だからこそ、改めてご自身のインサイトを捉え、「本当に自分は飲食店をやりたいのか?」「自分のお店を持つ以外に選択肢はないのか?」を一緒に考え、検証していければと思っています。
そこで、通常の出店とは違う3つの選択肢を提案させてください。
◆1日店長Barの活用
1日店長Barというスペースに、自分が1日店長として立つ方法です。
※調べたらいくらでも出てくるので実例は紹介しません
最もライトな方法で、とにかくリスクが低いことが特徴。
また、Barとは言っても、テーマは多様です。
多様なテーマで開催できるため、多様な出店ニーズにフィットします。
そのため、1日店長Barの活用だけで自己実現を達成している方も数多く見受けられます。
自分のやりたいことを実現するために、店舗を持つ必要はないかもしれません。
週1回だけ自分が好きなテーマでカウンターに立って、お客様に体験価値を提供できれば幸せかもしれない。
(余談ですが)
1日店長Bar経営側の観点として、収益が非常に低いです。
利益率は悪くありませんが、店長を集め続ける工数が大きく、店長によって集客はブレ続け、店長たちが別の1日店長Barに乗り換える流出が起こり、特別な技術や設備がいらないので参入障壁も非常に低い。
それでも数えきれないほど1日店長Barがある理由は、それこそ自己実現です。
そのため、自己実現を目的に飲食店を持ちたい方にとっては1日店長Barは非常に相性が良いフィールドと言えます。
同じような志を持つ良い仲間を見つける場所にもなります。
(さらに余談ですが)
特にテーマがなく、漠然とお店に立ちたい(でもどこかの店舗のアルバイトは違う)、また集客に自信がない方は、ゴールデン街店舗のお手伝いをオススメします。
ゴールデン街の店舗のSNSを見ると「今日は伊藤さんが立ちます」みたいな常連しか理解し得ない情報が掲載されているなど、店舗で生まれたコミュニティ内で集客が成り立っているケースもよくあります。
そして、常連がスタッフ側に回ってカウンターに立つパターンも頻繁にあるくらい曖昧な運営、全体的にゆるい。
そしてこのコミュニティは相手の素性を知らなくても成り立つこともあり、サードプレイスとして超優秀です。
仲は良いけど連絡先も名前も知らないってことがザラにある世界。
ローカル個人店でもこの現象はよく起きますが、再現性が高いのはゴールデン街の店舗です。
興味がある方は行ってみてください。
◆シェアスペースや既存店舗の間借り
次に、多少のリスクはあれど1日店長Barより裁量が大きく、出店に対する解像度が上がる点で間借りもオススメです。
1日店長Barはあくまで「1日店長Barとしての運営内」に留まりますが、間借りは店舗自体に自分の屋号を使えることも特徴です。
場合によっては店舗の看板をその日だけ替えたり、Google Map上に事業者情報を登録することも許されます。
・屋号:吉田食堂
・住所:東京都新宿区××-××-×× シェアスペース◯◯内
・営業日:土~日/19:00~23:00
のように、不動産の賃貸借契約を締結せず、シェアスペースや既存店舗を借りるスタイルです。
自分のお店を持つ前に、店舗運営の解像度が高まる大きなメリットがあります。
見えていなかった費目が見えるかもしれない。
そして何より、前述の不確定性を潰す検証の工程として機能することも魅力的です。
次に、実現に向けたアクションについて。
前提として、間借りは不動産契約者(借主)と施設利用契約を締結する方法が主です。
(賃貸借契約のパターンもあるが割愛)
間借りするスペースを探す方法は、マッチングサイトでの検索と、特定の店舗に対して定休日の活用を相談する2つが主です。
まずは後者への挑戦をオススメします。
飲食店(不動産契約者)としては定休日も賃料が発生しているので、「使ってもらえると助かる」と思ってもらえる可能性があり、間借り出店希望者にとって比較的良い条件に交渉可能です。
飲食店側に間借り募集経験がないと、金額の水準が設定されておらず、言い値で合意形成できることもあります。
関係性が築けていると無償で貸してもらえることも実際にあります。
とはいえ公開されていない店舗の間借りはハードルが上がるので、スピード重視、実現性重視で短期の間借りをする場合はマッチングサイトで施設・店舗を検索する方法が手っ取り早いです。
出店に対する解像度を高めるための手段ととしてぜひご検討ください。
◆運営が厳しくなった店舗を一任してもらう
間借りのワンランク上のイメージです。
この方法は出店とほぼ同義でありながら、初期コストや運営コストを抑え安く、過去のデータも細かく見れる理想的な諸条件になり得ることが最大の魅力です。
これを裏でやっている事業者は、実は意外といます。
説明が必要だと思うので細かく解説します。
実際にあった事例の紹介です。
「私はもう還暦を過ぎて営業する体力がないから、この場所を好きにして」という不動産契約者、「自分のお店をいつか持ちたかった、好きにやらせてください」という出店希望者の会話がされたイメージです。
店舗再開発も店舗運営も、全てを任せています。
実態として、出店希望者に裁量権があります。
不動産契約者の家賃は発生し続けるので、同額を出店者が負担することになります。
ただし必要な設備は揃っていて初期費用が非常に少なく、過去のデータも細かく見れるので収支の解像度が高い状態で店舗を始められます。
・屋号:吉田食堂
・住所:東京都新宿区××-××-××
・営業日:月~日/19:00~23:00
みたいな公開のされ方です。
いつ行っても同じ店舗が運営されているので、周りから見たら不動産を借りて出店している普通の飲食店に見えます。
ただ、そのまま進めると不動産契約的にはアウトです。
不動産契約者が店舗経営に介入せず、別の事業者に貸しているわけなので、不動産契約で基本的に禁止される“転貸”にあたる可能性が高い。
不動産オーナーや不動産関連会社にとっては「貸したつもりのない知らない人が運営している」状態になっているわけです。
そこで、不動産契約者と出店希望者のやりたいことを合法的に実現するための方法として、運営代行や共同出店があります。
(専門的な調整事項が多いので割愛します)
ただ、出店者にとっては理想的な方法ですが、まずは運営に困っている事業者や、不動産所有者とのコネクションがないと始まりません。
間借りしていく中で店舗所有者と関係を築いて行ったり、業界の交流会に顔を出したり、困っていそうな方を探してコンタクトを取るなどのアクションを焦らずゆっくりやることをオススメします。
ちなみに、個人店主の高齢化が全国的に進んでいるため、事例で紹介した「私はもう還暦を過ぎて営業する体力がないから、この場所を好きにして」という誰かに店舗を任せたいニーズは今後さらに増えていくことが予想されます。
長く経営していて今更撤退したくなかったり、
撤退コスト(50万円~300万円くらい)を負担する余裕がなかったり、
持ち家の1階で開業しており扱いに困っていたり…
様々なケースが想定されます。
1日店長Barの活用や間借りほど簡単ではありませんが、不可能な方法ではないです。
以上が、今は飲食業界にいないけど「いつか自分の飲食店を開きたい!」と思っている方へ、伝えたいことになります。
8,000字以上になってしまいました。
ここまで読んでいただいた方、ありがとうございます。
不明点やコメントがあればぜひDMいただきたいです😊