NHKスペシャル;「EVシフトの衝撃」
11月14日のNHKスペシャルで、EVシフトへの衝撃が報じられていました。
少し古い話ですが、ご存知のように、昨年の10月26日、当時の菅義偉首相は「2050年までに温室効果ガスの実質的排出ゼロ」とする“脱炭素社会実現”を宣言しました。また、合わせて2030年中頃までには、新車の販売はEVを基本とすることも宣言しました。
これに対して、12月トヨタの豊田章男社長は自動車工業会を代表して、「脱炭素やカーボンニュートラルは、日本の産業に大きな足枷をはめるものであり、菅政権の打ち出した政策は、日本の産業を弱体化させ我が国を三流国にしてしまう」という悲痛な叫びを上げました。
NHKスペシャルでは、ドイツの事例を紹介していました。EV化の推進に依って、160万の労働者のうち30万人ほどが仕事を失うというレポをしていました。翻ってみると、日本では約550万人の方が自動車及びその関連産業にて仕事をされています。どのくらいの方が影響を受けるのでしょうか?
また、これは自動車業界だけの問題ではなく、日本の産業構造全体に係わるもので、実現の苦しさ、政策の問題点を説明していました。
いくらEV化して、EVを走らせても、石炭、石油、天然ガスから発電していたのでは、CO2の排出は止まりません。上流の発電から変えていかなければ、絵に描いた餅だということです。
トヨタ社長の叫びを箇条書きにすると、以下のようになります。
① 400万台をすべて電動化(EV化)すると、夏の電力ピーク時には電力不足になる。そのためには、発電能力を10~15%増加させなければならないが、原発を10基乃至は火力発電所を20基増設しなければならない。
② すべてEV化したときの充電インフラの設備費は37兆円までにもなると推定される。自宅でのアンペア調整に10万円~20万円、集合住宅なら50万円~150万円、急速充電機には600万円が必要である。
③ EVの生産段階で色々な問題が生じる。第一に、電池の供給能力を現在の30倍以上に上げていかなければならず、2兆円程度の投資が必要になる。また、EV完成時の検査で充放電を行うが、EV1台の充電量は1住宅1週間分の電力に相当するので、年産50万台の工場では、日当たり5000軒分の電気の充放電を行っていることになる。
④ 一方で、火力発電所を20基増設して大量のCO2を排出し、他方で日当たり5000軒分の電気を充放電している。政治家や官僚は、2050年カーボンニュートラル宣言が、こういう苦境を産業界に与えることをこういう事態が訪れることを十分に検討したのか?!
一方、中国は「中国製造2025」を当面の産業目標に各種事業を進めています。また、CO2排出のピークアウトを2030年、ゼロエミッション年を2060年と打ち出しています。そうすると、中国は、かなり長い間CO2を排出し続けるわけです。
日本の8~10倍程度、世界の 1/4ものCO2を排出している国です。日本がどんなに頑張って、身を削るような努力をしてCO2排出を削減しても、お隣さんは「製造2025」の実現のために、エネルギーをボンボン消費し、CO2を排出し続けるという図式を描くことが出来ます。
全体を見れば、日本の努力は何の効果もないということになります。現在年間5兆円、今後はそれ以上の投資をしてCO2を減らそうとしています。製造メーカーとしては、生き残っていくためにやらざるを得ず、それで、確かに技術力はつくのでしょう。
結果はこんなところなんででしょう。最悪のコスパとでも言えることを進めようとしているのではありませんか?我が国には、国防、貧困の問題、教育、国土強靭化対策(防災、治水対策など)、産業戦略・政策(半導体など)など、コストと結果の関係が見える、apple to appleの課題が沢山あるように思われます。優先順位を見直すべきではないでしょうか?