文芸ムックあたらよ創刊号を読んでいます(※読了!)
タイトル通り、まだ読んでいる途中です。
ついに読み終わりました!
あたらよ文学賞に興味があり、備忘録も兼ねて感想をまとめていきたいと思います。
読んだ順は気まぐれです。敬称略です。
第一回あたらよ文学賞受賞作
うきうきキノコ帝国/マルクス・ホセ・アウレリャノ・シノケス
前半の世界観の説明の長さは、田中芳樹先生の「銀河英雄伝説」を彷彿とさせる。SFは読んだ数が少なくて、「SFってこういうものなのかな……?」という気持ちになる。(たぶん違う。)
ただこの世界観が徹底的に説明されてるからこそ、後半の人間ドラマが活きてくる印象。シロを手にかけることとアカを生け捕りにすることの罪の重さとしての天秤感はこの説明がないとわからない。
登場人物のネジの外れ度合いがみんな違うことが巧みに書かれていて、短編なのに深みがある。
こはねに勝てないなら死ぬ/岩月すみか
王道ストーリーですっと読めた。主人公が嫉妬していたナンバーワンキャバ嬢が、実は主人公に嫉妬していて……という話。隣の芝生は青く見える、でも本当に青いとは限らない、という。
幼馴染の結婚詐欺師というパワーワード。でもこの結婚詐欺師のキャラは嫌いじゃない。というか登場人物の中でもいちばん好き。楽観的な諦めが滲み出ている。
ツー・ミッドナイト・ノブレス/蛙鳴未明
もしこれが大賞になっていたら、たぶん次年度のあたらよ文学賞は応募数グッと減って荒れに荒れたと思う。これが大賞だったら、わたしはたぶん応募しない。できない。それくらい個性爆発作品。
展開もさることながら、表現もキラリと光る。
わたしが好きだったのは「こと座を鳴らしたような神秘的な声」。「琴を鳴らしたような」じゃなく、「こと座」。琴は楽器の響きになるけど、こと座を鳴らすだけで宇宙空間に響き渡るような、壮大な神秘性が感じられるようになる。
椿桃、永遠に/伊藤なむあひ
読み始めて「腸……?」と思い、読み終えて「腸……」と考え込んだ作品。あとで選考会のコメントを読ませてもらってはじめて「脳腸相関」という言葉を知った。知らないことはたくさんあるなぁ。
個人的には椿桃の真摯な姿勢に好感をもった。応援したくなるというか「いい子だなぁ……」と頭を撫でたくなるというか。カルト的、宗教的な背景があることから、その真摯さに物悲しささえおぼえる。
だから突飛なテーマ・設定ながら、最後まで読めたんだと思う。
私たちの月の家/咲川音
完成度激高作品。描写が鬼気迫っていて、思春期特有の息苦しさが伝わってくる。
個人としてはこの良くも悪くもなっていない状況で終わるエンドは嫌いじゃない。これからどちらに転がっていくんだろう……と余韻が残るから。
選考会の「ライト文芸にしては重く、一般文芸にしては軽い」というコメントが印象に残る。振り切ったほうがいいのはわかりつつ、私は好きなラインなので、これは好き嫌いわかれる作品なんだろうなぁと思った。
月が落ちてくる。/辻内みさと
これ好きだなぁ〜。どんでん返しからのどんでん返し。描写も雰囲気も仄暗くて、腕を掴まれて引きずられるように世界観に引き込まれた。
オチも好き。主人公が結局義兄を殺すことでしかこの状況を変えられなくて、それが悪いことだった、ということと解釈。モチーフ的に「月が落ちてくる。」という言葉が使われていて、背筋がヒュッとなる感覚が何度も訪れました。のめりこみながら読めました。
これが佳作かぁ。レベル高い!
神と夜明け/山川陽実子
こういうの好きだわぁ……。独自の世界観を淡々とした筆致で書ききる感じ。わたしも結構(自己認識的には)同じような小説を書くタイプなので、するりと馴染んで最後まで読みきれた。
この現代との感覚の違いが当たり前のように書かれているのが好き。殺人や性交に対する価値観や認識が違うということが文体によってより際立つ印象。しかし、選考委員の方々はこの点に物足りなさを感じていたようで、なるほどなあ〜と勉強になりました。
まゆどじょう/佐藤龍一クライマー
リズムが良くて何も違和感を抱く瞬間なく読み終えられた。妖しげな青年に対してえも言われぬ想いを抱く主婦の心がリアルに描かれていて、「まゆどじょう」という突飛な謎の生き物にも説得力が出ていると感じた。
話とかモチーフ的なところは大好物!
