自分らしく生きるためのセルフコミュニケーション分析と改善のヒント#13「脳内の翻訳アプリの設定チェックと変更のヒント」
これまでの人生、周りに振り回されてばかりの「他人軸」のしんどい毎日を送っていたとしても、心の中の自己対話(セルフコミュニケーション)を見直すことで自分軸に軌道修正できるということをコンセプトに、シリーズでお届けする記事の13回目です。
わたしたちは誰かの言葉に深く傷つくことがあります。
言葉は切れ味鋭いナイフでもないし、ましてや心という物体が物理的に切りつけられたわけでもないはず。でも確かに切り付けられたかのような強い痛みを「実感」として感じる。
どうしてこんなことが起きるのでしょうか?
逆のケースもあります。
不安でしかたがなかったのに、誰かのひとことで勇気が湧き上がってくる。
これも果たして「言葉そのもの」によって勇気が湧いたのでしょうか?
たしかに「言葉」が心に対してプラスにせよマイナスせよ作用したことは感覚的には間違いないのですが、「言葉そのもの」に果たしてそんな魔法のような作用があるのでしょうか?
万葉集には
という柿本人麻呂の歌があります。
意味としては「大和の国は言葉に霊力がひそんでいる。言葉の魂が人を助ける国である。祈れば必ず無事に帰ってくることができる」というもの。
古来から信じられてきたいわゆる「言霊(言葉のもつ不思議な力)」が歌われているもので、自己啓発的な文脈でも「言葉を変えれば現実が変わる」とはよく言われる話です。
でもそれって本当に「言葉そのものの力」なのでしょうか?
言葉そのものに「霊力」みたいなものがあって、それが人の心や物理世界に作用しているのでしょうか?
今回は「翻訳力」をテーマに、心の中の自己対話(セルフコミュニケーション)を自分軸に軌道修正するヒントをお話します。
「言葉そのもの」よりも影響を与えるもの
仕事でミスをして、それを上司に報告したら「馬鹿野郎! こんなこともちゃんとできないのか! やる気あるのか!」と怒鳴られたという状況について、2つの異なったケースで考えてみたいと思います。
<ケース1>
普段からあなたのことをとても可愛がってくれている上司。かつ、あなたの尊敬している上司の場合。
このケースの場合、上司から発せられた「言葉そのもの」については厳しいと受け止めたとしても、「いつも可愛がってくれている上司がこんなに怒るくらい迷惑をかけてしまった。でもそれだけ自分に期待してくれているということなんだよな。よし! 次は頑張るぞ!」みたいに前向きに捉えるのではないでしょうか?
<ケース2>
普段からあなたに刺々しい態度で接してくる上司。かつ、上司のくせに無能だとあなたがこっそり馬鹿にしている人。
こちらのケースの場合は、一転して「馬鹿野郎だって!? パワハラだ!」と激怒したり、あるいは普段から無能な上司と馬鹿にしていた相手から罵倒されたことが悲しくて落ち込んでしまうのではないでしょうか?
どうして発せられた言葉は一緒なのに180度違う反応になるのでしょうか?
先ほどの2つのケースについてコンテクスト(状況・背景)を分解してみましょう。
こうしたコンテクストが「翻訳アプリ」として機能した結果、たとえ馬鹿野郎といった言葉を言われたとしても、それによって傷つくのではなく、むしろ「頑張るぞ!」と前向きな気持ちになったのではないでしょうか。
こうしたコンテクストが「翻訳アプリ」として機能した結果、「ハラスメントだ!!」と怒りを覚えたり、あるいは落ち込んだりしたのではないでしょうか。
つまり、勇気づけされたり傷ついたり怒ったりするは、相手が発した「言葉そのもの」というよりも、言葉が発せられたときの「コンテクスト」と、「翻訳アプリ」次第ではないかということです。
傷つくのも傷つかないのも「翻訳アプリ」次第
誤解のないようにしたいのですが、なにも受け手の問題なのだから、ひどいことを言った発言者には非はないということを言いたいのではありません。
人を侮辱したり傷つけるような発言がNGなのは言うまでもないことです。
ここで考えたいのは、わたしたちは言葉そのもの以上に、言葉が発せられたときのコンテクストと翻訳アプリから影響を受けているということ。
だとするなら、それは「自分の中で起きている事象」であり、セルフコントロールが可能だということです。
そもそもわたしたちは「言葉の意味」を理解していなければ、誰かと話すこと会話することができません。
「相手の言っていることがわかる」とは、相手が発した言葉そのものを理解できたというよりも、その言葉の「意味するところ」「意図するところ」を自分なりに理解できた、翻訳できたということ。
一方、言っていることがわからないとは、単語そのものを知らないということもあるかもしれませんが、発せられた言葉にどんな意味や意図を持っているのかが自分なりには理解できない、翻訳できないということかと思います。
つまり、傷つくのも傷つかないのも、ひとえに「翻訳力次第」ということです。
実際、相手から発せられるのはほとんどの場合「言葉だけ」であって、コンテクストや「言葉の意味や意図」までは発せられていません。
発せられた言葉をどのように受け取るかは、あくまでも受け取る側の意味づけ(脳内フィルター)であり翻訳力の問題なんです。
人生の意味がわからなくなってやる気がでないという言葉を翻訳する
先日、数十年来の友人(仮にAさんとします)から「人生の意味がわからなくなってやる気がでない」と相談されました。
まずはその経緯をお話しします。
実はAさんが長年勤めていた会社の社長が、秋口になって会社をたたむことになったのです。
というのも社長さんが高齢で病気がちになり、かといって後継者もおらず、また事業を譲渡する先もなかったそうで結果的に事業精算を決断したそうなんです。
それに伴ってAさんも急きょ無職になります。
会社都合なので失業手当などの支給もしっかり貰えて、生活面では当面はさほど問題はなかったのですが、とはいえ求人の多くない地方都市に住んでいるAさんは積極的にハローワークに通って仕事を探します。
でも希望する仕事がなかなか仕事が見つからない。
たとえ見つかったとしても、実際に行ってみると面接の話とは全く違うブラック状態みたいな。。。
そんな状態にほとほと嫌気が差したのか、先ほどの言葉が口からでたという経緯があります。
さて、もしもあなたなら先ほどのような「人生の意味がわからなくなってやる気がでない」と言われたら、あなたならどう翻訳するでしょうか?
