那智勝浦町昔懐かし話第6話

第6話 『ハマチの釣り堀』
 
僕の書くこのシリーズには、小学生の時の事が多いがやはりその時期が一番多感で思い出に残っているからだ。今回も小学生時代の話。
 
「たけひろ、ハマチの釣り堀つれったろか。」「ほんま、いくわ。お母ちゃん、お父ちゃんハマチの釣り堀連れてってくれるって。今晩のおかずいらんで~。」「タケちゃん、あんた、いつもそう言うて釣ってきたことないやん。」「あほいえ、今日はちゃうで。いつものタケちゃんちゃうで、なんか釣れるような気がするんや。まあ、楽しみにしときなや。」「はいはい、刺身包丁研いでまっとくわ。」この僕にこの父母である。関西の親子である。会話がすでに漫才だ。
僕が生まれたのは、昭和38年だが、昭和30年代はじめ頃から40年代終わり頃までは、新婚旅行や観光旅行のブームで伊豆、箱根、熱海、南紀白浜そして勝浦と新婚さんや観光客でいっぱいやった時期である。勝浦も僕が小学生くらいの時は夕方になると浴衣を着た観光客や新婚さんが町中を行き来していた。そんな中今のバスターミナル前のM電気店の横あたりにハマチの釣り堀があった。平屋建ての小さな体育館みたいな建物の中に25メートルプール(楕円形だが)の様な、いけすがありその中にたくさんのハマチが時計回りに泳いでいた。それを、一人30分300円(子供も大人も一緒)の 料金を払い針だけ付いた竹竿で泳いでいるハマチをひっかけて釣り上げる仕組みだった。30分以内に釣り上げたハマチは、全部持って帰れる。その日もお父ちゃんに連れて行ってもらい僕は出かけた。入り口のおっちゃんに600円払って釣り竿とバケツもらって、いけすに近づいた。お父ちゃんの黒縁めがねの奥の眼がきらっと光った(ように見えた)「さあ、ハマッちゃん、かかってや~。賢いハマッちゃんかかってや~。」とお父ちゃんは、戦闘態勢に入っている。僕も負けずに戦闘態勢に。
「ハマッちゃん、かかってや~。お父ちゃんとこより、僕とこかかってや~。」しばらくしてお父ちゃんが、釣り上げた。「どうや、お母ちゃん喜ぶで~。」
30分やってお父ちゃん1本、僕は無し。そんなに簡単にハマチはかからない。ハマチも賢いのだ。帰ってその日の晩ご飯。ハマチの刺身を前にして普通のお父ちゃんやったら「ハマチは、出世魚やから、たけひろもハマチに負けんぐらい賢くならなあかんぞ」とか言うけど、うちのお父ちゃんのありがたいお言葉。「これハマチやなくてメバチマグロやったらもっとええのになぁ~。」さすが、僕のお父ちゃんや~。
                          第6話終わり
 
 


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