猫が飛んだ夜/右城穂薫
丁寧に情景が描写されていて、文章の端々に物悲しさが感じられる作品。最初、主人公の一人称が「私」だったので女の子かな? と思っていたら男子で、そこだけ「ん?」と違和感を抱きました。最後まで読めばわかるんですけどね!
終わりの一文が好き……!
夜が冷たく忍びよる/えきすときお
「夜」というテーマに真っ向から取り組んだ作品。文体(特に漢字のひらきかた)が印象的。この文体によって独特な童話的な雰囲気も醸し出されるが、選考委員の指摘のとおり若干の読みにくさ(読んでいて止まってしまうタイミングがある)もあり。この良い塩梅を探すって難しい!
内容は二部構成のようになっていて、わたしは前半だけで終わっても好きだったな〜。これは好みによると思います!
書評
夜に読みたい三冊/永田希
全部知らない本ばかりだった! 特に二冊目に紹介された本が読みたい。
書評って今まで書いたことがないのですが、「こうやって書くのか……」と勉強になりました。
短歌
光源/岡本真帆
夜のコメダで原稿を書いて、家に帰って消灯するまでの歌。
ネオンが光る雑然とした夜の街が思い浮かびました。
ナイト・バーズ/伊波真人
この歌好きだな〜。夜に独りでいる物悲しさみたいなものが感じられる。
コーヒーゼリーってちょっと夜っぽい感じしますよね。
夜を駆けない/中靏水雲
タイトルからもわかるとおり、今の時勢をとらえた歌を詠まれる方だなあと思いました。
LINEの歌、「ああ、あるなあ……」と激しく頷いてしまった。
さっきまでの話/初谷むい
私は短歌というと五七五七七のリズムで詠んでしまうタイプなので、こういう自分のリズムで自由に詠める方に憧れる。
きらきら、ちょっと切ない歌たちのように感じました。
四季の歌/青松輝
夏がきて、秋がきて、長い冬を乗り越えて……という歌。
読んでいるだけで春が待ち遠しくなる歌だった。歌の数でもそれを演出してくることに素晴らしさを感じた。
創作
現の夜、夢の朝/梧桐彰
す、好きぃ……! (告白)
祖父の想いを継いで新しい世界に行く青年を淡々と描いた作品。
設定がいい!公転と自転が同周期なら昼と夜はずーっと変わらないですもんね。そのほかの細かな設定描写も淡々としていて、盛りだくさんなんだけどスッと読める。簡単なようでしっかりファンタジー。
とろけたクリーム/綾坂キョウ
教師の母の死と向き合う息子の話。
息子の母に抱く複雑な気持ちがしずかに描かれている。さっぱりした息子さんなんだけど、胸に秘めている想いがいろいろと入り混じっているのがよく伝わってくる。でもそれを想い出として片付けてしまうのではなく、まだまだ向き合っていくんだろうな。
でも彼にとって何物にもかえがたい出来事が最後に描かれていて、それは救いだな、と思いました。
巡礼者たち/百百百百
そんなのって……そんなのって、ないよ……!泣
終末世界で巡礼のために旅をする少女(10代〜20代?)たちの物語。
何かハッピーエンドにはならない香りがぷんぷんすると思ってたら案の定ですよ。こういうの大好物なんですよね。(←)
少女たちの会話の軽さと重さ、そして巡礼という宗教的な行動のバランス感が絶妙だった。読み応えがありました。
黒い鳥/輝井永澄
わたしはあまり馴染みのないノワール文学!