・・・Thinking Time・・・
「人生の意味がわからなくなってやる気がでない」という言葉を文字とおりに受け取れば、気持ちがとても混乱していて自暴自棄になっているみたいに解釈(翻訳)する感じでしょうか?
僕がAさんと初対面だったらそう解釈したと思います。
でも、僕とAさんとは数十年来の友人です。
僕の中には普段のAさんの人物像、Aさんが置かれている状況など、Aさんに関するコンテクストが大量にありました。
普段のAさんは、新しいものにいつもアンテナを張るだけでなく、それに食いつき吸収するために行動を起こすバイタリティがあって、とても柔軟性の高い人です。
なので、Aさんの発言を聞いたとき、多少混乱しているのかなとは思いましたが、自暴自棄になっているとか、愚痴っぽくなっているとは鼻っから受け取リませんでした。
Aさんの発言を受けて、僕がどう翻訳したかというと「自分の居場所がなくて寂しい」という訴えです。
そこで「寂しいの?」と聞いても良かったのですが、それではただ傷を舐めてあげるだけで発展性がないなと思い、僕が彼に言ったのは「前の会社に勤めていたときは人生にどんな意味を持っていたの?」という質問。
この質問の意図するところは、やる気があった時の気持ちを思い返してもらいたいというのもあるし、やる気の源泉(価値基準)をはっきり認識して欲しいというもの。
Aさんは首を前後に揺らしタバコを吸いながらしばらく無言で考えてました。
タバコを3口くらい吸った後、「だよね~」と煙を吐き出しつつ吹っ切れたように笑ってこんなことを言いました。
AさんはAさんのフィルターを通して、僕が発した質問の意図をプラスの意味で翻訳したわけです。
わたしたちは言葉ひとつで心が痛んだり喜んだり、感動したり悲しくなったりします。
でもそれは「言葉そのもの」が影響したものではなく、その言葉を自分のフィルターを通して翻訳したものが影響したわけで、とどのつまり相手の問題ではなく「自分でいかようにでもコントロールできる問題」なんです。
(しつこいですが、人を侮辱したり傷つけるような発言がNGなのは言うまでもないことです)
そういう意味でいうと、なにかとイライラしやすい人は、発せられた言葉を「自己否定」に翻訳し、なにかと落ち込みやすい人は相手の発言を「自己嫌悪」に即時変換するアプリで翻訳してるからかもしれません。
脳内の翻訳アプリをチェックする
自分の翻訳アプリの状態をチェックするにはABC理論の考え方が役立ちます。
ABC理論とはActivating events(出来事)、Belief(信念や考え方≒認知)、Consequences(感情や行動)の頭文字をとった言葉で、超訳すれば、
出来事(A)が直接的に感情や行動(C)を引き起こすのではなく、どう認知したか(B)によって感情や行動(C)が変わるという理論です。
たとえば翻訳アプリのデフォルト設定に、
こうした自己否定・自己批判的な認知設定がなされていた場合、体験する出来事(A)を反射的に自分を責める方に、責める方に受け止めてしまうため、結果として感情や行動(C)も自己否定的なものになるはずです。
このようにABCで分解してみると、自身の翻訳フィルターの設定に気付きやすくなります。
脳内翻訳アプリの設定を自由にカスタマイズする
翻訳アプリは一種の『認知バイアス』として機能します。そのため、アプリがネガティブ側に偏っていると体験した出来事そのものも自動的にネガティブ側に歪めてしまいます。
翻訳アプリの設定変更のやり方は、先ほどのABC理論に、認知への反論(Disputing)、新しい信念(Effective New Belief)の頭文字を付け加えたABCDE理論が役立ちます。
先ほどの例で考えてみましょう。
ABC理論に限らず、セルフコミュニケーション(内部対話)を自己分析する際には、できるだけノートに書くなどして「見える化」しながら取り組むとやりやすいと思います。
ということで、今回はわたしたちが言葉によって傷つけられたと感じるとき、それは言葉そのもの以上に、コンテクストと翻訳力によるところが大きいということ。
そして翻訳アプリの設定確認と設定変更のやり方についてお話ししました。
今回の記事が少しでも自己対話(セルフコミュニケーション)を見直すことのヒントに役立てば嬉しいです。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。