主人公が最初は夜の住人を嫌う昼側の人間かのように思えてましたが、(主人公自身は自覚がないのかもしれないけれど)しっかり夜側の人間だった。
こうして読んでいると、夜は思ったよりも自分の近くにあるし、昼と夜の境目に線は引かれていないのだろうなあと思った。
ノワール文学書けるひと、すごいなあ……。
明日をのぞむ夜/蒼山皆水
すみませんでした。「絶対これは……何かウラがあるぞ……」と疑いながら読み続けていたら、ただ心の綺麗な人しかいない心あたたまるお話でした。
心が汚れているのはわたしだった……。笑
先生が本当に良い人。現実にはいなさそうなんだけど、「ああ、こういう先生がいてくれたら学生時代楽しいだろうな」と思わせてくれる。
いままで読んだあたらよ作品のなかでいちばん希望に満ちた夜でした。
この夜を焚べる/小谷杏子
妻を殺した男とその同僚の女のロードムービー。あまりにもテンポが良すぎる逃避行。するする読める。
登場人物は主人公と同僚の男しかいないのに、それぞれの心情がありありと書かれていて、引き込まれてしまった。
人を殺すことって、思っているよりも近くにあるのかもしれない、なんて怖いことを思わされた。そのくらい、自分の隣で息づいているような小説でした。
エッセイ
絵かきのリュカとまほうのつえ/カシイトモヤ
1行目を読んで「わたしの知ってるエッセイとちゃう……」って不安になりながら読み進めていたら、徐々に「あれ……? なんか身に覚えが……?」ってなって、最後には「これ……エッセイかも……」と不思議な体験をしました。
こういう世の中になりつつあるし、わたしたちは多分リュカになりたいと思いながら小説を書いているんだなあ、と思い知らされました。
用水路/オレノグラフィティ
現実と夢の境界がわからないエッセイ。でも、この気持ちはすごくよくわかる。
わたしも田舎の実家にいる時代、不安にかられた夜に家を飛び出すことがあった。田舎なので灯りは少ない。車も少ない。ただ暗い道を、スマートフォンの明かりを頼りに歩いていく。涙を流しながら。パジャマに上着を羽織っただけで、冷たい息を吐きながら。
こういう夜が誰でも必要だし、誰でも覚えがあると思う。それを思い出させてくれたエッセイだった。
夜に読みたい夜のおはなし/齋藤明里
夜にまつわる小説を紹介してくれる本エッセイ。
著者の方が素直に語りかけてくれているような文章なので、素直に「あ、この本読んでみたいな」と思わせてくれる。
特に千早茜さんの本は積読してしまっているものもあるので、早く読みたいな、という気分にさせられました。
しずかな夜にひとり集中する読書って、かけがえのないものですよね。
匂いの夜/犬怪寅日子
夜と親しくないのに、夜の匂いが記憶に焼きついているというお話。
夜の匂いは甘くない、という一節が印象的。なんとなくわかるというか。暗がりの匂い、鉄の匂い、濡れた草の匂い。形容しがたいけれど、夜の匂いはたぶん誰の心の中にもあるんだろうなあ。
装画
よるを見にいく/出口えり
まさに「あたらよ」を想起させる絵!
夜の読書の風景でもあり、雪原のうえに現れたオーロラのようでもあり。
キャンバスの布地の掠れが、幻想的な世界を表現していて。
カッコいい装画!
挿画
夜がきた/サッサエリコ
夏のお祭りの夜なのかな?
提灯が飾られている、狛犬がいる参道のように見えます。草が茂っているので、夏かなあ、と。
ビビッドな色合いと味のあるタッチが、懐かしい夜を思い出させてくれる絵です。
対談
書いて、調べて、駆け抜けて。/馳月基矢
第一線で活躍されている小説家・馳月基矢先生とあたらよ編集長・百百百百さんの対談。
馳月先生の創作術とか創作に対する姿勢がたいへん参考になります。
読んで思ったのは、自分にあうスタイルを見つけることって大事なんだな、ということ。自分はまだそのスタイルが掴めていない感覚があるので、それまで書き続けたいなあ、と改めて思いました。
馳月先生の時代小説、読んでみよっと!
読み終わった!!!!! ついに!!!!!
お疲れ様わたし!!!!!
文芸誌を通読するって今までなかったのですが、いろんなジャンルの小説があったから少しずつ楽しく読み進められました。
次号も読みたいです。楽しみに待っています!
おわり!!!!!